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第38話 ラルヴァの気持ち①

鬼王の秘書・ラルヴァ視点です!

 俺が屋敷の外でドラコス王を待っていると、やがて王がご帰還なされた。


 雷雲に乗られた王は悠々と地面に降り立ち、振り返って雷雲を消される。俺達鬼族が使う雷魔法によるものだ。


「ドラコス王」


 俺が王に近付いて膝をつくと、王は短い手を上げてトコトコと俺の元まで歩いてこられ、それからお礼を述べてくださった。


「おう、ラルヴァ。出迎えありがとうな」


 生贄の前だけでなく、ニンゲンの世界に行く際にも小鬼に擬態することにされたようだ。


「無事にご帰還されて何よりです」


 俺が言うと、ドラコス王は大きな口を開けてお笑いになった。


「ガッハッハッハ! 何を言うか。妾を誰だと思っておるのだ」


「申し訳ございません、ドラコス王。ですが、少し心配になってしまいまして。奴等のことです。ドラコス王の気配にも敏感に気付いたのではないか、と」


「いや、むしろ妾になんぞ全く見向きもしなかったぞ? 少し悲しかったくらいだ」


 肩をすくめ、シュンとうなだれるドラコス王に、俺は少し戸惑いながらも返答する。


「な、なるほど。それはまた予想外です」


 奴等がドラコス王を標的にしてしまえば、王の身に危険が迫る。まぁ、もっとも王の場合、よほどのことがない限りあんな奴等には負けないだろうが。

 俺がそんなことを考えていると、ドラコス王は屋敷に入りながら口を開かれた。その後を俺も追いつつ、王の話に耳を傾ける。


「この間、レノンという生贄を取り戻しにやってきた少女が居ただろう。彼女が喰われそうになっておった」


「そ、それで、王はいかがなされたのでしょう」


「勿論、傍観だ。すぐに助けに行くわけがなかろう」


「仰る通りです」


 俺が頭を下げると、王はまた話し始められた。よほどこの話を誰かにしたかったのだろう。


「そうするとな、少年が助けに行っていたぞ。いや、あれは少女か……? いや、あれは少年……うーむ」


「ど、どうされたのですが、ドラコス王」


 今の今まで楽しそうに話されていたドラコス王が急に考え込み始めたので、俺は心配になって尋ねてしまう。


「その少女を助けていたニンゲンが、少年にも見えるし少女にも見える容貌でな。はて、どっちだったかな」


「そ、そのようなニンゲンがいたのですね。興味深い」


「まぁ、そんなことは置いといて。本題に入るぞ」


 小さな手をパンと合わせ、ドラコス王は俺を見上げられた。


 『本題』


 先程のお話から想像するに、前々から王が心配されていた件についてだろう。


「はっ!」


「他の皆も集めて玉座の間に集合してくれ」


「畏まりました、ドラコス王」


 俺はドラコス王に頭を下げ、他の連中を呼びに向かったのだった。



 ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※



「王様、急に話があるなんて珍しいよなー」


 玉座の間に続く廊下を歩きながら、後頭部に手を回したオグルが双子のオグレスへ向けて言う。

 俺の後ろをオグルとオグレス、そのさらに後ろをビアンカ、彼女のさらに後ろを歩いているのは屋敷に住む鬼士どもだ。


「そ、そうだね。何かあったのかな」


「大丈夫ですよ。心配しないでください」


 不安そうな声を漏らすオグレスの肩に手を置き、彼女を励ましたのはこの屋敷の侍女・ビアンカだ。


 しかし、そんなに悠長に話をしている暇はない。長く続いた廊下も終わり、俺達はすぐに玉座の間の扉の前に着いた。


「しっ! 玉座の間に入るぞ」


 俺は三人を制してから、扉を数回ノックして中におられるはずのドラコス王に声をかける。


「ドラコス王、ラルヴァでございます。皆を連れて参りました」


「おう、入ってきて良いぞ」


「失礼します」


 ドラコス王の返答を聞いた俺は、扉を開けて他の連中と共に玉座の間に入った。


 俺達全員が膝をついて平伏してから、ドラコス王は話し始められた。

 先程の小さなお姿ではなく、本来の巨大なお姿に戻られている。


「皆、わざわざ集まってくれてありがとな。実は、折り入って皆にお願いがある。そのために集まってもらったのだ」


「王、そのお願いとは一体……」


 鬼士どもの一人が言うと、ドラコス王は威厳のあるお声で宣言なされた。


「人喰い鬼・デイルとその一味を殲滅する」


「まさか、奴等がまたニンゲンを!」


 別の鬼士が言うと、鬼士どもがざわめき始めた。


「静まれ! 王がお話しになる! 王、度重なるご無礼をお許しください」


 俺がドラコス王に頭を下げて謝罪すると、王は『気にするな』と仰られた。


「実際、その通りだ。今まで我慢していたのに耐えられなくなって、ついに本性を現してしまったのだろう」


「せっかくニンゲンと戦わなくてよくなったのに、またドンパチしないといけないんですか?」


 王に疑問を投げかけたのは、オグルだった。矢継ぎ早に、オグレスまでもが口を開く。


「わ、わたし、大好きなニンゲンとは戦いたくないです……」


「おれも!」


 声を張り上げたオグル。しかも敬語を使っていない。


「言葉を慎め! 王の前だぞ」


「いやいや、妾もニンゲンと戦いたくないのは同じだ。だからこそ、妾達の手で人喰い鬼どもを殲滅する」


「ドラコス王……」


 再び、ドラコス王ははっきりと今後の指針を示された。

 王の言葉を聞いたオグルやオグレス、ビアンカ、鬼士どもは、パアッと顔を輝かせた。


「畏まりました。日時はどう致しますか」


 俺の言葉に、ドラコス王が唸られる声がする。


「そうだな……。事が事だけに、あまり早過ぎるとあの光景を見ていたことがバレてしまうからな……。少なくとも、二日、三日後だな。それまでは各自で戦闘訓練をしながら、来る決戦の日に備えてほしい」


「承知致しました、ドラコス王」


 俺が頭を下げて平伏すると、他の連中も俺に倣って頭を下げ、地面に片膝をついた。


「「「承知致しました」」」


 こうして、ドラコス王の示された意向により、俺達鬼族は人喰い鬼と対立し、決闘することとなった。

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