第50話 訓練でついた自信
皆で作戦会議を終え、フロラを励ました翌日の早朝。
リッターさんの宣言通り、俺達人間とドラコス達鬼族との合同訓練が行われた。
俺とフロラが対峙しているのは、鎧を纏ったラルヴァとビアンカさんだ。
ビアンカさんは今回が初参加だから緊張しているのだろう、表情を強張らせて唇を強く引き結んでいる。
ちなみにウィンディーは第二ラウンドで俺と一緒に戦い、第三ラウンドでは俺とラルヴァvsフロラとウィンディーというトーナメントになっている。
流石に小鬼達と戦うのは酷だということで、オグルとオグレスとドラコスは三人で戦うことになった。
……といっても、状況を横目で見る限りは、ドラコスがオグルとオグレスを追い回して楽しんでいるようにしか思えないのだが。
ドラコスの本来の姿は巨体のオッサンなんだから、擬態に甘んじて大人げない行動を取るのはやめてほしいが、仮にドラコスにそう言ったところで意味を成さないだろう。
「俺達は良いぞ。いつでもかかってこい」
細剣を構えつつ、ラルヴァがそう言ってくる。
俺達の距離は人間が三十人間に入れるほど開いているから、ラルヴァが声を少し張り上げてくれないと聞こえないくらいだ。
幸い、今のはバッチリ聴こえたが。
「よーし! レノン! 行くよ!」
ラルヴァの言葉を受けて、フロラが意気込み、俺にも声をかけてくる。
「ああ!」
フロラに頷き、愛用している武器の槍を構えて正面を見据えたところで、俺と向かい合っているビアンカさんの姿が目に入った。
ビアンカさんは剣と盾を構えたまま、両腕を震わせている。
そんな彼女にラルヴァが『大丈夫だ。いざとなったら攻撃を避けることに徹しろ。もしくは剣と盾、どっちかを捨てても良い』と声をかけていた。
へぇ、あいつも意外と優しいところあるじゃんか。まぁ、ビアンカさんは仲間だから__いや、違ったな。
ラルヴァは言っていた。ビアンカさんは人間だから、将来的には俺達の村に住まわしてほしい、と。
この戦いが最後だと思って、ラルヴァもいつも以上にビアンカさんを気にかけてるんだろう。
「__ン! ……レノン? レノン!!」
「あっ、ごめん! ちょっと考え事__うおっ!」
フロラに呼びかけられて我に返り、正面を見据えた時には遅かった。
既に目と鼻の先にラルヴァの姿があったのだ。否、ラルヴァが地面を蹴って俺へと迫っていた。
反射的にあいつが振るってきた細剣を槍でガードし、何とか事なきを得る。
「集中しろ。これが実戦だったら貴様の命はここで終わっているぞ」
「ご、ごめん……!」
なおも細剣で俺を押し込みながら、低い声でラルヴァが言ってくる。
今回ばかりはラルヴァの言う通りだ。実戦を踏まえてちゃんと集中しなければ。
両腕に力を込めてラルヴァの細剣を押し返し、少し隙が出来たところで身をよじって左側に退散。
左側から一気にラルヴァを攻めようと槍を振るったのだが、その攻撃も未遂に終わった。
ラルヴァが素早く反応し、左側に向かって細剣を振るってきたからだ。
再び俺の槍とラルヴァの細剣が衝突し、鋼がぶつかるような重い音が響く。
やっぱりラルヴァの間合いに入るのは無理だったか……!
「はあっ!」
だが、諦めるのは早かった。フロラがラルヴァの右側に回り込み、水属性の魔力を籠めた矢を放ってくれたのだ。
「くっ!」
見事、水矢はラルヴァの右肩に命中し、ラルヴァが悔しそうに歯を食いしばる。
その一瞬の隙を、せっかくフロラが作ってくれた隙を、今度こそ逃してはいけない。
ここで、一気に畳み掛ける__!
「はあああっ!!」
ラルヴァの右肩で水しぶきが跳ねた瞬間、俺はラルヴァの細剣から自分の槍を離して再びそれを思い切り振るった。
勿論、炎魔法付きだ。
何度も何度も。
炎を纏わせた槍を振り、ラルヴァに確実に攻撃を打ち込んでいく。
ラルヴァから見て右側からは俺の炎魔法、左側からはフロラの水魔法。完全に挟み撃ち状態のラルヴァに、今度こそ勝ち目はない。
連続攻撃をお見舞いしてから、一度ラルヴァから距離を取り、止めの一撃を食らわせる__。
俺もフロラもそのつもりだったのだが、現実はそう甘くなかった。
「ラルヴァさん!」
切羽詰まったような高い声とともに、ラルヴァが後ろから押される。彼の背中には純白の盾が当てられており、クリーム色に近い白髪をはためかせたビアンカさんが、目をつぶったままラルヴァに激突。
だから、当然__、
「ま、間に合わないっ!」
「ああっ!」
一度外に出した魔法を、すぐに戻せるほどの反射さは俺達にはなかった。
ビアンカさんが痛みに顔を歪め、声をあげる。
彼女の右肩に俺の炎魔法付きの槍撃、左肩にフロラの水魔法付きの矢撃が打ち込まれてしまったのだ。
「び、ビアンカさん!」
「「ビアンカ!!」」
崩れ落ちるビアンカさん。
俺、フロラ、ラルヴァは同時に叫んだ。
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俺達の方の合同訓練は強制的に中断。ビアンカさんは医務室として内部を改造した小屋に運ばれていった。
数分後、彼女の手当てが終わったとリッターさんに告げられた俺とフロラは、すぐさま医務室に駆け込んだ。
「ビアンカさん、大丈夫……じゃないですよね。本当にごめんなさい!」
「ごめん! ビアンカ!」
ビアンカさんは纏っていた鎧を外して楽なシャツ姿になっており、その両肩に白い包帯を巻かれていた。
「い、いえいえ! レノンさんもフロラも悪くないですよ! お二人がラルヴァさんに止めを刺そうとしたのも、私が勝手にラルヴァさんを庇ったのも、仕方のないことです」
「で、でも……」
フロラの言葉を遮り、俺は言う。
「俺達が魔法を引き戻せば済んだことなんです。それが出来ていたら、ビアンカさんは傷付かずに済んだんです。だから、本当にすみませんでした!」
下げた頭を上げると、ビアンカさんは首を横に振って、
「あれがもし実戦だったら、ラルヴァさんがもっと深手を負っていました。そうなった時、私は後悔したくなかったんです。あそこでラルヴァさんを庇っておけばよかったって。さっきの訓練で迷わずに飛び込んでいけたので、少しだけ自分に自信がつきました」
__ありがとうございました、とビアンカさんはむしろお礼を言ってくれたのだ。
「ビアンカさん……」
「それに、身に付けていた鎧のおかげで、本来ほどのダメージは負っていません。実質、ラルヴァさんを守れたことに安心して力が抜けてしまったようなものですから」
そう言って、ビアンカさんはふんわりと笑った。屋敷で初めて出会い、俺の世話をしてくれた時のように。
その時だった。
地を揺るがし、鼓膜が破られるかと思うほど震える、まるで獣のような咆哮が響き渡った。




