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第44話 ビアンカの気持ち①

『ごめんね……ごめんね……』


 鼻水をすすり、声を震わせて、まるで泣いているような声がする。

 その声は私の頭上から聞こえていて、ぼんやりと見える顔も大きい。声の高さから推測しておそらく女の人のような気がするその人は、両手を広げて私へと手を伸ばし____。



 ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※



「ハッ!」


 私は勢いよく目を開けた。目の前に広がるのは、ぼやけた女の人の顔……ではなく、テントの繋ぎ目だった。どうやら夢を見ていたみたい。


「何、今の声……」


 頭上から聞こえていたあの声は、今はもう聞こえてこない。私の夢が作り出した、ただの幻聴だったのだろうか。それにしては鮮明だったし、何となく懐かしいような感じがした。


 会ったこともない、顔もぼやけた人に懐かしさを覚えるなんて、少しおかしいと思うけど。


「お! ビアンカ! おはようだぜ!」


 と、テントの幕をめくってオグルさんが入ってきた。後ろからは双子の妹・オグレスさんもついてきている。


「おはようございます、オグルさん」


「お、おはようございます、ビアンカさん!」


「おはようございます、オグレスさん」


 二人に挨拶を済ませると、オグルさんが太陽のような眩しい笑顔で報告してくれた。


「オグレスと二人で偵察に行ってきたけど、デイル達っぽい奴等は居なかったぜ!」


「そうでしたか。朝早くからご苦労様です」


「えへへ」


 嬉しそうに水色の髪を掻き、歯を見せて笑うオグルさん。


「そ、そうだ、私、皆さんの朝食を作らないと……!」


 今が早朝だということを思い出し、私はすぐにテントから飛び出す。お屋敷では私が皆さんの侍女として食事、洗濯、掃除などをやっている。レノンさん達の村にお邪魔するからと言って、怠けて良いとは限らない。


「あ、ビアンカさん!」


 テントから這い出た私に気付き、手を振りながら近づいてくる人が居た。レノンさんだ。


「レノンさん……どうかなさいましたか?」


「フロラが朝ごはんを作ってくれたんです。よかったら一緒に食べませんか?」


「え、えっと、でも……私____」


 どうしよう、先に作って頂いていたなんて……。もっと早く起きるべきだった……。


 それでも何かお手伝い出来ることはないかと、私が口を開きかけた時だった。


「えっ⁉︎ ご飯⁉︎ ご飯食べられるのか⁉︎」


 オグルさんが嬉しそうに駆け寄ってきた。やはり後ろから少し遠慮がちについてくるオグレスさん。


「うん、オグルとオグレスも一緒に食べよう。ドラコスとラルヴァは?」


 レノンさんは頷いてから、辺りをキョロキョロと見回す。


「うーん、どこだろ。オグレス、知ってるか?」


「わ、わたしが見た時は、二人で一緒に森の所を見回ってた」


 私達がテントを張らせてもらっている村の出入り口付近には、鬱蒼とした緑の森が茂っている。そこにデイル達人喰い鬼が潜んでいる、とも考えられるからだろう。


「そっか。とりあえず俺が探して呼んでくるので、ビアンカさん達は先に朝ご飯食べててください! フロラの家です!」


 レノンさんはそう言うと、また手を振って森の中へと走っていった。


「あっ、レノンさ____」


 手を伸ばし、追いかけようとする私の手を握って、オグルさんが言う。


「ビアンカ、一緒に行こうぜ!」


「お腹、空いてないんですか?」


 オグレスさんに尋ねられ、私は慌てて首を振った。


「い、いいえ、ペコペコです。レノンさんのお言葉に甘えて参りましょうか」


 レノンさんを置いて私達が先に朝食にありつくのは気が引けるけど、レノンさんのお心遣いを無駄にはしたくない。複雑な思いを抱きつつも、私達三人はフロラさんの家にお邪魔した。


「あ、皆いらっしゃい。好きな所に座って」


 中に入ると、エプロン姿のフロラさんがキッチンとテーブルを忙しなく行き来していた。


「ありがとうございます。ごめんなさい、本当は私が作って皆さんに食べて頂かないといけないのに……」


 私が謝罪すると、フロラさんは驚いたように目を丸くした。


「そんなことないよ! あたしが作りたかったから作ったんだ〜。ちなみに今日の夕食はハンバーグ!」


「ハンバ____」


「ハンバーグ? 何だ? それ」


 私の声を遮り、オグルさんが首を傾げる。フロラさんは嬉しそうに指を立てて、


「豚肉を潰してミンチにして、それを丸めて焼くの。すっごく美味しいんだよ! レノンの大好物だし、あたしの得意料理なんだ〜」


「へぇ〜! レノンが好きなら美味しいのかもな!」


「うん。楽しみだね」


 顔を見合わせ、まだ朝食も頂いていないのに夕食のことを思い浮かべるオグルさんとオグレスさん。オグルさんはともかく、オグレスさんも意外と人間の食事には興味があるようだ。


「あ、あの! その時は私もお手伝いさせて頂きます!」


 私が言うと、フロラさんはにっこりと笑ってくれた。


「ありがとう、ビアンカ。よろしくね」


「はい!」


 ハンバーグか……。食べたことはないけど、何だか美味しそうな響き。一体どんなものなんだろう。私も未知の食材について想像を膨らませてしまったし、人のことは言えないな。


 朝に何もお役に立てなかった分、昼と夜はしっかりやらないと!

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