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第58話 貫いた稲妻

「お、おのれ……! 揃いも揃ってわしを馬鹿にしおって……! 貴様らこそ、わしに歯向かったことを後悔するがいい!」


 デイルは両手の拳をギリギリと震わせながら握りしめると、目をカッと見開いて近くに落ちていた短剣と銃を拾い上げ、胸の前で構えた。


 短剣と銃――いずれも、オグルとオグレスが愛用していた武器だ。


 持ち主が死んだのをいいことに、自分の身を守るために横取りするなんて……!


 ふつふつと、燃える炎のような怒りが俺の胸に湧き上がってくる。


「お前が……二人の武器に触るなああぁぁ‼︎」


「黙れ‼︎」


 デイルの叫び声と同時に、銃口が火を吹く。それも何十発も止まることなく銃弾を撃ち込んでくる。

 俺達は弾かれたように左右に分かれて銃弾を避け、そのままデイルの方へと突っ走った。


 それでもデイルの発砲は止まらない。

 俺達を追跡するかのようにひたすら銃口を向けて撃ってくる。


 俺は自分達に向かって放たれた銃弾を、槍で素早く振り払った。


 後ろを走るフロラの武器は弓矢なのだが、遠距離攻撃には最適でも防衛手段としてはうまく機能しない。ウィンディーだったらもしかすると風魔法で銃弾を薙ぎ払えたかもしれないが、先頭を走る俺が全部振り払った方がいい。


「ビアンカ! 鬼騎士ども! 奴を挟み込んで一斉攻撃だ!」


 闘気を奮い立たせるような、ラルヴァの声。


「はい!」


「「「うおおおおおぉぉぉ‼︎」」」


 ビアンカさんは純白の剣と盾を構え、鬼騎士達は自分達の武器を振り上げてデイルへと飛びかかっていった。


「くそっ、この野郎ども……!」


 デイルはビアンカさんと鬼騎士達に囲まれたことに気付くと、すぐさま俺達への発砲を中断してその標的を彼らに移行した。


 だが、遅い。


 ラルヴァの命令を合図に、ビアンカさんや鬼騎士達は一斉にデイルを総攻撃している。

 四方八方を塞がれて逃げ場のない状態のデイルだが、何とか短剣と銃を駆使して攻撃を防いでいるようだ。


 デイルが手近の標的に集中してくれた分、俺達としてはありがたい。遠距離からの不意打ちが可能となるからだ。


「フロラ! ウィンディー!」


「うん!」

「ええ!」


 名前を呼んだだけで俺の意図を読み取ってくれたのか、二人は力強く頷いた。

 そしてフロラは水魔法をたくさん溜めた矢をセットして弓をキリキリと引き、ウィンディーは空中で腕を振り切って風の刃を作り出す。


 俺も二人に遅れを取らず、槍の先端に纏わせた炎で火炎玉を作った。

 あとは、各々の攻撃を同時にデイルへと放てば、確実にダメージを与えられるだろう。


「みんな伏せてくれ!」


 俺の叫びに応じてくれた鬼族の皆は、一斉にデイルから離れる。


 囲まれていた八方塞がりの状態からいきなり解放されたデイルは、何が何だか分からないといった風に辺りを見回して困惑していたが、悟らせる暇など与えない。

 デイルが眼前--自分に向かって放たれようとしている三つの攻撃の根源に目を見張るより早く、


「「「はあぁぁっ‼︎‼︎‼︎」」」


 掛け声と同時に、俺は炎玉を、フロラは水矢を、ウィンディーは風刃をデイルへと放つ。


「グワアアアァァァァッ!」


 デイルは痛みに声をあげて、両手を広げて大の字になって仰向けに倒れた。


 その瞬間、鬼騎士達の間からわっと歓声があがった。

 ラルヴァはすましたように眼鏡をクイっと上げ、ビアンカさんは胸の前で組んだ両手をキュッと握りしめ、ドラコスは満足げに何度も頷いている。


「よしっ!」


 小さくガッツポーズを決める俺へ、興奮したフロラが抱きついてきた。


「やった! 倒せたよ、レノン!」


「ええ、今の攻撃はちゃんと決まったと思うわ」


 俺の首に両腕を回してぴょんぴょんと飛び跳ね、念願の人喰い鬼討伐を果たすことが出来た喜びを、感情のままに表現するフロラ。そんなフロラを、そして彼女に抱きつかれて顔を真っ赤にしている俺を微笑ましそうに見つめながら、ウィンディーも顔をほころばせた。


 ここにいる全員――人間と鬼族の両方が、勝利を確信していた。


 その時だった。


「わしの攻撃対象が、貴様らだけだと思うなよ……!」


 ピクッと大地に寝かせた両腕を痙攣させ、傷だらけの人喰い鬼の老体が起き上がる。


「なっ……! まさか、死んでなかったのか⁉︎」


 俺は急いで槍を構え、この先に来るであろうデイルの攻撃に備える。さっきの一撃でありったけの魔力を詰め込んだから、槍を介した炎魔法の攻撃は不可能かもしれないけど。それでも――。


「はあぁっ!」


 デイルはしわがれた声を張り上げると、無数の青白い稲妻を両の掌から放出した。

 それらは眩い光を帯びながら、村の、俺達の家がある方向へと飛んでいく。


「まず――」


 まずい。

 そう声をあげるよりも早く、青白い稲妻はすんでのところで防がれた。


「くうっ……!」


 人喰い鬼の稲妻から村を守るべく、力を振り絞る少女。


「ビアンカさん!」

「ビアンカ!」


 俺とラルヴァは同時に声をあげる。


 少女――ビアンカさんが、白い盾を両手で持って、デイルの稲妻を防いでくれたのだ。


「また邪魔をするのか、このニンゲンが!」


「ぐっ! がっ!」


 デイルはビアンカさんの首根っこを掴んで引き上げると、宙でさらに彼女の首を強く締め付けた。

 そして何を思ったかその手を離してビアンカさんを地面に落とし、また後頭部の方から首根っこを掴む。ビアンカさんの首を掴んでいない右手の拳を握って振り上げると、それをビアンカさんのお腹に強く叩き込んだ。


「がっ! うっ! はっ!」


 ビアンカさんはお腹を何発も殴られ、苦しそうな呻き声をあげる。


「やめろ‼︎」


 ラルヴァが金色の稲妻を掌から発射するが、それが背中に当たるよりも早く、人喰い鬼が動いた。

 クルッと体ごとこちらに回転させ、その左手に掴んでいるビアンカさんの体を前にやる。まるで、自分自身を守る盾にするかのように。

 必然的に、金色の稲妻の矛先が変わる。


「なっ……!」


「させるか!」


 目を見開き、けれど逆に硬直してしまって稲妻を回収することにまで頭が回らないラルヴァの横を、黒い小鬼――ドラコスが突っ切る。


「っぅ、ぁぁ――」


 殴られたお腹の痛みと一時的ではあれども首を絞められた苦しさのせいだろう、虚ろな光しか写らない水色の瞳を弱々しく開くビアンカさん。

 その彼女へ迫る仲間の稲妻。


 一方、誰よりも早く動いたドラコスは、金色の稲妻の行先まで回り込む。

 そして。


 黒い小鬼の小さな身体を、眩い金色の光を放つ稲妻が貫いた。

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