第27話 襲われたウィンディー
シュヴァリエさんを追って家を飛び出すと、腕や肩、胸から血を流したウィンディーが倒れていた。
「状況は!?」
リッターさんが尋ねると、シュヴァリエさんは即座に言った。
「かなり深刻です。出血が止まりません!」
「これはひどいな……。僕も止血するよ」
「助かります」
すぐに止血に取りかかる騎士団の二人の横で、フロラが叫んだ。
「ウィンディー! 大丈夫!?」
「レノン……くん……フロラ……」
どうやら意識を失ったわけではなかったようだ。
ウィンディーは虚ろな瞳で、俺達を見上げて口角を上げる。
「ウィンディー! リッターさんとシュヴァリエさんが手当てをしてくれてる! もう大丈夫だからな!」
俺が声をかけると、フロラが驚いて口を挟んできた。
「レノン、何でそんな無責任な___」
「こういう時は気休めでも安心させた方が良いんだよ。気持ちに左右される部分もあるから」
「そ、そっか……」
俺の言い分に納得してくれたフロラは、素直に言葉の内容を切り替えた。
「ウィンディー、頑張って! すぐ終わるから!」
それからも俺達は、ウィンディーに向かって前向きな言葉を送り続けた。
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それから数十分後、俺達はウィンディーの家に居た。
リッターさんとシュヴァリエさんによって治療は無事に終わり、ウィンディーの家まで彼女を運び込んでベッドに寝かせたのだ。
「何があったか、僕達に話してくれるかい?」
俺達四人はウィンディーのベッドの側の椅子に腰を掛ける。
リッターさんの問いに、ウィンディーはゆっくりと頷いた。
「は、はい……。実は、レノンくんのお見舞いに行こうと思ってて……レノンくんの家に行こうとしたんです……。そしたら……デイル長老にお呼び出しを受けて……」
『デイル長老』と聞いた瞬間、シュヴァリエさんが訝しげな表情をする。
「倉庫に……取ってある……お米を持ってきてほしい……と言われたので……倉庫に入って……お米を探していたんです」
「その間に後ろから鬼に襲われた、と」
リッターさんの言葉にウィンディーが頷くと、シュヴァリエさんも口を開いた。
「騎士団長に言われて頭を冷やすために、村をブラブラと歩き回っていたんです。倉庫の中から声がして、それで駆け付けたらウィンディーが……」
「そうだったんだね。その時の鬼は?」
「私が斬りかかった後に逃げていきました。追うよりもウィンディーの治療をせねばと思い……申し訳ありません」
リッターさんに向かって頭を下げるシュヴァリエさん。
「いや、君の判断は正しかったよ。二人がかりでやっと止められた出血だったんだから」
リッターさんの言葉に、シュヴァリエさんは少し安心したような表情をする。
そんな彼女に向かってウィンディーが言った。
「あの、ありがとうございました。シュヴァリエさん。あなたが助けに来てくれなかったら、私は今頃あの鬼に喰い殺されていました」
「いえ、ウィンディーが無事で良かったです」
「とりあえず、暫くは警戒しないといけないね。シュヴァリエ、君が斬りかかった鬼の部位は?」
リッターさんに尋ねられ、シュヴァリエさんは少し考え込んでから、
「左肩……だったと思います。鬼をウィンディーから切り離すことで頭がいっぱいで、あまり覚えていないのですが」
「大丈夫だよ、それだけでも充分だ」
リッターさんが明るく頷いた時。
「「ウィンディー!」」
「ウィンディーが鬼に襲われたって!?」
ドアを乱暴に開けて、ウィンディーの父・フォーレスさん、ヒルス村長、デイル長老が家に入ってきた。
「フォーレスさん! お父様! デイル長老! って……長老! その怪我……」
「あ、ああ。おそらく、ウィンディーを襲った奴と同じ鬼だと思うが、そいつに爪で引っかかれてな……」
驚くフロラの言葉に、デイル長老は包帯が巻かれた右肩を押さえた。
「大丈夫ですか!?」
「ああ、一応はな。ヒルスに手当てしてもらったから。ありがとや、ヒルス」
フロラの言葉に頷き、長老は村長に礼を言う。
「滅相もございません。長老が無事で良かったです」
「それよりもウィンディーだ。大丈夫か?」
「ありがとうございます……長老。すみません……頼まれていたお米なんですが……まだ倉庫の中です」
「いやいや、気にしなくて良いぞ。わしがやっておくから」
ウィンディーに向かって微笑みかけた後、長老は再び村長に向き直った。
「ヒルス、全員に伝えてくれないか。暫く倉庫には近付くな、と」
「承知致しました。しかし、長老は___」
「わしなら大丈夫じゃ。安心せい」
「いや、しかし___」
「心配せずとも、わしにはこれがある。いざとなれば斬りかかるまでじゃ。これ以上村の皆には被害に遭ってほしくない」
腰の鞘から立派な大太刀を抜く長老。
「長老……。で、では、わたしがお供します。それでは___」
「ならん! これ以上被害を増やしとうないと言ったではないか!」
「も、申し訳ありません……」
長老に怒号をあげられた村長は、申し訳なさそうに頭を下げた。
「お二方も気を付けるんじゃぞ。いつ鬼がまた襲ってくるか分からんからな」
「お心遣い、ありがとうございます」
「肝に命じます」
長老の言葉に、お辞儀をするリッターさんとシュヴァリエさん。
「でも、何でこんな所に鬼がいたんだろ」
ふと、フロラがそんな疑問を口にした。
俺達全員、フロラの方を見る。
皆からの視線を一度に浴びたフロラは、焦ったように続けた。
「だって、鬼はあの大きな屋敷に住んでるんでしょ? わざわざこんな村まで来る必要なくない?」
「そうよね……。何だったんだろう」
フロラの言葉にウィンディーも俯く。
「やっぱり、人喰い鬼は生きてたのかな」
「人喰い鬼!?」
フロラの呟きを聞いて声をあげたウィンディーは、その反動で痛んだ傷に顔を歪める。
「ちょ、ちょっと、動いたら駄目だって! 驚かせちゃったあたしも悪いけど」
慌ててウィンディーを支え、ベッドに寝かせるフロラ。
「だ、大丈夫よ。ごめんね、つい。それで、人喰い鬼っていうのは?」
改めてウィンディーに尋ねられ、フロラは口を開いた。
「昔は普通の鬼と別に、人の血肉を喰う人喰い鬼がいたらしいの。でもウィンディーを襲ったってことは、そいつも人喰い鬼だってことでしょ?」
「そう、かもしれないわね……。生きていたのかしら……」
フロラもウィンディーも、人喰い鬼が生きている可能性について疑い始めていた。
俺も二人と同じ意見だ。だが、少し違う。
二人はまだ気付いていないし、今の時点では考える余裕もないだろう。
その人喰い鬼___ウィンディーを襲った鬼の正体を。




