185 みんなで朝食 お宝探しと赤い耳
「ふああああ」
朝焼けを見ていた剣奈が、突然眠気に襲われ、大きなあくびをした。
「玲奈姉、ボク、眠い…… ちょっと寝るね……」
剣奈がテントに潜り込み、横になった。そしてすぐに、すーすーと寝息を立て始めた。
「アタイらは寝てたが、こいつは徹夜か…… ガキに徹夜はきつかろうよ」
玲奈は剣奈のリュックから着替えを取り出し、剣奈の下着と服を着替えさせた。股間からアンモニアの匂いが立ち上った。玲奈は剣奈の股間を、ウエットテッシュで拭った。
「ん」
剣奈が少し身動ぎした。玲奈はシュラフを広げた。そして新しい服に着替えさせた剣奈を入れ、ファスナーを締めた。
「んんん」
玲奈はテントを出て、朝日を見た。右腕を高く天に向けて伸ばし、左手で右腕を掴み、大きく伸びをした。そして、鍾乳洞に向かって歩きはじめた。藤倉が鍾乳洞の入り口から屈んで這い出してくるのが見えた。
「おい、藤倉。剣奈は徹夜で眠っちまった。アタイは添い寝する。しばらく自由時間だ。テメエも寝ていいぞ。別のテントでな」
「そ、そんな……」
藤倉ががっくりと絶望的な表情を浮かべた。玲奈が白蛇の方を向いた。
「そういうわけだからよ。またあとでな」
「うむ。妾も少し寝るとするか」
白蛇が玲奈の足をするすると上った。
「おい!」
玲奈が白蛇をじろりとにらんだ。
「許してたもれ。仲直りしてたもれ」
白蛇が玲奈の首にゆるく巻き付いた。そして、あざとく上目遣いで玲奈を見つめながら言った。目がうるうるしていた。
「ちっ。好きにしやがれ」
玲奈は、白蛇を首に巻き付かせたまま、すたすたと歩きはじめた。テントのファフナーを開けて中に入ると、剣奈の隣にシュラフを広げ、その中に入り込んだ。白蛇もちゃっかり、玲奈のシュラフの中に潜り込んだ。
クーン
残された岩屋の犬は、声をかけられなかった。犬は哀愁の雰囲気を漂わせ、剣奈と玲奈のテントの横で小さく丸まった。
「じゃあ、俺も一寝入りするか。邪斬さん、一緒に寝ようぜ」
藤倉が自分のシュラフを、バックから取り出した。そして来国光を掴み、隣のテントに入っていった。
―――― 数時間後
「あああ。良く寝た」
剣奈がぱちりと目を覚ました。となりで横になっていた玲奈が、パチリと目を開けた。玲奈は身を起こし、バックをゴソゴソあさると、ウエットティッシュを取り出した。それを剣奈に渡した。
「ほらよ。顔を拭きな。ついでにションベン臭せえあそこもな」
「れ、玲奈姉のいじわる!」
剣奈が真っ赤になって叫んだ。
「ははは。わりぃわりぃ。うまい飯を作ってやるからよ。それでチャラな」
「うわぁ!朝ごはん嬉しい!」
コロッと剣奈の機嫌が直った。さすがチョロ剣奈である。
「おい白蛇。テメェはパンとか、食えるのか?」
「パンも良いが、妾は卵でも、もらおうかの?そのままで良いぞ?」
玲奈は火を起こしてベーコンを焼き、それに卵を落とした。ベーコンの美味しそうな香りが立ち上った。剣奈はすんすんと鼻を鳴らしながらソワソワし始めた。
玲奈はいったん鉄板から離れ、卵が焼ける時間を使って、からしマヨネーズを作った。
そして、パンに切れ込みを入れ、レタスをはさみ、からしマヨネーズとケチャップをかけた。素材がそろうと、焼けたてのベーコンエッグを挟み込み、ベーコンエッグバーガーを三人分作った。
玲奈は生卵を二つ、白蛇の前にコロンと置いた。続いてパンをちぎり、スクランブルエッグをまぶした皿を、岩屋の犬の前に置いた。玲奈、案外、女子力が高い。
「藤倉、起きろ」
