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第48話 作戦会議(前編)

 一日目の人間と鬼族との合同訓練を終えて、俺達は会議室用の小屋に集まっていた。

 輪を描くようにして座る俺達。輪の真ん中____部屋の奥側には村長のヒルスさん、出口側には騎士のリッターさんがそれぞれ座っている形だ。


 皆が座り終えたのを確認してから、リッターさんが口を開いた。


「今後、いつデイル達が村を攻めてくるか分からない。だから、今のうちに万が一に備えて対策をしておきたいと思うんだ」


「対策、ですか?」


 聞き返す俺に頷き、リッターさんは真剣そうな趣で続ける。


「まず、デイル達と戦うのは僕、シュヴァリエ、レノンくん、フロラちゃん、ウィンディーちゃん、それから鬼族の皆だ」


「騎士団長、大人の皆様はどうされるのですか?」


 リッターさんの隣に座ったシュヴァリエさんが尋ねると、


「僕達戦闘組に万が一のことがあった場合に、村を守る最後の砦がなくなってしまうのは酷だ。だから、ヒルス村長や他の大人の皆さんには、僕達戦闘組が倒れた時の砦として、家の中で待機してもらうことにします」


 自分から見て真正面の位置に座るヒルスさんを見据え、リッターさんは頭を下げる。

 それに頷き、しかしヒルスさんは釘を刺すことも忘れない。


「分かった。だが、わたし達の出番が来ないようにしてくれよ」


「勿論、僕達も簡単には倒れません。この命尽きるまで、村をお守りします」


「ありがとう。町の騎士様が来てくださって、本当に心強いよ」


「滅相もございません」


 自分の胸に手を当ててお辞儀をするリッターさんに倣い、隣のシュヴァリエさんも同じようにお辞儀。


 一方、小屋の西側に並んで座る鬼族のうち、オグルが自分の後頭部に手を回して嬉しそうに顔をほころばせた。


「おれ達、人喰い鬼と戦うんだな、オグレス、楽しみだな!」


「た、楽しみじゃない。責任重大だよ……」


 いきなり話を振られたオグレスは、胸の前で両手を握ってソワソワとしている。


 そんな正反対の反応を見せる双子をなだめたのは、鬼族の王・ドラコスだった。

 本当は見上げるほどの巨体なのだが、この村に来てからはオグルやオグレスよりも小さな鬼に擬態している。

 よって、俺達はドラコスを見下げる形になっているのだ。


「まぁまぁ安心せい。お前達は大人の鬼とも充分渡り合えるほどの実力を持っている。よっぽどのことがない限りは死んだりしないぞ」


「し、死ぬ……!?」


 なだめられたはずのオグレスが逆に身を縮こまらせ、肩をピクッとさせる。


「そんなにビックリするなよ、オグレス。あくまでも可能性の範囲だよ。王様はおれ達に期待してくれてるんだぜ」


「う、うん……。頑張り、ます……!」


 双子の兄・オグルにポンポンと肩を叩かれて、オグレスは胸の前で両手を握りしめて決意表明。

 ただし、さっきの不安そうな握り方ではなく、しっかりと熱意が感じられるような握り方だった。


「そういえば、リッターさんとシュヴァリエさん以外の騎士団の人達はお呼びしないんですか?」


「確かに! 他の騎士様達にも来てもらえれば、百人力だよね!」


 俺の質問に、フロラも目を輝かせて同意を示す。俺達は揃ってリッターさんとシュヴァリエさんを見たけど、


「ご、ごめんね、レノンくん。そう思って僕達も交渉したんだけど……」


「村人を簡単にさらうような鬼族とは、肩を並べたくないという意見ばかりなのです」


 騎士団の二人から返ってきたのは、当然というか仕方ないなと思える答えだった。いくら鍛えられた町の騎士とは言っても、鬼族とは関わり合いになりたくないと思うのが普通だろう。

 むしろ、こうして町の周りに建つ八つの村のうちの一つをご贔屓に、人喰い鬼打倒のために尽力してくれているリッターさんとシュヴァリエさんが優しすぎるのだ。


 町の騎士団長であるリッターさんと、副騎士団長のシュヴァリエさんがたった一つの小さな村に定住し、人喰い鬼を討伐するために色々と考え、行動してくれている。

 この状況が決して当たり前ではないということを、俺は改めて胸に刻む。


「そ、そうなんですか……」


 フロラが目を伏せて悲しそうに言った。


 とはいえ、やはり援軍を見込めないのは心苦しい。本音を言えば残念の一言に尽きる。

 それでも俺達で人喰い鬼を倒さなければ、村に平和はやってこないのだ。


「何だよー。今はそんなことしてねぇじゃんか!」


 と、リッターさんとシュヴァリエさんの返答に不満げな声があがった。オグルだ。

 オグルは両手を床につけて体をのけ反らせ、唇を尖らせて伸ばした足を交互に床に叩きつける。


「し、仕方ないよ、オグル。今まではニンゲンに来てもらってたんだから」


 オグレスの発言に、フロラの眉がピクリと上がる。


「『来てもらってた』って言い方は優しすぎない? あなた達のせいでレノンはすごく衰弱してたんだよ⁉︎」


「ひっ……! ご、ごめんなさい……」


 床を叩き、オグレスの方に詰め寄るフロラ。


 鬼族は小屋の西側で、俺達は東側に並んで座っているため、ちょうど向かい合っている形になるのだ。

 輪になって座っている分、距離はあるのだが、それでもオグレスは純粋にフロラの剣幕に身を縮こませた。


「フロラ! 何でオグレスに怒るんだよ! おれ達はニンゲンを助けてたんだぞ!」


「オグルの言う通りだよ、フロラ。鬼族の皆はデイルが人喰い鬼だって分かってたから、デイルの傍に俺達を置いてたら危険だって思って、『生贄』っていう建前で助けてくれてたんだ」


 フロラに反論し、オグレスを擁護するオグルと俺。


 勿論、フロラがどれだけ俺のことを想ってくれているかはよく分かる。

 でも鬼族の「生贄」の真実__「生贄」という建前を利用してデイル達人喰い鬼から俺達を救おうとしてくれていたこと__を知ってしまった以上、俺としても黙ってフロラに賛成することはできない。


 だから俺はフロラの言葉に反論し、彼女と相対する立場に立ったのだった。

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