186 キャンプ撤収 淡路の青い空
ブォン、ドドドッ……
ブォン、トトトト……
玲奈のビラーゴと、藤倉のVストロームのエンジンが始動した。お宝探しを終え、テントの撤収を終えた一行は、帰路につくことにしたのである。
テントの撤収でも、藤倉はテキパキと動いた。テントを固定していたロープを外し、ペグの泥を拭い、テントを解体して、袋に収納していった。テーブルやチェア、マットなどもテキパキと分解、収納していった。
玲奈は焚き火台、コンロ、風防などのキッチン周りを片付けた。ナイフやカテラリーを水洗いした後、ペーパーで拭いて収納していった。
「おい、藤倉、水はもういいのか?」
「泥を洗うからもう少し置いといて。俺が最後にウォーターバッグを片付けるよ。牛城さんは終わったら休憩してて」
「お、おう」
「ありがとう。牛城さんが要領いいからすごく手早く済みそうだよ」
「そうかよ」
ぶっきらぼうに返答する玲奈である。その耳が赤くなっていることに、誰も気づいていない。
「おや?」
いや、首に巻き付いた白蛇が、ニヤニヤしていた。
「んだ?この野郎」
玲奈が白蛇をむんずと掴み、地面に叩きつける素振りをした。
「い、いや!ちょっと待て!わ、妾は何も見ておらん!見ておらんぞよ」
「ちっ、そうかよ」
「うふふ。仲良くなったね」
「ちげえよ」
白蛇と玲奈のやりとりを見た剣奈が、嬉しそうに言った。玲奈はぶっきらぼうに返答した。しかしその口角は上がっていた。
キャンプの撤収を終えた藤倉は、黙々とバイクに、キャンプ用具を積み始めた。玲奈もキャリアケースにキッチン用品などを収納していった。
「最終チェクだ。忘れ物なし!」
「ゴミも無いな。ちゃんと積んだな?」
「異世界で環境破壊は慎まないといけないからね。灰も持ち帰るよ」
「意外とテメェ、きっちりしてるな」
「バイクにキャンプ用具積んで、いろいろ旅してたからね。っていうか、俺、どんなイメージなの?」
「節操のねえ、変態ロリコン野郎?」
「……」
「なんてな…… ちったぁ、見直したぜ」
「う、嬉しいよ……」
「うふふ。チームの結束高まったね。それじゃあ、帰るよ?」
「おう!」
剣奈はペットボトルの水を取り出し、肩、頭に水をかけ、タオルで拭った。そして北東南西の方角に、それぞれ深くお辞儀をした。最後に野島鍾乳洞の方に向かって、深く頭を下げた。
遠い昔、厳しい人生を生き、無残に、池に沈められた篠。彼女の魂が、安らかに過ごせるよう、新しい生では、幸せをつかめるように祈った。
ヒュウ
風後吹いた。剣奈の髪が揺れた。
「行くよ?みんな、僕に掴まって?」
玲奈は左手で剣奈の服を掴み、右手でバイクのハンドルを握った。藤倉は右手を玲奈の腰に回し、左手でバイクのハンドルを握った。玲奈の耳が赤く染まった。
白蛇はニヤニヤしながら、玲奈の首に巻きついていた。岩屋の犬は、剣奈のリュックに入れられた。リュックがパンパンに膨らんでいた。
剣奈は来国光を両手でもって、天高く掲げた。剣奈の口から、高く朗々とした祝詞が紡がれ始めた。
幸ひ給ひし事を
嬉辱奉りて
ここに来国光を清き真心以ちて
置足らはし
奉る状を
安らけく聞こしめし給へと
恐み恐み白す
ヒュウ……
風が吹いた。剣奈たちの姿が薄くなり、やがて幽世から消えた。清冽な空気だけが、その場に残っていた。
現世に剣奈たちが現れた。それを見た人は誰もいなかった。
「さて、帰るか」
「うん!」
玲奈と藤倉が、バイクの向きを調整した。岩屋の犬を入れたリュックは、藤倉が背負った。
「窮屈だけどごめんね」
ワン!
「ただちゃ、ワンちゃんお願い」
「了解」
玲奈がバイクに跨り、剣奈がタンデムシートに座ってタンデムベルトをカチャリと繋いだ。白蛇は玲奈の胸に潜り込んだ。
白蛇、すっかり玲奈が気に入ったようである。
「しゅっぱーつ!」
「「おう!」」
ブォン、ドドドッ……
ブォン、トトトト……
玲奈のビラーゴと、藤倉のVストロームのエンジンが始動した。
ドドドドドド ヴォォォー
トトトト ヴィーーン
ビラーゴとVストロームが走り出した。昼過ぎの淡路の空は、青く澄み渡っていた。
風は剣奈たちを優しく包んでいた。
第九章 完




