第62話 作戦開始
俺達が駆け出すと同時に、デイル達も俺達の方へ向かってくる。
昨日、皆に話した作戦通りに、俺達は動き始めた。
まず攻撃し始めたのは、デイルではなく配下の方だ。十、二十……おそらく四十人は居ると思われるが、昨日の戦いを経て、騎士団の二人も加わった状態の俺達だ。
絶対に負けるわけにはいかない。
「はあああっ!」
槍の切っ先に炎を纏わせ、そのまま配下達を傷付けていく。
「レノン! 後ろ!」
俺が背後を振り返るよりも早く、俺を背後から攻撃しようとしていた人喰い鬼が、水を纏った矢に刺されて地面に倒れる。
「フロラ……! ありがとう」
飛び上がり、人喰い鬼を倒してくれたフロラは地面に着地すると、トンと俺の背中に自分の背中を当ててきた。
「これくらい、朝飯前よ!」
背中合わせになった俺達は、息を合わせて互いから離れ、再び人喰い鬼達の群れへと飛び込んでいく。
俺は炎の槍を、フロラは水の弓矢を敵にぶつけ、次々に周りの人喰い鬼達を撃破していった。
ウィンディーは風魔法で竜巻を起こし、それで巻き上がった人喰い鬼達をリッターさんとシュヴァリエさんが飛び上がって斬っていく。
ラルヴァとビアンカは鬼騎士達に混じりながらも、二人で協力して人喰い鬼達を撃破していた。
遠目から見る限り、ビアンカは主に防御面で活躍しているようだ。人喰い鬼の剣撃を白い盾で受け流し、それをラルヴァが細剣で斬る。そんな戦い方をしていた。
なお、人喰い鬼達のボスであるデイルの方をちらりと見ると、呆気に取られたような顔でポカンと口を開けていた。
当然と言えば当然だろう。迎え撃つはずだったニンゲン達が全員、自分を差し置いて配下の方を一斉に攻撃し始めたのだから。
本当ならデイル自身も加勢したいところだろうが、彼は動かなかった。
俺達が危惧していたこと、リッターさんの言っていた『失敗』はこのことだった。
俺達が一斉に人喰い鬼達を攻撃し始めたとたん、そこにデイルも加勢してきては、昨日の戦いと何ら変わりがなくなってしまう。
だからこそ、万が一のことが起こっていないことに、俺は密かに胸をなでおろしていた。
デイルも俺達の前で啖呵を切っていたとはいえ、二日連続の戦闘だ。デイルの体力も消耗しているはずだし、人間の捕食は俺達がさせていないため、その体力を補うものさえない。
勿論戦いで疲れた昨日でも、俺達は見張りをやめていなかった。俺とラルヴァの二人で、村を見回り、デイル達が村の皆を喰うことがないようにしていたのだ。
ひょっとしたら仲間を食べたりしているかもしれないが、そこは見逃すとして。どうせ、今日でデイルの命は終わるんだ。
昨日のうちに何人か人喰い鬼を食べてくれていれば、俺達が討伐する人喰い鬼の数も減って一石二鳥だ。
あくまでも全て俺の推測であり、本当のところは分からないが。
――人喰い鬼の数も大分減ってきた。おそらく、半数は撃破できたと思う。あともう少しだ。
「皆、ラストスパートだ! 頑張ろう!」
皆に声かけをしつつ、俺も槍を振り回す速さと走る速さを速めていく。
デイルが置いてけぼりにされたことに腹を立て、襲いかかってきてしまっては元も子もないからだ。
早く配下達を全滅させて、デイルも一斉に叩かなければ。
すると、
「行くぞ、ビアンカ」
「はい、ラルヴァさん!」
ラルヴァとビアンカが互いに頷き合ったかと思うと、天に両手を掲げた。それを合図に空には黒い雲が現れ始める。明らかに天候が崩れたのだ。
――まさか。
俺の頭を、一つの考えがよぎった。
人喰い鬼達を一掃できる、最も手っ取り早い方法を。
「皆、配下達から距離を取って!」
俺の言葉を聞いた皆は、反射的に俺の言う通りにしてくれる。
「「はあああっ!!」」
二人が声を張り上げると、金色の稲妻が黒い雲の隙間から降ってきた。
金色に輝く落雷はデイルの配下達に容赦なく降り注ぎ、瞬時に彼らを絶命させていったのだ。
「ありがとう! 二人とも!」
俺が嬉しくなって礼を言うと、ビアンカは嬉しそうに微笑み、ラルヴァは『礼など要らん』と言わんばかりに眼鏡を上げ直した。その口元に、僅かに誇らしげな笑みが浮かんでいたのを、俺は見逃さなかった。
「なっ……! 昨日と今日で終わらせるつもりで、総動員させたというのに……!」
遠くから、デイルの声が聞こえてきた。
俺達は頷き合うと、デイルの方へと走っていく。目を見張り、広げた掌をワナワナと震わせている人喰い鬼をまっすぐ見据え、俺は言い放つ。
「デイル! お前もすぐに配下のところに送ってやるよ!」
――そう。これが、俺が皆に提案した作戦だった。
最初に配下の人喰い鬼達を攻め落とせば、デイルが後で体力の回復のために喰うことも出来なくなるし、デイル一人を俺達全員で倒すことができる。
勿論、考えられるリスクなどはたくさんあったが、幸運に幸運が重なって無事に作戦の半分を終えることができた。あと半分は言うまでもない。人喰い鬼の頭であるデイルの討伐だ。
「覚悟しろ!!」
俺達は一斉にデイルに向かって走り出した。
「くっ……! こしゃくな真似を……! はあっ!」
「させません!」
歯軋りし、両手の掌を突き出して青白い稲妻を放つデイル。ビアンカが素早く前に出て、それを白い盾で完璧に防ぎ切ってくれた。
「なっ……!」
自分の攻撃が防がれたことに、目を見張って驚くデイル。
俺達を守ってくれたビアンカの横を、二人の騎士が駆けていった。
「シュヴァリエ、まだいけるかい?」
「勿論です、騎士団長。……心配し過ぎですよ」
お互いに信頼のこもった掛け合いをしてから、リッターさんとシュヴァリエさんは挟み撃ちする形でデイルの両側に回り込む。
「なっ……! く、くそっ……!」
配下を引き連れていた時の威勢はどこへやら。デイルは騎士二人に両側を阻まれただけで、左右を見渡して焦っている様子だ。
「一気に――」
「いきます!」
そのかけ声を合図に、二人の姿が消える。否、目にも止まらぬ速さでデイルを斬りつけたのだ。
「ぐわああっ!」
デイルのお腹と背中から、鮮血が飛び散った。




