第14話 計画決行
下調べから四日目。俺達『生贄』は脱出のための計画について話し合っていた。
もちろん鬼達の目は完璧に盗んでいる。下手に文章には残さない。
朝食の時はちゃんと朝食を食べるし、運動と称した太らせないためのトレーニングも怠らない。
鬼達が俺達の管理をしなくなるその時が、話し合いの開始の合図だ。
昨日、俺だってただ無益にオグルとオグレスの部屋に行った訳じゃない。彼らの部屋に防犯カメラのモニターらしき物はないか、盗聴機のマイクらしき物はないか、ちゃんとチェックしていたのだ。
こんな小さな小鬼に『生贄』の管理は任さないだろうが、念のためだ。
それにもしラルヴァに全て筒抜けだったとしても、何の問題もない。
そもそも、筒抜けにはさせないからだ。
まずは俺達の部屋にカメラやマイクっぽいものがないかを確認。まぁ、素人が見つけられるような所に設置するはずもないので、実際のところは分からない。
それでも、『音』だけは遮断できる。
ウィンディーの風魔法で。
彼女の魔力は、最近消費していないということでほぼ無限に近い量まであるらしいから、ここでも遠慮なく活用させてもらう。
脱出計画について話し合う時は、全員が額を付き合わせて話すのではない。
全員バラバラ、というのも変な話だが、『普通』を装っているのだ。
例えば、いつも仲良く喋っている子達はその体制で。笑顔でいつも通りにしてもらう。それでも話している内容は楽しいものじゃない。
これなら例えカメラに姿が映っていても、普通の会話をしているとしか見られない。
それから問題は『声』だ。いくら『普通』を装っていても、声が聞かれていたら元も子もない。
それをウィンディーの風魔法で、消し去るのだ。
具体的には、彼女が魔法を使う時に発せられる風の音を利用する。
幸いにも俺達の部屋には窓がいくつか取り付けられてあったので、そこに向かって風魔法を使ってもらった。
風魔法本体のゴーゴーという音に加えて、窓ガラスがガタガタと揺れる音。それを発生させることで、俺達の会話の音をカメラや盗聴機から完全に消し去ることが出来ると考えたわけだ。
もちろん、風魔法の発生源は窓の側だけじゃない。
盗聴機が取り付けられていそうな壁際やドアの近く、さらには天井と床全面にも発生させてもらってる。
そして俺達自身も出来るだけ小声で話すようにする。
そうすれば、あらかたの声は遮断できるに違いないからだ。
このような対策を万全に整えた上で、俺はまず皆に計画について話した。
俺が本当は男で、生贄としてさらわれてきた女の子達を助け出すために女のふりをしてここに潜り込んだこと。
同じ村の出身であるウィンディーと他の何人かしか、始めからこのことを知っている人間は居ない。
それから話を聞いていくうちに、生贄の三割は別の村出身の子達だということが分かった。
生贄制度を導入しているのは、てっきり俺達の村だけだとばかり思っていたが、どうやらそういう訳ではないみたいだ。
おそらく、俺達の村が生贄を週末にしか渡さないため、他の村が妥協してくれたのだろう。
お互い、自分の村が鬼によって滅ぼされる最悪な運命だけは避けたいはずだし、妥協してくれたのは多分そういう理由だ。
それから計画の中身についての話に移った。
まず決行時間は夜。それも鬼達が寝静まった頃を狙う。
それから俺達がこっそりこの部屋を抜け出す。その際、俺が部屋のドアの前に炎魔法で火炎を起こす。
その次に皆をベランダまで誘導して、部屋からベランダまでの廊下にも炎魔法をかける。特にここの炎魔法は強力にする。
おそらくは煙たくなったか火災報知器が鳴るかして、鬼達が様子を確認するために起きてくるだろう。
その時には既に火の手が回っている、という計算だ。
俺達を助け出そうと部屋に向かったとしても、そこから発火しているため近付けないはずだ。
そしてメインの出口から鬼達は脱出しようとするだろう。
敢えて、メインの出口に炎魔法はかけない。ベランダに来られたら困るからな。
それにベランダから一番近いところに居るオグルとオグレスも、わざわざ発火元のベランダから避難しようとは思わないだろう。
皆をベランダに到着させてから、俺の火災で引き起こした熱風とウィンディーの風魔法を使って皆を包み込み、二つの風で脱出させる。
ラルヴァがメイン出口の鍵を取りに帰る前に、俺は一人でラルヴァの部屋に侵入する。そして鍵を探すんだ。
そして俺がラルヴァに見つかって、あえなく逃亡を謀る。
足の速さには自信があるから、皆が脱出し終わるまで逃げ回って時間を稼ぐ。
俺がラルヴァ達に捕まった時点で、炎魔法は解除だ。もう火災を起こす必要もない。
ウィンディー達が脱出できてからの流れは、全部彼女に任せることにした。
悪いけど、その時俺は捕まってる設定だからな。
そして村に帰れたと仮定して、ウィンディーには町からの騎士の派遣を依頼してもらう。
おそらく、鬼達は俺以外の生贄が消えたことにすぐ気付く。
そうなったら間違いなく怒りの矛先を村に向ける。
村をあいつらに襲わせないためにも、町の騎士団に守ってもらうんだ。
「ここからは完全にウィンディー任せになってしまって申し訳ないが、お願いしても良いか?」
計画を全て話し終わったあとに、俺がウィンディーに尋ねると、
「任せて。レノンちゃんが助けに来てくれたおかげで私達は村に帰れるかもしれないんだもの。村に帰れた後のことは、しっかりやるわ」
「よろしくな、ウィンディー」
すると、ウィンディーは急に不安そうな顔をした。
「でも、本当に大丈夫なの? レノンくんだけ置いていくなんて、やっぱり私……」
そこで俺はハッとした。今までは淡々と話を進めてきたが、皆の気持ちを一切聞いていなかった。
ウィンディーも皆も、とても心配そうな顔で俺を見ている。
そりゃあ、生贄の一人が捕まりに行く作戦なんて、乗り気になれないよな。
「大丈夫だよ。捕まるのだって計画の内だ。ちゃんと打開策も考えてあるから心配しないで」
「……分かった。せっかくここまで細かく考えてくれたんだもん。ここでごねるわけにはいかないわ」
ウィンディーはグッと拳を握ると、
「レノンくんの決意を無駄にしないためにも、私達がちゃんと先に村に帰るから」
「頼んだよ」
俺達は、笑顔でグータッチを交わした。
ウィンディーの桃色の瞳にはうっすらと涙が浮かんでいたが、涙は無事に村に帰れるまで取っておいてくれよな。
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
そして、いよいよ日が暮れて夜がやって来た。
俺はもう一度皆に声をかける。
「良いか? 話し合った通り変更はない。皆、ちゃんと逃げてくれ」
皆は躊躇なく頷いてくれた。
いよいよ。いよいよ、脱出計画を決行する時だ。