「おお!いい匂い。うまそう。牛城さん、いいお嫁さんになるよ」
「うるせぇ。セクハラジジイ」
「ええええ。ひどい」
「ほらよ」
罵りながらも玲奈は、藤倉のために引きたての豆を使った珈琲を入れていた。バターをポトリと落としたバター珈琲である。藤倉の鼻腔に、甘く、香ばしいバター珈琲の香りが広がった。
剣奈のために、たっぷりの牛乳を珈琲に注いぎ、フェオレを作った。剣奈の好みに合わせ、砂糖たっぷりの大甘である。
「「いただきまーす!」」
「おう!」
「おいひい!むっちゃおいひい」
「うまい!すごくうまいよ」
「そうかよ」
剣奈と藤倉が、おいしそうにベーコンエッグバーガーに食らいついた。白蛇はうまそうに、卵を丸のみしていた。岩屋の犬もおいしそうに、スクランブルエッグまぶしたパンにがっついていた。
「じゃあ俺が後片付けをするよ」
「お、おう」
食事を終えた藤倉が、手際よくみんなの使った食器をまとめて袋に入れていった。玲奈の耳が少し赤くなった。
「さてと、じゃあみんなで宝探しに行くか」
片づけを終えた後、玲奈が提案した。
「うん!行く行く!」
剣奈が元気よく言った。剣奈は玲奈と手を繋いで、機嫌よく鍾乳洞に向かって、坂を下りていった。腰には来国光が装着されていた。白蛇は玲奈の首に緩やかに巻いていた。
機嫌よく前に進む剣奈たちの後ろを、とぼとぼと藤倉と岩屋の犬がついて行った……
一行は狭い鍾乳洞の入り口をくぐり、低い姿勢で洞窟を進んだ。岩壁が開け、立てるようになったところからは、一行はライトを照らしながら一列になって進んだ。先頭が剣奈。つづいて玲奈と肩の白蛇、最後に藤倉と岩屋の犬である。
ポチャン
「ひっ」
剣奈は水音に反応しながら、恐々と進んだ。その様子を、玲奈と藤倉が微笑ましく見守っていた。
剣奈は、ゆっくりと慎重にライトで照らしながら、鍾乳洞を進んだ。
「んー。ないなぁ。お宝、どんな形だろう?」
剣奈がきょろきょろとお宝を探し、辺りを見回しながら進んでいった。鍾乳洞が少し広くなったところに、湿った石の柱が見えた。
ピチャン ピチャン
「ひっ!」
足元に湧き水が、細く流れていた。天井から落ちた水滴が、湧き水にあたり、水音を立てた。
剣奈はビクッとして、玲奈の手をぎゅっと握った。玲奈はニヤニヤしながら、その手を握り返した。
「へっ。ビビり剣奈め」
「そ、そんなことないもん!ボク、男の子だから平気だもん!」
剣奈が虚勢を張った。玲奈は明らかに怖がってビビっている剣奈を見て、してやったりとニヤリと悪い笑顔を浮かべた。
剣奈はさらに慎重に進んだ。靴底から、岩のひんやりとした感じが、伝わってきた。ライトに照らされた壁面は、水に濡れていた。
剣奈は、奥の開けた空間にたどり着いた。そこには、わずかな空気の流れがあり、外光が細く差し込んでいた。地面から滑らかな岩棚が、盛り上がっていた。
「あっ!」
岩棚の上がキラリと光ったような気がした。剣奈は岩棚に駆けた。
タタッ
「見つけた!」
鍾乳洞の奥深く、岩棚に置かれた白地に黒の斑点模様の鞘。剣奈は短刀がおかれてるのを見つけた。どこか神秘的な風景だった。
「やったぁ!お宝だ!お宝を見つけた!刀だ!」
お宝を見つけた剣奈が、嬉しそうにお宝の刀を掴んだ。短刀を天に捧げて感謝し、そして、くるくると嬉しそうに回った。
嬉しそうな剣奈の様子を、玲奈と藤倉は嬉しそうに眺めた。ふと玲奈と藤倉の視線がかみ合った。
玲奈がにこりと笑いかけた。藤倉は戸惑いつつ、玲奈ににこりと笑い返した。
玲奈の耳が赤く染まった。




