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第36話 連携攻撃

「ああっ!」


 今まで経験したこともないような激痛が二の腕に走り、かぶりつかれた箇所から赤黒い血が噴水のように流れ出す。


「ク、クワセロッ! ハァ、ハァ……!」


 よだれを垂らしながら、俺の腕へと牙を立てる人喰い鬼・デイル。


「レノン!」


 俺の後ろに下がったフロラがヒステリックな声をあげる。


「だ、大丈夫だ!」


 俺はフロラに向かって叫ぶように言い、左手から炎魔法を放つ。


「ウグアッ!」


 幸いにも、デイルは一発で俺の二の腕から口を離してくれた。


 荒い呼吸を整えつつ、俺はもう一度両手を突き出して構えを取る。


「俺とフロラの大事な時間を、よくもめちゃくちゃにしてくれたな……!!」


 顔面を両手で擦りつつ、ヨロヨロとよろめきながら立っているデイルに向かって、俺は炎魔法を飛ばした。


 しかも、今度は一発や二発じゃない。両手から出せるだけ、俺の魔力を、怒りを限界まで出し切る。


「はああぁぁぁっ!!」


「ウグッ! アガッ! ウヴッ!」


 俺の炎魔法を全身に受けたデイルは、ついに仰向けに倒れた。


「よ、よし……! やった!」


 地面に仰向けに倒れたデイルの全身は、俺の炎魔法によって火傷を負っており、赤く焼けただれていた。

 これほどのダメージを与えることが出来ていれば、おそらく問題はないはずだ。


 俺がそう思うのと、デイルが小刻みに体を震わせながら起き上がるのは同時だった。


「ウグッ……クソッ! ハァ、ハァ……腹が減ってるんだ……! クワセロッ!」


 よほど腹が減っているのか、瞳の焦点が定まっておらず、額からは大量の汗が流れている。


 今まで人間は食べずに、デイル自身が人間として生きてきたはずなのに、今になってどうして本性を現してまで人間を食べないと満足できなくなったんだ……?


 いや、今はそんなことを考えている時間はない。


 さっきの連続魔法でダウンしていないのなら、俺の魔法の威力が弱いということだ。

 今は武器の槍も持っていないし、対抗手段である魔法を強化させるしかない。

 落ち着いて、魔力を高めるんだ……!


 せっかくのフロラとのデートの日を、鬼に喰われそうになった人生最悪の日に変貌させられたんだ。


「これ以上、お前の好きにさせるか!!」


 俺がもう一度両掌に魔力を集め、炎魔法の球体を生み出していると、デイルは首をブンブンと振ってから、悔しそうに俺を睨み付けてきた。


「やっぱり一人では無理だったか……!」


 一人では……? 一体どういうことだ……?


 俺には推測する猶予もなかった。


「グアアアアッ!」


 デイルは足を投げ出したまま空を仰ぎ、全身から絞り出すように声を張り上げた。

 俺が何をしているのかと思っていると、デイルの背後にある森から何十体もの鬼が這い出してきた。


「ま、まさか、仲間が居たのか!」


 俺はとっさに後ずさる。フロラが後ろに居る以上、俺が下がりすぎるわけにはいかない。

 でも俺が先に鬼に喰い殺されると、フロラの身に危険が迫る。

 それだけは何としてでも避けなければならない。


 俺は、森から這い出てきたデイルの仲間達を観察した。


 デイルと同じくらいの長い牙を口から覗かせ、骨が見えているのかゴツゴツとした体つきをしている。

 奴等もデイルと同じで人を喰っていないからなのか、どこか痩せ細っているように見える。

 けど、俺が屋敷で出会った顔ぶれは一人も見当たらない。


 ラルヴァ達じゃないな……。やっぱりあいつらは、デイルとは違う種類の鬼だったってことだな。


 にしても、こんなに数が増えたのに、俺の炎魔法だけじゃ勝ち目がないぞ……!


 フロラに村の人達を呼んでもらうしか__って、フロラ!?


