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第52話 ビアンカの気持ち⑤

 レノンさん、フロラ、ウィンディーさん、ドラコス王、ラルヴァさん、オグルさん、オグレスさん、鬼騎士の皆さん……。

 私は皆さんが必死に人喰い鬼デイルの一味と戦っているところを、小屋の出入口のところから見ていることしか出来なかった。

 直前の訓練でラルヴァさんを庇って負傷したのが仇となってしまった。

 もしも、私が怪我をしなければ私も皆さんに助力出来ていたのに。

 そう思うと、悔しさと情けなさで胸がいっぱいになる。


「ビアンカ……?」


 私の腕を自分の肩に回して私の体を支えてくださっている副騎士団長のシュヴァリエさんが、私の顔を覗き込んできた。

 私が俯いたのを、不思議に思われたのだろう。


「あっ、いえ、何でもありません」


 ただ名前を呼ばれただけなのに、反射的にそう答えてしまった。これでは何かあると暗に言っているも同然だ。


「あなたには、託された役割があるでしょう。落ち込む前に、あなたの役割を果たしてはどうですか」


 怒っている風でもなく、笑顔で言っているわけでもなく。ただ無表情で目の前の戦場を見つめながら、シュヴァリエさんが言った。


「えっ……?」


 シュヴァリエさんは赤色の瞳を丸くして、意外そうな表情で私の顔を覗き込んで、


「違いましたか? 自分は何も出来ないから、と落ち込んでいるのかと思ったのですが」


 私は、小さく頷いて答えた。恥ずかしくて情けなくて、シュヴァリエさんの顔は見れなかった。


「じ、実は正解です。でもシュヴァリエさんの言葉を聞いて、目が覚めました。私にはラルヴァさんに頼まれた役割があります。ちゃんとそれを果たして、皆さんに助力します」


「あなたの仲間も喜んでくれると思いますよ」


「それにしても、あなたはまるで人間ですね。表情が豊かだし仲間思いで、自分の短所もちゃんと分かっている」


「えっ……!」


「すみません、人間と一緒にしてほしくないですよね。鬼にだって仲間を思いやる気持ちはある。あなたを見ていて、そう感じました」


「シュヴァリエさん……」


 今まで私達鬼族に対して一番敵意を持っていて、ドラコス王のことも斬ろうとしていたシュヴァリエさん。そんな彼女が、私を見て鬼族への評価を改めてくれた。

 それが純粋に嬉しくて、私は思わずシュヴァリエさんの名を口にする。


 今まで少しだけ頬を緩めていたシュヴァリエさんは、不意にキュッと唇を引き結ぶと正面の戦場を見据えた。


「お喋りはここまで。あなたの仲間を援護してあげてください」


「はい!!」


 シュヴァリエさんの言葉に頷き、正面を見た途端。ラルヴァさんの背後から人喰い鬼が二匹飛びかかっていっているのが目に入った。


「ラルヴァさん!」


 私の大声に素早く反応し、ハッと後ろを振り返るラルヴァさん。でも剣を後ろまで持ってきて振るうとなると時間がかかる。きっと人喰い鬼が飛びかかってくるまでには間に合わないだろう、

 私は咄嗟に人喰い鬼二匹に向かって雷魔法を放ち、彼らを攻撃してラルヴァさんを守ることに成功。私の雷魔法で撃たれた人喰い鬼二匹は、運良くも一撃で気を失ってくれた。


「ありがとう、ビアンカ。助かった」


「は、はい!」


 ラルヴァさんが初めてお礼を言ってくれた……!


 私が喜んでいたのも束の間だった。


 ウィンディーさんが起こした風で巻き上がったデイルが、レノンさんとフロラの挟み撃ちでの攻撃によって吹き飛ばされ、こちらの方にバタリと落下してきたのだ。

 デイルは腕を震わせながら身を起こし、顔を上げる。運悪く、顔を上げたデイルと私の視線が合ってしまった。


「ハァ、ハァ……クソゥ! 喰わせろ! 喰わせロォォォ!!」


 デイルは血管が見えるかと思うほど目を見開いて血管が浮き出た手を広げ、地面に爪を立てて這っていき、シュヴァリエさんと私の方へ近付いてきた。


「くっ……!」


 シュヴァリエさんが唇を噛みしめ、私を背後に庇いつつ双剣のうちの一振りを構える。


「ビアンカ!」


「シュヴァリエ!」


 ラルヴァさんと騎士団長のリッターさんが同時に叫んだ。でも、シュヴァリエさんは慌てる様子も見せずにはっきりと言い切る。


「大丈夫です、騎士団長。ビアンカは私が護ります」


 シュヴァリエさんはそう言うと、私を支えたまま一度小屋の中へ戻った。そのまま私をベッドの上に下ろして『ここで待っていてください』と一言。

 私が返事をしようと口を開きかけた時には、シュヴァリエさんは双剣を両手にデイルへと迫っていっていた。


「この……っ、汚らしい人喰い鬼め! 貴様らに喰わせるものなどここには何一つない!」


 肉を裂く音とともに、シュヴァリエさんの声が聞こえる。

 開きっぱなしの扉から外の様子を見てみると、シュヴァリエさんが双剣を振るってデイルを倒そうとしてくれていた。


「喰わせろ……! 喰わせろォォォォ‼︎」


 背中、胸部、腹部……。あらゆるところを斬られてもなお立ち上がり、デイルはよだれまみれの口を開いてシュヴァリエさんに飛びかかっていく。

 それをシュヴァリエさんは身をよじって避け、さらに双剣で斬りつけたりしていたのだけど____。


「ウガアッ!」


「なっ……!」


 背後から飛びついた、デイルとは別の人喰い鬼が、シュヴァリエさんの左肩に勢いよくかぶりついた。

 それを好機と見て、デイルもすかさず正面からシュヴァリエさんの細い身体に飛びつき、右肩に牙を立てる。


「うっ……!」


 両肩を相次いで噛まれ、シュヴァリエさんはよろめきながらも両足を踏ん張って倒れない。


「この……人喰い鬼が……っ!」


 背中とお腹に二匹の人喰い鬼が飛びついているため、なかなか腕を上げられず剣を振るえないシュヴァリエさん。

 デイルはそんな彼女を恨めしそうに睨みつけ、


「煩わしいニンゲンがァ! 貴様など喰い殺してやるわァ!」


「うぐっ!」


 シュヴァリエさんに飛びついて右肩にかぶりついたまま彼女の首を掴むと、思いっきり身を回転させてその勢いでシュヴァリエさんを吹き飛ばした。


「うっ‼︎」


 シュヴァリエさんは私がいる小屋の外壁に背中を打ちつけ、血を吐いて倒れてしまった。

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