187 白蛇と玉藻の邂逅 呆れる千剣破 冒険のたびに生き物を…
「ただいまー」
「おかえりなさい」
わん!
「あらあ?」
「げっ!」
剣奈たちが宝梅に帰着した。岩屋の犬がリュックから出され、前栽に降ろされた。千剣破、千鶴、玉藻が、みんなを出迎えた。
玲奈の胸から鎌首をもたげた白蛇を見て、玉藻が声を上げた。白蛇は玉藻を見て、驚いた声を上げた。
「白蛇さんもいらしたのね?」
「九尾っ!なぜここに!?」
「うふふ。剣奈ちゃんに助けられてね。お世話になることにしたの……」
「剣奈!今度は喋るヘビと犬?冒険のたびに生き物を持ち帰るのは、やめなさい!」
千剣破が呆れて、剣奈に言った。
「えっと、その、ごめんなさい。ダメ?」
「まずは話を聞かせて。藤倉先生も上がってください」
千剣破は状況説明役として、藤倉を引き留めた。剣奈が玉藻を連れて帰った時、事態を把握できなくて、あたふたしたのを思い出したからである。あの時、藤倉を帰したことを、千剣破は後悔していた。そこで、今回はしっかりと藤倉を引き止めたのである。
「わかりました」
藤倉は嬉しそうにバイクをガレージに入れて上がった。一回り以上も年下の教え子に、藤倉は自然と敬語を使っていた。そのことに藤倉は気付いていない。
「まずは藤倉先生、軽くシャワーを浴びてください。お風呂のスイッチを入れますが…… すいませんが、藤倉先生はシャワーだけで。それが済んだら、玲奈と剣奈はお風呂に入りなさい。蛇さんはお風呂にする?それとも私が洗いますか?」
「風呂でいいのじゃ」
「じゃあ私は、ワンちゃん洗ってきますね」
「じゃあ私は、食事の支度でも手伝おうかしら」
千剣破が犬洗いをしに、玉藻は食事支度の手伝いをしに、それぞれその場を離れた。キャンプで身体が汚れていた藤倉は、シャワーを命じられつつ、湯船使用の許可は出はれなかった。藤倉はちょっとだけ、ガクリと落ち込んだ。
千剣破はなんとなく、藤倉の残り湯に、剣奈を入れたくなかったのである。藤倉、残念。
千剣破は庭で岩屋の犬を、ゴシゴシとシャンプーで洗った。岩屋の犬は気持ちよさそうにされるがままにされていた。
藤倉は新しいスウェットを着て、玲奈たちにお風呂場を譲った。
「うふふふ」
「こらっ」
「あん!こしょばい」
お風呂場から聞こえる声に、密かに耳を立てつつ、藤倉はぼーっと庭を眺めた。やがて浴衣姿の剣奈と玲奈が現れた。藤倉のマグナムがたぎった。
「うっ!」
すかさず玲奈の前蹴りが、藤倉の股間に叩き込まれた。白蛇は玲奈の首に巻き付きながら、ニヤニヤそれを見ていた。白蛇は、玲奈の嫉妬とツンデレを楽しんでいたのである。さすが齢数千歳のBBA。
「はい、どうぞ」
「うわあ!おにぎりと唐揚げ!大好き!」
「たくさんあるからね!たんとおあがり」
キッチンから千鶴と玉藻が、大皿に盛ったおにぎりと唐揚げを運んできた。
「おぬし、なんだか馴染んでおるな……」
「あらあ?うふふふ」
白蛇がエプロンをして、キッチンから出てきた玉藻を見て、声をかけた。玉藻はうれしそうに微笑んだ。
「きゅうちゃと、しろちゃ、知り合いなの?」
声を交わす二人(一人と一匹?二匹?)を見て、剣奈が声をかけた。
「そりゃ、独特の妖気を振りまく大怪異・九尾じゃからの。船が遭難して浜に流れ着いたときから、ずっと様子を見ておった」
「うふふ。のぞき見の白蛇ちゃんのこと、小さいころから気づいていましたよ?」
「小さい頃とな?あれは妖かし力を使い果たした幼体化じゃろ?人の成長に合わせて変化までして…… 何をしておるのかと見ておったのじゃ」
「だっていきなり大人の姿になったら、盛吉お義父さんも、玉枝お義母さんもびっくりするでしょ?だから、ゆっくり姿を変えていったのよ」
「きゅうちゃの、お父さんとお母さん?」
「千年も前のことよ?船が嵐に巻き込まれて、沈没して、荒波にもまれながら、私は淡路に流れ着いた…… その時、助けてくださった方々……」
玉藻が少し頬を染めながら、遠く淡路の方を見つめた。
「おぬし、その義父に惚れていったからの」
「しらへびちゃん?」
玉藻の妖力が強まった。
「ひっ!な、なんでもない!」
白蛇が慌てて否定した。
「うふふ。仲いいんだ」
剣奈がニコニコして、二人を見つめた。
「そ、そうじゃな」
「あらあ?ストーカーと被害者じゃなくて?」
玉藻がニコリと笑った。千年封じられていたというのに、すでに現代語を使いこなしている玉藻であった。
白蛇は、意味が分からずきょとんとしていた……




