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【16200PV感謝】剣に見込まれヒーロー(♀)に 乙女の舞で地脈を正します 剣巫女・剣奈 冒険の旅  作者: 夏風
第十章 虐げられし魂の救済

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188 かりんとう饅頭と花火パーティ

「そういえばさ、花火出来なかったね」

「そうだな。せっかく浴衣持っていったのによ」


 淡路島から帰宅した夜、夕食後の団らんで剣奈と玲奈がお茶を飲みながら話し合っていた。ほのかに立ち上る茶葉の香りが食卓に落ち着いた雰囲気を醸し出していた。

 

 窓の外では、夏の夜風がやさしく葉を揺らしていた。食後のテーブルには和やかな余韻が広がっていた。


「どうぞ」

 

 千鶴が、食後のみんながくつろぐテーブルに、ころんと丸いかりんとう饅頭をそっと置いた。ふわりと揚げ黒糖の香ばしさが食卓に広がった。


「うわぁ!かりんとう饅頭大好き!お祖母ちゃんありがとう」

「ありがとうございます」

「つかれたやろ。甘いもんで疲労回復や」

 

 剣奈が嬉しそうに千鶴にお礼を言った。玲奈も殊勝に頭を下げた。千鶴がそれを微笑みで返した。

 

 阪急逆瀬川駅近くにある和菓子屋彩花苑(さいかえん)のかりんとう饅頭である。揚げた黒糖生地の艶やかな表面が、食卓の灯りを柔らかく跳ね返していた。


 剣奈はかりんとう饅頭を一口かじった。カリッと小気味良い音が静かな食卓に響いた。黒糖生地からほんのり漂う、香ばしい甘さが鼻先をくすぐった。剣奈はその甘い香りに顔をほころばせた。饅頭を口に運ぶ手に自然と力が入った。すぐにしっとりした餡のやさしい甘みが口いっぱいに広がった。


 んー バタバタバタ


 剣奈は椅子に座りながら両足をバタバタさせ、全身でかりんとう饅頭を堪能していた。


「カリっと香ばしいのに、ふわっと柔らかいのぉ」


 わらべ姿となった白蛇が両手でかりんとう饅頭をもってニコニコと微笑んだ。千鶴、千剣破、玉藻は、お上品にほおばりながら、みんなの様子を柔らかに微笑みつつ見ていた。

 

 剣奈と白はお饅頭をパクパクとほおばった。二人の手はすぐにかりんとう饅頭の油分でぺっとりとなった。二人は頬までてかてかに光らせながら無邪気に喜んでいた。野島鍾乳洞での怪談騒ぎと、篠と鍾乳洞の浄化の疲れがいっぺんに吹き飛んだ。


「ほへへはー、ははひひゃははいはいはほう?」(それでさー、花火大会はどう?)

「剣奈、はしたないわよ?食べ物を口に入れてお話しするのはやめなさい」

「はあい」


 コクン、ゴクリ


 剣奈がお饅頭を飲みこみ、湯呑みを手にとった。湯呑の温もりが指先からじわりと広がるのを感じた。お茶の渋みが甘さをひとしきり洗い流してくれた。剣奈は改めて口を開いた。


「きゅうちゃとしろちゃが僕らのパーティに参加したじゃん。玲奈姉もボクのほんとのお姉さんになるしさ。ここはやっぱり仲良くイベントが大切だと思ってさ。だからさ、花火パーティーやらない?」

 

「あらあ?楽しそうですわね」


「きゅうちゃとしろちゃは花火知ってる?」

「しっておるぞよ?夏になると海辺で大きな音をたてて夜空に火の花をさかせるあれじゃろ?」

 

「そうねぇ。私も海辺に意識を飛ばしながら見ていたわ。大きな音とともに、波のきらめきをなぞるように、数えきれないほどの光が弧を描いて輝くの。海辺がたくさんの人の笑い声でにぎわって」


 剣奈の問いかけに白と玉藻が答えた。剣奈が続けていった。


「うんうん。それそれ。宝塚でもあるんだけど、もう終わっちゃっててさ。それでね、淡路島でやるはずだった花火がまだ手付かずで残っているんだよ」

「そうだな。花火どころじゃなくなってたもんな」


 玲奈がにやりと含みのある笑顔で剣奈を見た。ちらりと剣奈の腰に視線を下げながら。剣奈はその視線にビクッとした。そして、おもらしのことをばらされてはたまらないとばかりに慌てて話を続けた。


「そ、それでさ、きゅうちゃとしろちゃの歓迎と、玲奈姉のお姉さん祝いも含めて、明日お外で花火大会しない?タダッちと山木先生にも声かけてさ」

 

「剣奈。思い付きでいきなり明日というのはやめなさい。まあ、今はお盆休みだし大丈夫とは思うけれど」


 千剣破があきれながらライムで藤倉に入力した。

 

【千剣破】

 藤倉先生、お疲れ様です。本日はありがとうございました。


 ピロン


【藤倉】

 いいえ。こちらこそ楽しかったです。


「あら、即レス!藤倉先生早いわね」


 藤倉宛のライム入力を続けようと思った千剣破であったが、冒頭のあいさつで瞬間的に既読がついて返信してきたのである。入力してしばらく放置するつもりだった千剣破がびっくりした。

 

 藤倉はゼミ生との連絡にライムを使っていた。ライム操作は学生並みの素早さだった。


【千剣破】

 玉藻さん、白蛇さんの歓迎と玲奈の養子の前祝に剣奈が花火パーティを明日したいと言ってます。よろしかったら先生もいかがですか?


【藤倉】

 大丈夫です。行きます!


「あら、即レスで藤倉先生参加が決まったわ?」

「さすがタダっち」


 剣奈が大喜びで破顔した。


 ――なにが「さすが」なのか、全然わからないのだが…… 


「山木先生どうかな?」

「山木先生とはライムアドレス交換してないわね。花火のお誘いで電話するのもちょっと子供っぽいし、どうしようかしら」


【千剣破】

 山木先生もお誘いしたらと思うのですが、藤倉先生から聞いていただくことはできますか?


【藤倉】

 おけおけ!藤倉先生にメール入れます。


「藤倉先生から尋ねてくださるって。しばらく待ちましょ」

「はーい」


 ピロン


【藤倉】

 山木先生はお盆で家族対応をするらしいです。残念がってました。


【千剣破】

 承知しました。お手数おかけしました。藤倉先生は明日は夕食もご一緒にいかがですか?


【藤倉】

 参加確定☆彡


「あら、藤倉先生、書きぶりが若いわね。学生さんとやりとりして慣れてらっしゃるのかしら」


 千剣破が藤倉からの返信に苦笑した。


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