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第20話 フロラの気持ち②

「つまり、えっと、手短に言うと、君の彼氏のレノンくんが女のフリをして鬼達のアジトに潜入したまま帰って来られなくなったというわけだね」


「は、はい! 多分そうなんです!」


 町からの騎士団、そのトップに君臨する騎士団長・リッターの言葉に、あたしは頷く。


 あたし、ウィンディー、騎士団長のリッターさん、騎士団のシュヴァリエさんの四人は、あたしの家でレノンについて話し合っている最中だった。


 外は既に陽が落ちていて、月が金色に輝いている以外は真っ黒の闇が広がっている。


 騎士団らしく礼儀正しい言葉を使ってくれてたリッターさんだったけど、あたしが提案したので、砕けた口調で話してくれるようになった。

 事実、あたしとウィンディーはもうすぐ十七歳。リッターさんが二十六歳、シュヴァリエさんが二十四歳らしい。明らかに、騎士団の二人方が年齢は上だった。


「本当はレノンくんも私達を逃してくれた後に、すぐ帰ってくるはずだったんですけど。私達が村に着いてもう何日も経ってますし、絶対に何かおかしいと思って」


 ウィンディーが言うと、シュヴァリエさんが不意にそっぽを向いて、


「自分で計画しておいて、自分でその計画を頓挫させるとは。……とんだドジ男」


「こ、こら、シュヴァリエ。失礼じゃないか」


 リッターさんが慌ててたしなめるけど、シュヴァリエさんはリッターさんをちらりと見やってから、平然とした表情で尋ねる。

 紫色の長髪の高い位置でのポニーテールを揺らし、猫目のような形の赤い瞳でリッターさんを射抜いて、


「本当のことですよ、騎士団長。騎士団長もそう思いません?」


「い、いや……半分思うというか半分思わないというか……」


 首を傾げながら曖昧な返答をするリッターさん。

 赤色の短髪に紫色の瞳が特徴の彼は、その瞳を泳がせながら情けない笑みを浮かべていた。


 確かにシュヴァリエさんの言い分は尤もだった。

 現にレノンは、自分で立てた計画に躓いて村まで帰ることが出来ていない現状にある。

 とは言っても、彼だってあたしやウィンディーと同じ十六歳の未成年。必ずしも、頭で考えたようにスムーズに事を進められるとは限らないのだ。


 完璧な返答が出来ないリッターさんに、シュヴァリエさんは呆れたようにため息をつく。


「はっきりしてください。……意気地なし」


 リッターさんは核心を突かれたかのように喉を詰まらせるが、赤い髪を掻きむしって一際大きな声をあげた。


「と、とにかく! 今はそんなことよりもレノンくんを助けに行くことが先決だ。ウィンディーちゃん、鬼のアジトまでの道は憶えているか?」


 突然話を振られたウィンディーは弾かれたように肩を揺らす。それでもリッターさんの質問に臨機応変に対応していった。


「いえ、私は。でも風なら憶えてると思います」


「風?」


 訝しげに尋ねるシュヴァリエさんへ顎を引いたウィンディーは、さらに言葉を紡ぐ。


「はい。私、風魔法が使えるんです。使ってから何日も経っているので魔法の効力は消えてしまっていますが、魔法そのものにならまだ回復の余地があるかもしれません」


「それならありがたい。その風魔法を頼りにすれば、僕も鬼のアジトまで行けるよ」


 ポンと手を打って、リッターさんが笑顔で言った。

 それに続くような形で、シュヴァリエさんが浅く礼をする。


「では、私もお供します。騎士団長」


「いや、良い」


 シュヴァリエさんはリッターさんの拒否が予想外だったのか、素早く顔を上げて彼を見つめた。

 何故、と言いたげな彼女の疑問に答えるように、リッターさんは続きを話す。


「シュヴァリエはウィンディーちゃんと一緒にこの村を守って。ここで待機しておいてほしい」


