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第13話 見出だした可能性

「あのさ」


 下調べを始めて三日目。朝食を食べ終えた俺は、昨日見せてもらったオグルとオグレスの部屋を訪れていた。


「ん? どうした? レノン」


 拳を素早く突き出したり、足を突き上げたり、多分戦闘訓練をしている青髪の小鬼が動きを止めて俺を見上げる。


「どうしたの?」


 机に座って紙に何やら書いていた桃髪の小鬼も、不思議そうな顔をした。


 俺は二人に、あるお願いを持ちかけてみることにした。


「もっと色々見学したいから、他の部屋……例えばラルヴァさんの部屋とか入れない? あっ、ついでに王様にも挨拶したいし」


 変に思われないように、王への挨拶も兼ねていることを分かってもらわないとな。


 まぁ、実際はあの王室からどういう風景が見えるのかとかを確かめたいだけなんだけど……。


 でも、きっと良い返事が返ってくるに違いない!


「うーん、どうだろな」


「え?」


 嘘だろ!? 駄目なのか!?


 オグルは顎に手を添えて眉を寄せると、


「ラルヴァさん、おれ達のことも一回も部屋に入れてくれたこと無いんだよ。だから、レノンが入るって言ったらもっとダメだと思うんだよな」


「嘘……でしょ?」


 俺は思わず後ずさってしまう。


 あっさりOKからの潜入成功! で、出口の鍵をゲット!


 そんな風にイメージしてたのに……崩れた……。


「わたしも、そう思う」


「オグレス……」


 遠慮がちに、オグレスが言った。


 やっぱり駄目か……。ていうか、オグルとオグレスまで部屋に入れさせたことないとか、どれだけ疑り深いんだよあいつ。


 うーん、困ったな。昨日のラルヴァと言い、この屋敷で都合よく物事が進むことはないってことか。


 あくまでも『生贄』として管理してるだけって感じだな。


 確かにご飯も美味いし、生活環境だって申し分ない。でもそれには、俺達『生贄』に良い思いをさせるって思惑も含まれてたのか……?


 ここでの生活が村での生活を上回れば、村に帰ろうという気を起こさせないってか?


 おいおい、冗談は寄せよ。俺は皆を村に返すためにここに来たって言うのに、それが達成出来なかったらどうするんだよ。


 俺、ただただ女だって嘘ついて捕まりに行った愚か者じゃないか……。


 いや、今は俺のことはどうだって良い。ひとまず脱出方法の確立を急がなきゃ。


 これ以上余計な詮索は止めて、メインの出口からの脱出も諦めて、隣のベランダから脱出するか……?


 いやいや、生贄の女の子の数だって少ない訳じゃないんだ。そんなことしてたら間違いなく見つかる。


 せめてベランダからの脱出を勘づかれないように出来れば良いんだけど……。


 あっ! そうか! ラルヴァの部屋に侵入すれば良いんだ!


 よし、これならいけるかもしれない!


「レノンー。大丈夫か? ボーってしてるぞ?」


「あ、ああ、うん。大丈夫、ありがとう。やっぱり駄目だよね。じゃあラルヴァさんの部屋に入れてもらうのは止めとくよ。ありがとう、お邪魔しましたー」


 ポカーンとしている小鬼二人。


 でも今の俺には二人に構ってる暇なんてないんだ、悪いな。


 適当にお礼を並べ立てて二人の部屋から出ていき、俺は足早に『生贄』達の部屋へ向かう。



 ※※※※※※※※※※※※※※※※※※



「ウィンディー! 聞いて!」


「えっ? どうしたの? レノンちゃん……そんなに息切らして……」


 俺は部屋の中を見回してから、彼女の耳元でそっと話しかけた。


 思わず大声を出してしまったが、他の女の子達は楽しそうなお喋りに夢中で、俺が帰ってきたことにさえ気付いていないみたいだ。


 本来なら存在の薄さに気付いて落ち込んだりするものだが、今の俺達には逆に好都合だ。


「いけるよ! ここから出られる!」


「嘘! でもどうやって……」


 ウィンディーは驚きつつも、大声にはならずにあくまでも冷静に脱出方法を聞いてくれる。


 こういうところが信頼できるんだよな。


「ウィンディー。君、風魔法使えたよね」


「うん、それは使えるけど……」


「それで皆を逃がしてほしいんだ」


 ウィンディーは桃色の瞳を丸くした。


「私が? でも一気に大人数を運ぶなんて出来ないわ。せいぜい二、三人……頑張っても五、六人しか」


「悪いけど、限界まで頑張ってほしい」


 俺は両手をパチンと合わせて、彼女に懇願する。


 ウィンディーは少し戸惑いながらも、


「えぇ、それは良いけど、五、六人だけよ? 生贄の子達全員は無理だわ。全部で十人居るんだもの」


 なるほど、やっぱり生贄は全部で十人か。どうせこの計画は明日の夜に決行するわけだから、新たにやって来る生贄も居ない。


 数に変更はない、と。そうと決まれば話は簡単。


「大丈夫だ、あとは俺に任せてくれ」


 それでもウィンディーは不安そうな顔をした。


「でもレノンくん、風魔法は使えないでしょ? あなたが使えるのは確か……」


「炎魔法」


 ウィンディーの言葉を紡ぎ、俺は自信たっぷりに言う。


「ほら、風魔法なんて使えな______っ!」


 言いかけたウィンディーの言葉が止まった。まるで、何かを思い出したかのように。


 彼女の見出だした可能性と俺の考えは、どうやら一致してるみたいだ。ウィンディーも強い決意を瞳に宿している。


 俺はウィンディーに向かって頷くと、


「そういうことだ。風魔法を使わなくても、物理的に風を起こせれば良い」


 ウィンディーも俺に向かって頷いてくれる。


 彼女の方から異議申し立てがないのを確認してから、俺は生贄の皆に向き直った。


「皆! 聞いて!」


 楽しげに喋っていた女の子達が会話を止めて、一斉に俺の方を見る。


 俺は生贄の一人一人と視線を交わし、深呼吸をした。


 そして再びウィンディーを含めた生贄全員を見回す。


「明日の夜、皆で村に帰ろう!」

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