第九十六話「異世界魔王は支配した」
「クックックッ。こんなものか……勇者の力と言うものは」
はい、勇者ケンジぴーんち。
「ぐっ……このままじゃ……」
はい、味方はみーんな死にましたー。背水の陣でーす。
「どうだ? そろそろ負けを認めて妾の臣下にならぬか?」
「誰がっ……貴様なんぞにっ……」
はーい。定番台詞入りましたー。そろそろ逆転しまーす。
「ムフフ……強がっていられるのも今のうちじゃ……心ゆくまでいたぶってやるぞ……クックックッ」
「じゃあ、ここに歩を置いてっと」
「へっ?」
「次にここに角を置くと」
「はっ?」
「あ、飛車いただきまーす」
「へあぁ!?」
あーあ。玉将だけだった健司の陣地が見る見るうちに……。
「じゃあ、これで詰みですね」
魔王様の王将は次何をしても取られる状態となり、完全に詰む。必死に他の手を考えているようだが、詰みとなった以上そんな奇跡のような手はない。
「ぐああああぁぁぁ!!! 何故じゃああああぁぁぁぁ!!!!」
そりゃ観戦してたこっちの台詞だ。せっかく健司が勝たせてやろうと詰み筋を全残しにしてやってたのに、それを何度も潰して相手の駒を全部消してやろうと調子乗るんだもん。
しかも自分の王手にも気づかず無反応……そりゃあ何したって勝てない。
これで健司の51勝0敗。もはや可哀想通り越して悲劇だな。
「あの……もう一回します?」
「むうぅーーーーー!!」
ほっぺたを風船のように膨らませてふてくされる。
そりゃあ八枚落ちで負けたらな……。
ただ相手が悪すぎる。相手は健司。趣味で始めたはずの将棋が、アマチュア名人レベル。プロ棋士とも互角に渡り合うバケモンだ。
「もう……将棋飽きた」
まるで飽きたおもちゃを捨てる赤ちゃんのように駒を捨てた。
「こらっ! きちんと片付けなさい!!」
早紀が叱ると渋々駒をきちんと片付ける。
「こ……これでよいのか?」
「っん〜〜〜〜!! よくできましたねーーー!!」
思いっきり撫で回すお母さん……いや早紀は、ご満悦の笑みで頰をサタンにすり寄せる。
「……マモン。妾は馬鹿にされてるのか?」
「……いえ、魔王様は愛されているのです」
少し間があった執事の耳元でこっそりと囁いてみる事にした。
「お前今、完全に可愛いって思ってたろ」
「思ってません」
「完全に萌えてたろ」
「……魔王様をお守りする使命に燃えているのです」
「じゃあ、あの魔王様見てみろよ」
撫でられ続けだんだんとろけたような顔で猫のように「ふみゃー」と和むロリ褐色少女。
「かわっ! ……の様子が心配ですね。雨が降りそうです」
「魔王城なのに黒い雲すらない快晴だがな」
「ぐっ……私は別の地域の話をしているのです!! 」
「他のティエアの地域も快晴だよー?」
アトゥムにトドメを刺されて完全に敗北。魔王の執事様は完全に息の根を止められた。
「まぁ気にしなさんなマモンくん!」
豪快に肩……には手が届かないから背中のあたりを叩くアトゥム。
「おいっ! タクミ!! お主は何か知ってるゲームはないのか!!」
サタンがそう命令すると、俺は考え込む。
「うーん。俺が知ってるのだと……トランプ、麻雀……あと囲碁かな?」
「おお!! イゴとな!? 面白そうな名じゃ。早速やるぞ! スピカ!! 準備をせい!!」
言っておくが、これはただ単に遊んでるだけではない。
スピカの持ってる魔法の中に自分の記憶を他人にコピーするものがある。
これを魔族に使って知性を身につけられないかと言うものだ。
つまり、これを使えばモンスターも知性を身につけ、法を遵守させ、共存できないか? と言うわけだ。
さらにこれを量産体制を整えやすい機械にできれば敵性ユニットが少なくなり、レベル上限を解放しても平和な世界が作れる。
……俺が運命の破壊者になったので、レベル解放の手順はもはや簡単だ。だが、理性のないモンスターがいきなりレベル解放して暴れ出しても困る。なのでこう言った取り組みが開始されたと言うわけだ。
「勝った…………計画通り…………っ!!」
囲碁アニメで一世を風靡した「ライトの碁」の決め台詞で彼女の陣地を荒らす。
「うぎゃあああぁぁ!!!」
囲碁のことをよく知らない人に説明を入れると、要するに陣取りゲームなのだ。碁石で陣地の境界線を作り、相手の邪魔をして、相手より多くの陣地をとった人の勝利となるゲームだ。邪魔する過程で相手の碁石をとったりもする。
基本的に下手側は黒(先手)を持ち、白(後手)を上手側が持つ。今回は九子置き(最初に石を九個置いておいて、下手側に有利な状況を作ること)のハンデを魔王様に与えている。
で、現状を簡単に説明すると、黒・魔王様が築き上げてきた広大な土地のど真ん中に急遽現れた白・タクミ軍の城、攻め落とさなければ、その広大な土地のほとんどが失われるだけではなく、境界線に使ってた碁石も取られて相手の陣地をさらに埋めることができる。そんな大ピンチというわけだ。
しかも、その城を守るため、別の俺の土地から碁石を伸ばしていく手もある。こうなると俺の置いた碁石は取れなくなるので、彼女の勝利は絶望的になるわけだ。
九子置きのハンデもすでにない。この勝負……勝ったな。
「……ここ置いてみて」
見かねた早紀がサタンに助言する。
「へ?」
その場所は、俺も想定外の場所だった。確かにサタンの陣地のど真ん中に置いた俺の石をとるにはいい手かもしれないけど……そんなところに手を入れてたら俺に他の陣地をとられちまう。サタンの陣地はさらに減っちまうぞ?
