第61話 惨敗を経て
「おおっ! フロラ! レノン! それに皆も! 無事で良かったぞ!」
小屋に戻った俺達を、ヒルス村長を始めとする村の皆が出迎えてくれた。特にヒルス村長は目尻に涙を浮かべて手を広げ、フロラをその胸に抱き寄せると、その肩を震わせた。
「お父様、実は――」
フロラは浮かない表情で目を伏せ、今日の戦いで何があったのかをヒルス村長に伝えてくれた。
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「――そうか。ドラコスとあの小鬼達が……」
フロラの口から事情を聞かされた騎士団長のリッターさんは、シュヴァリエさんが横たわっているベッドの側の椅子に腰をかけたまま、その凛々しい表情を曇らせた。
すると、ベッドに横たわるシュヴァリエさんも悔しげに唇を引き結んで、
「申し訳ありません。あの時、私がデイルに勝てなかったばっかりに、騎士団長をここに留めてしまったから」
「謝らないでください。シュヴァリエさんは悪くないですよ」
ビアンカの言葉にハッとしたシュヴァリエさんは、それでも首を横に振る。
「で、ですが――」
「あなたが体を張って、気を失う最後の最後の瞬間まで私を守ってくださらなかったら、私までこの場に居なかったかもしれません」
ビアンカは悲しげに目を伏せ、さらに言葉を紡ぐ。
「ドラコス王やオグルさん、オグレスさんを亡くしてしまったのは悲しいです。出来ることなら死んでほしくありませんでした」
「でもドラコス王は私とラルヴァさんに『生きてくれ』って仰いました。だから、私を生かしてくださってありがとうございます、シュヴァリエさん」
言いながらも、ビアンカの口元に笑みが現れる。
そんな姿を見て、シュヴァリエさんは目を見張って驚きつつ、
「ビアンカ……。ありがとうございます、皆様。責められる覚悟は出来ていましたが、まさか感謝されるなんて思ってもおらず……。明日の戦いでは、私も精一杯尽力させて頂きます」
リッターさんに支えられながら上体を起こし、シュヴァリエさんは俺達を見回して頭を下げた。
「そ、そんな、無理しないでください!」
「そうですぞ、副騎士団長殿。まだ傷も完全に塞がってはいないでしょうし」
フロラとヒルス村長――ブリランテ親子に慌てて止められても、シュヴァリエさんは笑みを浮かべるだけだ。
「それでも、戦える人間が増えることに越したことはありません。皆様の足を引っ張らないようにします」
「シュヴァリエ……。分かった。君の意思を尊重しよう」
「騎士団長。ありがとうございます」
リッターさんの即決にはその場にいた俺達全員も驚いたが、町の騎士団の中でずっと一緒にいた二人だ。
きっと、リッターさんにも何かしらの考えがあるのだろう。
俺がそう思っていると、ヒルス村長が口を開いた。
「それでまずは明日の戦いに備えての作戦だが、デイル一人で攻めてくるのか?」
「流石にデイルもそんな無謀なことはしないと思うわ、お父様。人喰い鬼がどれだけいるのかあたし達にも分からないけど、今日戦った数が全てじゃないと思う」
「俺も同意見です、ヒルス村長。デイルはまだまだ自分の配下を従えているはずです」
ヒルス村長の問いかけにフロラと俺が答えると、リッターさんが確認してきた。
「デイルはオグルとオグレスを殺して、自分の攻撃力回復のための媒介にしたんだよね」
「はい。あいつの言葉が本当なら、敵を殺すと攻撃力などの戦力が回復して、仲間を食べると体力が回復するみたいです」
「なるほどね……。ということは、下手にダメージを与え過ぎていると回復されちゃうわけだ」
顎に手を当てて納得するリッターさんに、シュヴァリエさんがさらに言葉を重ねる。
「回復の隙を与えずに、かつ高速でデイルを消滅させる必要がありますね」
「うん、そうだね。……まず、デイルの戦法を洗い出しておきたい。デイルと戦ったレノンくん達の中で、具体的に奴がどんな戦い方をしてきたか、言える人はいるかい?」
リッターさんが俺達全員を見回すと、ラルヴァがスッと手を挙げた。
「奴は俺達と同様に雷魔法を使えていた。それがオグルとオグレスを殺して媒介にしたことで、さらに強化されたと見ていい」
「小鬼だったとは言え、オグルさんもオグレスさんも普段から身体を鍛えておられました。そんなお二人をあっさりと殺したほどですから、爪の鋭さや腕力の強さも相当なものかと思われます」
ラルヴァに続き、ビアンカも手を挙げて人喰い鬼デイルの戦法について語った。
リッターさんは鬼族二人の意見に冷や汗をかきながら、
「人間態の時はご老人だったのに、本来の姿に戻ると腕力とかも年齢に関係なくなるってことなのかな。厄介だね」
「自分達が生きるためにニンゲンを喰っていた種族だからな。あれほどの力があるのは当たり前のことだ」
ラルヴァはさも当然と言わんばかりに眼鏡を上げ直し、筋肉質の腕を組んだ。
「リッターさん」
「うん? どうした? レノンくん」
リッターさんが俺の方に顔の向きを変えてくれる。俺は頷いて、自分の考えを口にした。
「今日はデイルを相手にする組と配下達を相手にする組で分かれて戦ったんですけど、それでこのザマなので戦い方を変えたいと思ってて」
「確かに今日と同じ戦い方じゃ、勝てる見込みは少なくなるね」
「だから、こういうのはどうでしょうか」
最終的には惨敗したと言ってもいい結果になったが、今日デイル達と戦ったからこそ、見えてきたものだってある。俺はそれを踏まえた戦法を皆に伝えた。
一通り、俺の考えを聞き終えたリッターさんは、顎に手をやってしばらく考え込んでいたが、すぐに顔を上げた。
「――相手がどう出てくるかにもよるけど、試してみる価値はありそうだね。失敗した時のために戦い方を二パターン考えておこうか」
リッターさんの言葉に、俺は力強く頷いた。
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そして翌朝。早くから起きて最終決戦への準備を終えた俺達は、依然として小屋の中にいた。
「――皆、準備はいいね」
指揮を執るのは、町の騎士団長としてこういうことにも慣れているであろうリッターさんだ。
「レノンくんの作戦通りにひとまずやってみるつもりだ。死ぬ覚悟はもって、でも死ぬつもりで戦ってほしくはない。それだけは皆の心に留めておいてくれ」
「「「はい!!」」」
リッターさんの言葉に俺達は力強く返事をして、意を決して小屋の外に出た。
「来たか、ニンゲンども」
外ではやっぱりデイルが昨日と同じくらい、下手したらそれ以上の数の人喰い鬼達を引き連れて待ち構えていた。
「皆で絶対にデイルを倒そう。最期に後悔のないように、俺達の力を出し切るんだ」
フロラ、ウィンディー、リッターさん、シュヴァリエさん、ラルヴァ、ビアンカ、残った鬼騎士達と一列で並び、その中央に俺は立つ。
ほぼほぼ自分に言い聞かせているようなものだが、ふぅと息を吐いてからデイル達人喰い鬼をまっすぐに見据えた。
「――今日でこの戦いを終わらせる。皆で行くぞ!!」




