第31話 守る決意
まさか、デイル長老が人喰い鬼の末裔だったって言うのか……?
しかもリッターさんがこれだけ真剣に言うってことは、それなりの証拠が揃ってるってことだよな。
いつの間に、十分な証拠を集めてきてくれたんだ?
「騎士団長の仰ることは事実です。昨夜、町に戻ってもう一度鬼についての資料を調べたところ、人喰い鬼の全滅は確認できていない、との記述がありました」
驚く俺に頷き、シュヴァリエさんは言った。
「じゃ、じゃあデイル長老は、何らかの理由で生き残って、何らかの理由でこの村の長老になったってことですか?」
「この村の長を決める際、真っ先に村長の座を退いたという理由も、これで納得がいきます」
「あとは、あの人が自分から本当の姿を見せてくれれば躊躇なく斬れるんだけど……」
俺の質問を肯定するようにシュヴァリエさんが言い、リッターさんも顎に手をやって考え込む。
「おそらく、奴も神経質になっているでしょうね。ウィンディー・フォーレスの家で、私達が人喰い鬼についての話をしてしまいましたから」
そうだ。あの時は俺も少し違和感を抱いただけだったから、人喰い鬼についての話題を止めさせるようなことはしなかった。
でも、本来ならあそこで人喰い鬼についての話題は避けるべきだったんだ。
何せ、人喰い鬼本体であるデイル長老が居る場で、人喰い鬼がどれだけ危険かを口にしてしまったんだから。
「気を付けて、レノンくん。あいつは一度ウィンディーちゃんを襲った。でもそれがバレなかったことで味を占めて、別の村人を襲う可能性もある」
「はい、勿論です。リッターさん」
リッターさんの忠告に俺が頷くと、シュヴァリエさんが口を開いた。
「話は以上です。レノン・コンフォ。私達はこれから町に行って、このことを上に報告してきます。その間、くれぐれも気を抜かないようにしてください」
なるほど、リッターさんとシュヴァリエさんが居なくなるから、村の中で鬼に対抗できる人間が居なくなるってことか。
「分かりました。この村は、フロラ達は絶対に俺が守ります!」
フロラとの関係に溝が出来ていても、そんなことは関係ない。
いつデイルさん___いや、人喰い鬼が本性を現すか分からないし、最悪の事態になる前に俺が絶対に阻止する!
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とは言ったものの___。
まずはフロラとの関係を修復しないといけないよな。
ウィンディーに言われた通り、俺の正直な気持ちをフロラに伝えないと始まらない……。
俺は決意を固めて、フロラの家に向かった。
コンコンコン、とドアをノックするが、中に居るはずのフロラから返事はない。
「……フロラ?」
呼びかけてみても、フロラは答えてくれない。
「ごめん。フロラにとっては受け入れられない事実だと思う。でも信じてほしいんだ」
やはり、フロラの声はしない。
「俺の推測だけじゃ信じられないのも無理はないよ。でも、シュヴァリエさんも俺と同じ風に思ってるんだ。そのことだけでも頭に留めておいてくれないかな」
そもそも、喧嘩状態になってすぐに話せる方がすごいよな。たまには時間を開けないと……。
「……すぐに話す気にはなれないよな。押しかけて勝手に喋り倒してごめん。でも俺は、急に色んなことを言ってフロラを混乱させたこと、本当に申し訳ないって思ってる。それが、俺の正直な気持ちだから」
俺はブリランテ家のドアの隙間に手紙を挟んで、その場から離れた。
フロラに俺の正直な気持ちを伝えた後、俺はヒルス村長に会いに行くことに決めた。
本当はさっきのブリランテ家に居るはずだったんだけど、フロラにドア越しに話しかけてて何も言ってこなかった時点で、ヒルスさんの居場所は自宅じゃない。
おそらく、村の大人達で集まって会議でも開いているんだろう。
そう見当をつけて、俺はいつも会議の時に使われるデイルさんの小屋に向かった。
「……失礼します」
俺がおそるおそる小屋のドアを開けて小屋の中を覗き込むと、中に居た人達が一斉に俺を振り返った。
「おお、レノンじゃないか」
「レノンくん」
「レノン・コンフォ」
ヒルス村長は、リッターさんやシュヴァリエさんと向かい合うようにして座っていた。
その両傍には村の男達の姿もある。
「リッターさんにシュヴァリエさん。街に戻られたんじゃなかったんですか?」
「勿論そのつもりだよ。でもその前にヒルス村長にご挨拶をしていたんだ」
「それから、今後のことも報告していました」
リッターさんに続いて、シュヴァリエさんが教えてくれる。
そうだったのか。じゃあ俺がわざわざ出しゃばる必要はないな。
「分かりました。失礼します」
俺はそう思って、会議室用の小屋から出て行こうと、三人に背を向ける。
「あ、おい、レノン」
でも、俺を呼び止めたのはヒルス村長だった。
「は、はい、何でしょう」
「騎士様方がお留守の時は、お前が鬼に対抗し得る戦力になると聞いたんだが……本当に大丈夫なのか?」
なるほど。ヒルス村長は俺を心配してくれてるのか。
ごめんなさい、村長さん。俺が頼りないばっかりに……。
「はい。でも俺は鬼と直接戦ったことがないので、対抗策などを教えて頂かないといけませんが」
「安心しろ。わたしがちゃんと叩き込んでやる。それに、何もお前一人に鬼の相手を任せるつもりはないからな。勿論、大人が率先して相手をする予定だ」
ヒルス村長は胸を拳でドンと叩いて言った。
「ありがとうございます。でも、俺も出来るだけ役に立てるように頑張ります! ご指導ご鞭撻のほど、よろしくお願いします!」
俺が深く礼をすると、リッターさんが口を開いた。
「レノンくんは大丈夫ですよ。何せ、たった一人で生贄の女の子達を全員取り戻してくれたんですから」
「勿論、それは存じております、騎士団長殿。レノンは我が村の希望ですから」
「ヒルスさん……!」
ヒルス村長の言葉に、俺の胸は熱くなる。俺のことをそんな風に思ってくれてたのか。
「じゃあ、僕達はそろそろ町に戻ろうか。シュヴァリエ」
「承知致しました、騎士団長」
騎士の二人は立ち上がって、小屋の出口へと向かう。
そしてドアを閉める際、リッターさんが俺にそっと耳打ちしてくれた。
「頑張って、レノンくん。無茶は禁物だ。出来るだけ僕達も早く戻ってこられるようにするから」
「はい! お願いします!」
リッターさんとシュヴァリエさんが小屋を出て行った後、ヒルスさんが突っ立ったままの俺に向かって言った。
「レノン、腰を下ろせ」
「は、はい! 失礼します!」
俺は村長の指示に従って、床に片膝をついて『休め』の構えに入る。
「これから、お前にはみっちり稽古をつける。いつ人喰い鬼がまた襲ってきても大丈夫なようにな」
「はい! よろしくお願いします! ヒルスさん!」
ヒルス村長は力強く頷いてくれた。
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その夜。俺は知るはずもなかった。
暗い暗い闇の中で、低い唸り声と荒い息遣いが響いていたことを___。
「ハァ、ハァ……! クソッ、腹減った……! 早く喰いたい……! ニンゲンを……!」




