巨大なる海たちの舞踏会 〜 可憐なる湖の令嬢を争って 〜
今宵の舞踏会──
球形のテラ城へ、世界中から海の令息たちが集まった。
極東より日本海、オホーツク海、福岡は玄界灘からやって来た玄界灘──
地中海、エーゲ海、東シナ海──どいつもこいつも縁海、いわゆる雑魚だ。
この俺様、広々とした勇姿を誇る、太平洋のごとき太平洋に敵う者は見当たらないッ!
せいぜい俺に似た名をもつ大西洋がライバルといえるが、所詮は俺様の面積の半分ほどの海。
他には褐色の肌のイケメン、インド洋のごとき趣を湛えた印度洋──あとは南極海と北極海ぐらいだが、ホモやふたなりをライバルとはとてもいえないよな。
今宵、誰もがあの可憐なる令嬢──『カナダの奇跡』、オマーン・湖伯爵令嬢とペアになることを狙っている。
「オマーン・湖伯爵令嬢、どうかわたくしめと踊ってくださいませんか。わたくし、世界一の面積を誇る太平洋と申します」
俺は自信たっぷりに彼女の前へ進み出ると、申し出た。
美しい──
なんという深い碧色を湛えた瞳であることか。
その唇には虹色の、誠に食欲をそそるレイク・トラウトがピチピチと泳ぎ、海の神秘とはまた異なった、清潔な淡水の、流れるような水色の長い巻き毛が、塩っけのキツい我々を恍惚とさせる。
「わたくし──」
真水のような透き通る声で、伯爵令嬢は言った。
「もう、心に決めた殿方がおりますの」
舞踏会の会場がざわついた。
誰だ──?
心に決めた──?
俺様ではないのか?
この広大なる俺様を差し置いて、この神秘を湛える美しき伯爵令嬢のハートを射止めたヤツとは──一体!?
「あっ、僕でぇーす」
そう言って、手を挙げながら駆け出してきたのは……誰だ? こんなヤツ、俺様は見たことが──
「どうもーっ。僕、瀬戸大橋がかかってることで有名な、瀬戸内海でぇーす」
橋がかかっているだと!? 橋をかけられるような狭き海など、海と呼べるものか!
しかし、伯爵令嬢は、我々が思わず全員で「ガーン!」と言う他ないことを、仰ったのであった。
「私……、湖ですので、ちいさなお方が好きですの。貴方がたは大きすぎて、私の中にはとても入りませんわ!」
ガーーーン!




