表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
59/72

第59話 鬼王ドラコス

「お、王‼︎」

「ドラコス王!」


 ラルヴァは弾かれたように走り、地面に横たわる小鬼を抱き上げる。

 そしてラルヴァが抱き上げたドラコスを見下ろし、水色の瞳に涙を溜めるビアンカさん。


 俺もラルヴァに続いてドラコスの元へ駆け寄り、地面に膝をついてドラコスを見下ろす。ドラコスの胸元には黒い煤のような痕が出来ており、そこから赤黒い血液が止めどなく流れていた。

 ラルヴァの稲妻がその部位に貫通したことを嫌でも思い出させる。


「は、ははっ……。な~に、へっちゃらだ」


「も、申し訳ありません! 王! 王を撃つつもりなど毛頭――」


「大丈夫だ。そんなこと、分かっておるに決まってるじゃないか」


 自分の行いを悔いるように唇を噛み締め、顔を伏せるラルヴァに、ドラコスは口角を上げて応えた。それと同時に口内から血筋が伸びる。


「ドラコス王! 私のために申し訳ありません!」


 声を震わせて泣きながら、ビアンカさんは頭を下げた。それにドラコスはゆっくりと首を横に振って、


「気にするな……。妾がしたくて、やったことだ……」


「で、ですが――」


 ラルヴァがさらに言葉を紡ごうとしたところで、気怠げな声が落とされた。


「茶番は後にしてくれんか。まぁ、後回しにした場合、貴様らの命は無いんじゃがな!」


 声の主――デイルは目を見開き、身体を貫かれたドラコスの姿に涙を流すラルヴァとビアンカさんに向かって、オグルの短剣を振り下ろす。


 俺は素早く間合いに入り、デイルが上から振るった短剣を槍で受け止めた。


「レノン……。何の真似じゃ?」


 一度に三人も鬼族を仕留められて、心底ラッキーだなどと考えていたのだろう。不敵な笑みを浮かべていたデイルが、訝しげに眉を寄せた。


「させるか……! せっかくのひとときを、お前なんかに邪魔させない!」


 ラルヴァやビアンカさんの方を振り返ると、ビアンカさんはまだしもラルヴァまでが、いつになく不安そうに俺を見上げて不自然に眉を寄せていた。


 ――泣いていいんだぞ、こんな時くらい。


「――――っ!」


 俺は三人に向かって頷くと、槍でそのままデイルを押しきり、三人から遠ざけた。


「あたし達のこと、忘れてないよね⁉︎」


「私も、相手になります!」


 デイルの持つ短剣や銃を槍で受け止め、仕返しの攻撃を加えていると、フロラとウィンディーも走ってきて、俺に加勢してくれた。


「フロラ、ウィンディー……!」


 俺に向かって頷く二人に頷き返し、俺はデイルに向き直って槍を振るった。


「俺達が相手だ! デイル‼︎」



 ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※



 妾達三人をまとめて始末しようと目論んでいたデイルを、レノンやフロラ、ウィンディーが阻止してくれた後。

 妾を抱き上げているラルヴァは、なおも眼鏡の奥の瞳に涙を溜めて妾を見下ろしている。


「王……! 本当に……何とお詫びしていいか……!」


「今からでも遅くはありません! 止血を――」


「無駄だ」


 妾はむせび泣くビアンカの声を遮るが、それでもラルヴァが間髪を入れずに指示を出す。


「頼む、ビアンカ」


「は、はい!」


 ビアンカは妾の言葉を聞いて行くか否かを迷っていたようだが、ラルヴァに指示を出されると弾かれたように村の小屋の方へ走っていこうとする。


「ラルヴァ、ビアンカ……」


 妾は二人を引き留め、言葉を紡ぐ。


「お前達と初めて出会った時のこと、今でも鮮明に覚えておるぞ。二人とも幼くて未熟で……実に実に愛おしかった……」


 妾の言葉を聞いたビアンカが立ち止まり、走る方向を瞬時に変えた。妾のところへ戻ってきてくれたのだ。