 俺は後ろを振り返って初めて気付いた。


 今まで俺の後ろに下がっていたフロラが、忽然と姿を消しているのだ。


 デイルの一味に捕まったか、と急いでもう一度正面を向いて確認するが、やはりフロラの姿はない。


 一体どこに……! まさか、俺が頼む前に皆を呼んできてくれたのか……?


 何にせよ、鬼の視界から居なくなってくれて良かった。これでフロラは奴等に狙われなくて済むからな。


「お前らっ! さっさとこのガキを喰うぞ!」


「「「ウガアアアッ!!」」」


 デイルの声に答えるように、人喰い鬼達は雄叫びをあげて俺に向かって走ってきた。


 くっ、やっぱり炎魔法でしのぐしかないか……! かくなる上は肉弾戦に踏み切るしか……!


 俺が覚悟を決めて炎魔法を打ち始めていると、


「レノン!!」


 高い声に呼ばれて、俺は反射的に振り返る。視界に飛び込んできたのは、俺の武器である細い槍だった。


 俺は手を伸ばして、放物線を描いて投げられた槍を受け取り、それに魔力を籠めて鬼に突き刺した。


「ありがとな、フロラ!」


「大丈夫! あたしも戦うから!」


 見ると、フロラも武器の弓矢を手にしているではないか。


「だ、大丈夫なのか!? 噛まれたところが痛むだろ! 大人しく家に入ってろ!」


「平気よ! それに、噛まれてるのはレノンも同じでしょ? なのにあたしだけ家に隠れてるとか、絶対嫌だから!」


 フロラは叫びつつ、水の魔力を籠めた矢を放つ。


「お父様にも報告してきたから、多分そのうち皆も来てくれるはず!」


「そっか、ありがとな。なら、それまで耐えるだけだ!」


 村の大人達はある程度訓練を積んでいるから、いざとなった時でも鬼と戦うことが出来るのだ。

 しかも大人ともなれば、子供の俺達とは違って力が強い。皆が来てくれれば百人力だ。


「「はああぁぁぁっ!!」」


 そう思うと、俺もフロラもやる気に満ちてきた。

 俺達は自分の力を限界まで振り絞って、武器で鬼達に攻撃を加えていく。


 鬼がさっきみたいに俺かフロラの体の一部を掴んでこようとしたら、狙われていない方が鬼に攻撃をぶつける。

 そして鬼がダメージを受けた瞬間に、狙われていた方も間近から武器で鬼を攻撃する、という戦法だ。


 この連携攻撃を続ければ、皆が来るまで耐えられるはず。

 そう信じ、俺達は必死に戦った。



 ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※



「怯むな! ガキ二人だけだ! さもないと、今度こそ空腹で餓死するぞ!」


 デイルが絶えず叫び声をあげ、仲間達を鼓舞する。

 仲間達もそれに応えようと、より一層俊敏に体を動かして俺達を食べようとしてくる。


 フロラが俺に武器を渡してくれてから、どれくらいが経っただろうか。


 俺の体力は限界に近かった。おそらくフロラもそうなのだろう。最初よりも動きが鈍くなっている。


 荒い呼吸を整えつつ、俺が再び槍を構えていると、突然鬼達の頭上に巨大な土の塊が落ちてきた。

 それに押し潰されるように鬼達は地面に倒れる。


「レノンくん! フロラちゃん!」


 振り返ると、そこには町に戻ったはずの騎士・リッターさんとシュヴァリエさんが居た。二人だけではない。フロラの言う通り、ヒルス村長や村の皆も駆け付けてくれたのだ。


「皆……! 良かっ__」


 皆の姿が見えた安心感からか、俺はふらりと倒れてしまう。それを俊敏に受け止めてくれたのは、リッターさんだった。


「よく頑張ってくれたね。ありがとう、二人とも」


 フロラも相当疲れが溜まっていたのだろう。ヒルス村長に体を預け、ぐったりとしている。


「レノン・コンフォ、フロラ・ブリランテ。あとは私達に任せてください」


 シュヴァリエさんが珍しく口角を上げて、俺達に言葉を投げ掛けてくれる。


「ありがとうございます。シュヴァリエさ__」


 最後までお礼を言えたか、正直のところは覚えていない。

 目を覚ますと、俺とフロラは同じ部屋のベッドに寝かされていたのだった。

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