第17話 自白
俺を介抱してくれた少女・ビアンカによれば、頭の傷が開いたら困るということで、暫くはベッドの上で絶対安静とのことだ。
翌朝、俺はもう一度目を覚ました。ベッドから身を起こし、腕を上げて伸びをする。
「レノンさん、おはようございます」
柔らかな声と共に、お盆を持った少女が入ってきた。
「おはようございます、ビアンカさん」
ふんわりと笑い、ビアンカさんは会釈をしてくれた。
彼女が持っているお盆には、数枚のお皿が載っていた。同時に、食欲をそそる美味しそうな匂いもやってくる。
どうやら俺の朝食を持ってきてくれたみたいだ。
「ありがとうございます。わざわざ朝ごはんまで持ってきてくれて」
「いえいえ。これが私の仕事ですから。お気遣いありがとうございます」
クリーム色に近い白髪を揺らして首を振り、ビアンカさんはまたふわりと笑った。
「あの」
そんな彼女に、俺はある質問をしてみる。
「はい、どうしました? レノンさん」
「何で俺の世話、こんなに焼いてくれるんですか? 俺は、ラルヴァさんの部屋に勝手に侵入した悪い人間なのに」
「……何があったかは、私も聞いております。ですが______」
ビアンカさんは、悲しそうな表情をした後にもう一度顔を上げて、
「私はこのお屋敷で侍女のような役割を頂いているんです。それに、ドラコス王にもレノンさんをお世話するようにとお達しを受けましたから」
俺の質問に対する答えを口にしてくれた。
侍女ってことは、この屋敷の鬼達の身の回りの世話をしてるんだな。
料理とか洗濯も全部出来ちゃうわけだ。すごいな。
そう言えば、フロラの手料理も旨かったよな。また食べたい……。フロラが作るハンバーグ。
「あ、あの、レノンさん、遠慮なさらずにお食べになってください。よだれが……」
アワアワとしながら、ビアンカさんが心配してくれた。
や、ヤバい。フロラのハンバーグ思い出してよだれ出すなんて。恥ずかしすぎるだろ!
「ご、ごめんなさい! いただきます!」
俺は恥ずかしさのあまり熱くなりながら、ありがたく朝食を頂くことにした。
ビアンカさんは俺が座っているベッドの側の椅子に腰をかけ、俺が朝食を食べるのをほんわかとした笑顔で見つめていた。
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「ごちそうさまでした。美味しかったです」
俺は食べ終えた後の食器を揃え、机の上に重ねた。
「いえいえ、お気に召されたようで良かったです」
ビアンカさんはふんわりと笑ってから、食器をお盆の上に載せ始める。
その時だった。
ドタドタと走る音がしたかと思うと、部屋のドアが乱暴に開かれた。
「おい! レノン!」
血相を変えて飛び込んできたのは、銀髪メガネの鬼・ラルヴァだった。
「は、はい!」
大声で怒鳴られ、俺は思わず肩を縮めてしまう。
だがラルヴァはそんなことに気付く由もなく、ズカズカと俺の方へ歩いてきて、
「生贄のニンゲン達はどこに行った! いや違う。どこにやったんだ!!」
「えっ、どういうことですか?」
「とぼけるな! お前が俺の部屋に勝手に忍び込むまでは他のニンゲンも居たではないか!」
……ん? 何を言ってるんだこいつは。俺の計画に気付いてたんじゃなかったのか?
「全く、脱出を謀ったお前さえ処理すれば、あとは大丈夫だと思っていたのに」
前髪に五本指を差し込んで、ラルヴァは大きなため息をつく。
そうか、こいつは俺一人が勝手に脱出しようとしてたって思ってるのか。
それに朝になってもウィンディー達が捕まってないってことは、無事に村まで帰れたってことだな。良かった……。
「どうせお前の仕業だろ! 教えろ! 生贄の奴等はどこにやったのだ!」
バン! という音とともにラルヴァが声を荒げる。
朝食用にビアンカさんが置いてくれていた机を思い切り叩き、俺を問い詰めてきたのだ。
あんなことをしたから当然なんだけど、やっぱり完全に目つけられちゃったな……。
「私、知らないですよ。皆居なくなっちゃったんですか?」
苦し紛れにとぼけてみるが、何の効力も示さなかった。
「まだそんなことを抜かすか! 昨夜火災が起こったのは、お前達生贄の部屋の前とベランダの前だけだ。お前が火をつけたんだろう!」
「うぐっ……!」
効力を示さないどころか、余計に怒らせてしまった。
ラルヴァは俺の胸ぐらを掴んで、勢いよく引き上げてきたのだ。
そのせいで、ベッドの上に座っていた俺のお尻は簡単に離れてしまう。
それに無理やり引き上げられたせいで頭が揺れて、包帯と傷口が擦れて激痛が走る。
「ら、ラルヴァさん! やめてください! レノンさんの傷が開いてしまいます!」
ビアンカさんは慌ててラルヴァを止めようと声をあげてくれる。
だが、
「お前は黙ってろ! 口出し出来るような立場か!」
ラルヴァに一喝され、ビクッと肩をすくめてしまう。
「も、申し訳ございません、ラルヴァさん。しかし、私はレノンさんの身の回りのお世話をドラコス王から任されております。レノンさんのお世話係として言わせてください。彼女を傷付けるのはやめて頂きたいんです!」
ビアンカさんは拳をキュッと握りしめて、長身のラルヴァを見上げた。
「ビアンカ……さんっ……!」
ラルヴァに締め上げられて呼吸しづらいが、一生懸命にビアンカさんを止める。
口答えをしたら、ビアンカさんまでラルヴァに傷つけられかねない。
俺のために彼女が傷つくのは、なにがなんでも嫌だ。
「私はっ……大丈夫……ですから……これ以上はっ……」
「いえ。お世話係の仕事は、ただ身の回りのお世話をすることだけではありません。お世話の対象を、レノンさんを守るのも仕事のうちなんです」
俺の頼みをハッキリと断り、ビアンカさんは揺るぎない瞳で俺を、そしてラルヴァを見た。
「ふん、知ったことか。それなら、何よりもまず最初に王の世話をしろ。お前はいつからこいつ専属の侍女になったんだ」
ビアンカさんの必死の懇願を無視して、さらに厳しい言葉を投げかけるラルヴァ。
そして彼は再び俺の方に向き直ると、胸ぐらを掴む力を強めた。
「さっさと白状しろ! さもないとお前の村を丸ごと焼き払ってやるぞ!」
「お願いします……! それだけは……っ!」
フロラやヒルス村長、デイル長老を死なせるわけにはいかない。それに、ウィンディー達だってやっと村に帰れたところなのに……!
そんなこと、させてたまるか!
俺が懇願すると、ラルヴァは目と鼻の先まで顔を近づけて、
「だったら吐け! お前がやったのか、どうなんだ!」
俺が今ここで自白しなかったら、ウィンディー達が勝手に逃げたことになってしまう。それに、いくら町の騎士団をお願いしてもらったとは言え、彼らが本当に俺達の村に来てくれてるかも確認のしようがない。
もし、騎士団が居ない状態の村を襲われたら、確実に村は滅びる。
村を守るためには俺が白状するしかない。
だから、俺はラルヴァの鋭い瞳を見据えて口を開いた。
「……私が、全部やりました」