「ドラコス王、ありがとうございました! 私を、両親に捨てられてデイルに喰い殺されるはずだった私を救って、鬼として大切に育ててくださって……! 本当に……!」


 何度も何度も頭を下げ、ビアンカは妾に礼を述べてくれる。そんな彼女を叱ったのは、目尻に溜まった涙を拭うラルヴァだった。


「ビアンカ、何をしている! 早く止血用の道具を!」


「ラルヴァさん、ドラコス王はもう――」


「諦めるな! まだ、まだ間に合う!」


 いつもはラルヴァの命令に逆らうことのないビアンカが、今回はしっかりと逆らった。ビアンカは自分よりも座高の高いラルヴァを見上げて、


「ドラコス王の死に目にまで会えないのは嫌です‼︎」


「――――――!」


 ラルヴァが息を呑んで口をつぐんだのをきっかけに、ビアンカはさらに言葉を紡ぐ。


「両親の命の火が消えるところをこの目で見られなかった……。両親の最期を、見届けてあげられなかった……。だからせめて、ドラコス王の……『お父様』の最期はちゃんと看取りたいんです‼︎」


「ほぉ……、妾を『父親』と思ってくれるのか……」


 ビアンカは鼻をすすりながら頷いて、


「だって、私を育ててくれたのは、愛情をたくさん注いでくれたのは、あなたですから」


「嬉しいなぁ、えへへ……」


 ビアンカの口から初めて告げられた、妾を父親と思っていた気持ち。それを知ったとたん、急に身体中の力が抜けていくような感覚に襲われた。


「王!」


 それを引き留めてくれたのは、ラルヴァの叫び声だった。

 妾は何とか意識を保ちつつ、


「ラルヴァ、気に病むでないぞ。お前は……仲間を守るために最善の行動を取った……。それに妾が横槍を入れただけだ……」


「そんな……そんなことはありません……!」


「お前はいつも……妾に忠実でいてくれたなぁ……。いつだって、妾の隣にはお前がいた。それだけで、妾はすごく幸せだったんだぞ……」


 妾の言葉を聞いている間も、ラルヴァは何度も首を横に振っている。


「駄目だ、ビアンカ! 早く止血を!」


「無意味なことをするでない……。お前達にはまだ、責務が残っているであろう?」


「せき、む……?」


 ラルヴァの声が震える。


「ああ。人喰い鬼デイルの討伐だ。そのために……妾達は人里まで降りてきたのだからな……。それが達成されなければ……本末転倒だ……」


「し、しかし――」


「もう……妾の延命は不要だ。その分……お前達はこれからも生きてくれ。ニンゲンと……レノン達と仲良く……」


「王!」

「ドラコス王!」


 再び遠のいた妾の意識を、ラルヴァとビアンカが引き戻してくれる。妾は最期の力を振り絞って、『願い』を口にした。


「デイルを倒せたら……それだけで妾の本望だ……。せっかくの縁を切らず……大切にしてほしい……」


 他種族との縁を大事にしようとした結果、人喰い鬼族達と仲違いをすることになり、鬼族の方にも人喰い鬼と同じ『人を喰う』というイメージが植え付けられてしまった。

 そのため、ニンゲンとの縁も切らずを得なかった。


 それが、妾の失点であり反省点だ。


 願わくば、もう二度とそんなことがないように……。


 レノン達のおかげで、妾達鬼族の誤解は解けた。この機会を、未来に繋げてほしい。妾のように他種族との縁を切らずに済むように。


 ―――ラルヴァ、ビアンカ、鬼騎士団。


 お前達だけは、これからもずっとニンゲンと絆を深めていってくれ。


「ラルヴァ、ビアンカ、騎士の皆も……。お前達は……妾の最高の部下だったぞ。ありがとう……。妾はいつまでも、お前達を愛して――」


 身体中から熱が引いていき、氷のような冷たさがやってくるのを感じながら、妾は静かに目を閉じた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
cont_access.php?citi_cont_id=162470520&s
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