 リッターさんの真意をようやく理解できたらしいシュヴァリエさんは、力強く頷いた。


「承知致しました。ところで、この娘は連れて行くおつもりですか」


 突然、赤い瞳を向けられたあたしは、大した敵意も感じなかったのに思わず怖気付いてしまう。それぐらいに、シュヴァリエさんの目力は強かった。


 シュヴァリエさんの問いにリッターさんは頷いて、


「ああ。レノンくんがフロラちゃんの彼氏なら、彼女をアジトまで連れて行くことはレノンくんとフロラちゃん、両方にとってメリットになるだろう?」


「しかし、危険すぎます。戦闘経験もないただの村娘を鬼の元へ連れて行くなんて。……無鉄砲」


 再び毒舌になるシュヴァリエさんの斜め前で、あたしは密かにショックを受けた。


「ただの村娘……」


 自分は『ただの村娘』ではないというのに、人相だけであっさりとそう決めつけられてしまった。

 すると、そんなあたしに救いの手が差し伸べられる。


 ショックのあまり言い返すことが出来ないあたしに代わって、ウィンディーが口を開いたのだ。


「あ、あの、これでも一応フロラ、この村の村長の娘なんですけど」


 ウィンディーの言葉に、分かりやすく目を丸くするシュヴァリエさん。この表情の動きが、彼女があたし達に初めて見せた表情の変化である。


「そうでしたか。それはとんだご無礼を。しかし、戦闘経験がないことには変わりありま______」


「戦闘経験なら、あります!」


 シュヴァリエさんの言葉を途中で遮り、意気込むあたし。


「本当か?」


「はい! 毎日レノンと魔法の打ち合いしてたので、戦うことも出来ます!」


 目を輝かせるリッターさんに頷いてみせ、あたしは得意げに体験談を語った。

 しかし、そんなあたしの得意顔を一瞬で凍りつかせたのは、またしても無表情騎士のシュヴァリエさんだった。


「遊びと一緒にしないで頂きたい。しかも相手は鬼です。手加減をしてくれるあなたの彼氏さんとは、全く異なる次元の化け物なんですよ」


「そんなこと、とっくに分かってます!」


 あたしは大きく息を吸って、


「それでも、あたしはレノンを助けたい。レノンの彼女だから。レノンのことが世界の誰よりも大好きだから!」


 思わず顔が火照ってしまうのも構わず、あたしはリッターさんとシュヴァリエさんを交互に見つめた。


「あなた達だってそうでしょう? 互いに愛し合ってたら自分がどんな危険を冒してでも護りたいって思いませんか?」


「いや、僕達は決してそのような関係ではなく」

「いや、私達は決してそのような関係ではなく」


 騎士達は口を揃えて否定した。しかも手を横に振るというポーズが見事にシンクロしている。


 と、また話題の路線が逸れてしまったことに耐えきれなくなったウィンディーが大声をあげた。


「とにかく! 話を進めましょう!」


「「は、はい?」」


 またもハモる騎士の二人。


「フロラとリッターさんが鬼達のアジトまでレノンくんを助けに行く。私とシュヴァリエさんが村で待機して緊急事態に備える。これで良いですよね?」


 身振り手振りを交えながら必死に確認を取るウィンディー。


「あ、ああ、その通りだ。よろしくね、ウィンディーちゃん」


「勿論です。お任せください」


 リッターの笑顔にウィンディーが胸をドンと叩く。


 話が一区切りついたところで、あたしはリッターさんに声をかけた。


「リッターさん」


「ん?」


 不思議そうな顔で見つめてくるリッターさんに、あたしは立ち上がって深々とお辞儀をした。


「よろしくお願いします!」


「ああ!」


 リッターさんは力強く返事をしてから言った。


「日の出と共に出発だ。絶対にレノンくんを助け出そう」


 待っててね、レノン。絶対あたしが助けに行くから。

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