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第40話 鬼族との再会

 今日も今日とて、俺はヒルスさんに相手をしてもらって剣術の訓練に勤しんでいた。


「ふっ! はっ!」


 ヒルスさんに言われた通り、脇を閉めて腕に力を込め、剣の素振りを鋭く激しくしていく。ヒルスさんのことも後退させられてるし、今日は勝てるかもしれない!


 俺は剣を振り切る間隔を速め、さらに渾身の力を込めて思いっきり剣を前に突き出した。


「はああぁっ!!」


 俺が突き出した刃先は、奇跡的にヒルスさんの喉元に添えられていた。


「うん、ちゃんと出来たじゃないか」


 ヒルスさんはわずかに喉を詰まらせた後、満足げに頷いた。


「ありがとうございます!」


 嬉しくなって、俺は勢いよくお辞儀をする。すると、俺とヒルスさんの訓練を見守ってくれていたフロラが抱きついてきた。


「すごい! レノン! お父様に勝てたよ!」


「ああ! ありがとう、フロラ!」


 俺もフロラを抱きとめる。そうして抱き合っている俺達を見て、ヒルスさんが頭を掻いた。


「まさか、訓練を始めてたった三日で負かされるとはな。予想外だった」


「お父様、村長なのにレノンに負けちゃって、あたし、逆に不安になっちゃうんだけど」


 フロラが茶化すように言うと、ヒルスさんは腕を組んだ。


「ふん、今回はたまたま先手を取られたが、今度は負けん。それくらいにレノンの腕前が上達したということだ」


「ヒルスさんが稽古をつけてくださったおかげです。ありがとうございました!」


 フロラと同時に俺も彼女から体を離し、もう一度ヒルスさんにお辞儀をする。


 すると、ヒルスさんは首を横に振って、


「いやいや、レノンは稽古以外の時間にも練習していただろう? レノンの努力が実を結んだんだぞ」


「それでも、ヒルスさんに剣術を教わらなかったら、俺はまだ弱い剣術しか使えずに居ました。だからヒルスさんのおかげです」


「稽古をつけた甲斐があったというものだ。よく頑張ったな」


 ヒルスさんはそう言って、俺の頭を撫でてくれた。


「えっ、もう稽古は終わりなんですか!?」


「元々、この稽古はレノンがわたしに勝つことを目標につけてきたものだ。今、レノンが一本取った時点で、この稽古は終了だ」


 な、なるほど、根底にそんな目標があったのか。だからヒルスさんも俺に対して真剣にぶつかってきてくれてたんだな。有難い……。


「ありがとうございました! 俺、ヒルスさんのおかげで自分に自信が持てた気がします」


「そうか、それなら良かった。だが、気を抜くなよ。人喰い鬼は……デイルとその一味は、いつ襲ってくるか分からないからな」


 表情を引き締めて真面目な顔つきになり、ヒルスさんは俺を見下ろして言う。


「はい!」


「稽古は終わりだか、今まで通りフロラとの魔法の打ち合いや訓練は続けなさい。せっかくの稽古が無駄にならないようにな」


「分かりました!」


「じゃあレノン、お昼ご飯を食べて休憩したら、魔法の打ち合いしよう」


「ああ、勿論。臨むところだ」


 フロラに言われて、俺は迷わず頷いたのだった。



 ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※



「はぁー、お昼ご飯も美味しかったね」


「ああ、やっぱり稽古の日の昼飯は格別だ」


 お昼ご飯を食べ終え、フロラと俺はさっきの砂庭に向かった。


「あたしはいつでも大丈夫だけど、レノンは休憩できた?」


 腕をクルクルと回して軽い準備運動をしつつ、フロラが尋ねてくる。


「俺もいつでも準備万端だよ」


 手首や足首を回したり、軽くジャンプをしたりして俺も準備運動を済ませ、フロラの質問に答えた。


「よぉーし、じゃあ早速、打ち合いしよう!」


 フロラはずいぶん気合が入っているようで、拳を天に突き出して『おーっ!』とかけ声をあげた。


「分かった!」


 俺とフロラはそれぞれ適度に離れて距離を保ってスタンバイ。俺は槍を、フロラは弓矢を構えて。

 いざ、始めようと声をかけようとした時、フロラの顔色が悪いことに気が付いた。


「ん? どうした? フロラ。顔が青いぞ?」


「れ、レノン……! 後ろ……!」


 フロラは額から大量の汗を流し、瞳を潤ませて青ざめながら俺の方を指差している。


「後ろ……?」


 何かあるのだろうか。


 そう呑気に振り返った俺は、フロラと同じように目を見張った。


「ラルヴァ達!? そ、それに鬼の数が半端じゃない!」


 村に向かって前進してきていたのは、あの屋敷に居た鬼達だった。銀髪の眼鏡鬼・ラルヴァ、鬼王・ドラコス(小鬼の姿)を先頭に、ゾロゾロと歩いてきている。その後ろには俺も色々とお世話になった二匹の小鬼・青髪のオグルと桃髪のオグレス、白髪のビアンカが居た。


 さらに驚くべきことに、俺の見知った五匹の後ろから何十匹もの武装した鬼達が歩いてきていたのだ。


 ____『奇襲』。


 そんな言葉が頭をよぎり、背筋が凍りつく。


 本来なら真っ先にフロラを庇わないといけないのに、そんなことも頭から抜けていた俺は、ただ硬直してその場に立ち尽くし、悠然とやってくる鬼の大群を見つめることしか出来なかった。


 俺の体を硬直から解き放ったのは、凛とした男の声だった。


「レノンくん、フロラちゃん! 下がって!」


 俺とフロラの前に素早く立ち、赤髪の男騎士団長と紫髪の女騎士が剣を構える。


「リッターさん!」

「シュヴァリエさん!」


 同時に叫ぶ俺達を振り返り、シュヴァリエさんは早口で言った。


「ヒルス・ブリランテ村長に鬼が来襲したと伝えてください。その間に私達が仕留めます」


「わ、分かりました!」


 俺とフロラは互いに頷き合い、フロラの家に向かって走ろうとした。


「あー! レノンー!」


「……オグル!?」


 だが、そんな俺を引き止めたのは、陽気な小鬼・オグルの声だった。


「久しぶりだなー! おれ達のこと、覚えてるかー?」


 オグルは短い手をめいいっぱいに振り、俺に向かって無邪気な笑顔を浮かべていた。

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