「……もうここからは実験も必要ないでしょ? 私も助言させてもらうわ」
「へぇ……早紀、ライトの碁全盛期にさんざん碁を打った俺に挑む気か?」
「そっちこそ…………私に勝てると思ってるの?」
「わーーい!! また勝ったのじゃーーー!!!」
「う……嘘だ」
囲碁だけじゃない……将棋でも健司に勝ってしまった…………。
「マジか……あそこから逆転すんのかよ……」
「ありえない……名人クラスと戦ってる気分だった。あんな打ちまわしありかよ」
実際将棋の名人の称号を持つ人と対局したことがある健司。あいつが言うからには本当にそのくらいの実力なのだろう。
こっちは背後に伝説の一手を目指した亡霊でもいるのかの如く鬼気迫る追い上げを見せつけられ、一気に逆転。あれよあれよと言う間に俺の陣地は黒一色に染まった。
「これでも早紀ちゃんはゲームの天才だからね。エストギルドでポーカーやった時に馬鹿勝ちしたせいで殿堂入りと言う名の出禁になったくらいさ」
アトゥムが自慢気に答える。さ……早紀にそんな特技があったとは…………。
「っていやいや!! それでも将棋名人レベルはないでしょ!!」
「実は早紀ちゃんは女流棋士の誘いを断ってるんだよねー……つまりはそのくらいのレベルってことさ」
「そんな……嘘だろ?! なんで断るのさ!!」
「だって、ゲームは楽しく……でしょ?」
ようするにプロ棋士の殺伐とした雰囲気が嫌でやめたのか……。なんて贅沢を…………。
ただ……彼女にとってゲームとはそういうものなのかもしれない。
早紀がゲームをしていたのは主に病室や家の中だ。白血病で何度か病院に運ばれたこともあるし、学校もよく休んでいたらしい。闘病のストレスでただでさえいっぱいいっぱいだったのに、一番好きなゲームにまでストレスをかけたくなかったのだろう。
「早紀がゲーマーか……」
ヒーロー特撮、アクション系アニメ好きの俺と。
萌え系、アイドル系アニメ好きの健司と。
チートレベルのゲーマー早紀……。
こりゃまぁ…………見事なまでにオタクがそろったもんだ。
だが……もし彼女が病気ではなく現実世界で生きていたら……そうしたら多分、一緒にゲームとかやって楽しんでたんだろうなぁ……。
「なに? にやにやして」
早紀が俺に聞いてきた。
「いや……まぁ、多分俺達が生きてたら格ゲーとかいろいろやってたんだろうなーって」
「あはは……なぜかゲーム機は作れなかったからね……なんでなんだろ?」
「それはカテゴリと容量の問題さ」
俺達の疑問に後ろにいたアトゥムが答える。
「ここは何度も言うようにRPGツクレールの世界。だけど、そのRPGツクレールでは格闘ゲームとかの別ジャンルのゲームは再現が難しいんだ。例外はあるけどね」
「例外?」
「例えば、ゲーム会社が舞台のゲーム。ゲームを作ることを目的としている場合は、ゲームのデバッグという目的で再現が可能だ。これは別の世界で実証済みさ」
なるほど、デバッグ……つまりバグ処理ができなきゃゲームを作るという目標を達成させることができないからな。
「だけど、既存のゲームをやりたい場合は、丸まる一本のゲームをこちらの世界にコピーするわけだ……本来容量が小さいRPGツクレールの世界にそんなもの持ち込んだら、ティエアを含めいくつもの世界が壊れるか、そのたった一本のゲーム世界に飲み込まれてしまう」
「……パソコンのハードディスクにゲームをインストールして、容量が足りない場合勝手にあたりのものを削除して容量を強引に開けるって事か?」
「そういうこと。パソコンとの大きな違いは削除するゲームを事前に選べるかどうか。この世界はそこまでデジタルではないし、ユーザビリティに優れてるわけじゃないのさ」
なるほどな……ん?
「まてよ。って事はアトゥムは全世界を管理できるのか?」
「ああ、RPGツクレール次元の始まりの神の特権だね」
「って事は、夏樹先輩や影沼の元の世界も知ってるのか?」
夏樹先輩の事はアトゥムにすでに話してあるし、影沼については戦った相手だ。もしかしたらすでに調べてるかもと思った。
「ナツキ? ……カゲヌマ? いったい誰の事だい?」
「お、おいおい。アトゥムがこの間戦った相手じゃねーか。夏樹先輩の事もアトゥムに話したぜ」
すると何かにハッと気付いたと思うと思い出したかのように手を叩く。
「あ、ああ!! ナツキに……カゲヌマね!!」
「全く……頼むぜ?」
「ごめんごめん。今度調べておくよ」
そう言って明後日の方を見る。なにしてるのかと思えばただメモを取ってるようだ。
「…………」
早紀がその様子を心配そうに眺めていた。




