表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【16200PV感謝】剣に見込まれヒーロー(♀)に 乙女の舞で地脈を正します 剣巫女・剣奈 冒険の旅  作者: 夏風
第九章 千剣破の奮闘 そして篠の道

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

173/196

165 闘いおわり船上パーティー 玉藻は優雅に微笑み 藤倉驚愕す


「お帰り。剣奈ちゃん。お疲れ様でした。さあ、乙女舞に行こう!」


 帰還した剣奈を見た藤倉が開口一番言った。よっぽど楽しみにしていたようである。


 剣奈は目がぐるぐるナルトになった。猿との闘いは苛烈だった。九尾との闘いでは死に追いやられた。


 藤倉との約束は……


 剣奈の頭からすっかり消えていたのである。


「藤倉ぁ。悪ぃがそんな余裕はなかったんだ。剣奈はいっぺん死んだ。戻ってテメェを連れて乙女舞をする余裕なんぞなかったんだ。空気読みやがれ」


 玲奈がじろりと藤倉を睨みながら言った。


「そ、そうなんだ」


 藤倉は残念そうに目を伏せた。しかし剣奈が死に追いやられたということを聞き、ここで駄々をこねるのは得策ではないと大人の判断をした。


「ごめんなさいね。そんな約束をされていたのね」


 玉藻が言った。


「あれ?え?いつの間にか増えてる?えーっと、その美人さんはどなたかな?」


 藤倉が尋ねた。

 

「あ、あのね、色々あって……」


 剣奈が顔を赤らめてはにかんだ。藤倉は可憐に紅潮した剣奈に釘付けとなった。


「コイツ、何でも拾ってきやがるからな。あぁ、アタシもそのうちの一つか」


 玲奈が自嘲するように吐き捨てた。

 

「まあ話を聞こうじゃないか」


 山木がにこやかに言った。


「さあ乗船しよう。そしてその新メンバーの話を聞かせてもらって良いかな?」


「うん!あのね……」


 ――――


 剣奈たちが土生港(はぶこう)からクルーズに出発した。山木の尽力により借り受けたおのころ丸である。

 山木たちはどこからかスロープを調達していた。スロープを使って玲奈のバイクをおのころ丸に積み込んだ。時間は午後四時を回っていた。


 眩いほどの真夏の太陽が、西の空に高く輝いていた。雲ひとつない青空が、さわやかに天空に広がっていた。

 淡路の海は深く澄んだ紺碧に澄み渡っていた。海面に陽射しが反射し、波がキラキラと光った。


 ブォー


 おのころ丸の排気音が響いた。ブルルルル。振動が船体全体に伝わった。甲板が揺れた。船はゆっくりと発進した。


 ゴォォォ


 港を出ると推進音が変わった。山木がエンジンを強めたのである。

 甲板に波しぶきが舞った。陽射しに海がキラキラと輝いた。穏やかなさざ波が時折、水しぶきをあげた。


 ヒュウ


 潮風が青く透明に吹き渡った。剣奈たちは風に包まれた。

 闘いを終えて火照った身体に、潮風はひんやりと心地よかった。夏草と潮の香りが感じられた。


 夕方を回ったというのに真夏の太陽がいまだ高く輝いていた。どこまでも青い空の下、見渡す限り、瀬戸内海は紺碧に澄み渡っていた。

 釣り船が遠くに数艘見えた。遠方に大型船が通るのが見えた。

 陽を浴びて銀色に瞬く波頭の合間を、白いカモメが飛び交った。おのころ丸の白い航跡が後方に長く伸びた。


「剣奈ちゃん。お疲れ様」


 藤倉が声をかけた。デッキにはキャンプチェアが四脚並べられていた。剣奈、玲奈、山木、藤倉の四人の乗船の予定だった。そのため椅子が一脚たりなかった。

 山木が運転席から声をかけた。


「私はしばらくキャプテンに専念するよ。四人でゆっくりと座ってくつろいでいてくれたまえ」


 山木、紳士である。


 藤倉は…… 遠慮もなく剣奈の左隣に座った。剣奈の右隣には玉藻が座っていた。玲奈がしぶしぶ藤倉の左隣に座った。


「剣奈ちゃん。海が綺麗だね」


 藤倉がそう言いながら右手をそっと剣奈の肩に伸ばそうとした。


 ガタッ パシッ


「このセクハラ野郎。立て!席を変われ」

「えええええ…… そんなぁ…… 俺、留守番してたんだよ?もうちょっと優しくしてくれても……」

「ああ。優しくしてやるよ。海に叩っこむのは勘弁してやる。さっさと席を移りやがれ」


 シュン


 藤倉が渋々左端の席に移動した。ちゃっかりイスの向きを変え、身体ごと剣奈の方を向いていた……


「それで…… この美人さんを紹介してもらっていいかな?」

「うん。きゅうちゃ、自己紹介できる?」

「もちろんですわ。私は玉藻。鳴門海峡の海底に長く封じられていましたの。それが悪い闇に取り憑かれて…… それを剣奈ちゃんに救っていただきましたの」


 藤倉は仰天した。鳴門海峡の海底に長きにわたって封じられてきた存在。そんなもの一つしかない。そして名前……


「えっと、もしかして藻女(みずくめ)と呼ばれていた方かな?」

「あらぁ?昔のことですのによくご存じですわね」


 玉藻が優雅に微笑んだ。藤倉は背中に冷や汗が流れるのを感じた。


(藻女、玉藻。それに当てはまる存在は、大怪異「九尾の狐」しかないではないか。剣奈ちゃんはなんてモノを拾ってきたんだ……)


「あの。失礼を承知でお伺いしたいのですが…… こちらの世界で、昔の様に華やかな生活をお望みですか?」

「いいえ。そんな生活…… いままでも自ら望んでしたことはありませんわ。そう…… 宮廷で生活させられた時も…… 無理やりこの島から連れ出されましたの……」

 

「そうなんですか?」

「ええ。浜辺で舞っておりましたところ、運悪く高貴な方に目をとめられてしまって…… あれよあれよという間に……」


 藤倉はじっと玉藻を見つめた。山木はとんでもない話の流れに、船のエンジンを止め、錨を下した。そしてアンカーボールをマストに掲げたのち、デッキに出て話を聞き始めた。


「私、船が難破して、この海岸に流れ着いたの。優しい夫婦に拾われて育てられましたわ。あの時、父が漁にでるのを見送って、無事を祈って舞っておりましたの。それが目に留まってしまって…… 都に出なければ両親に迷惑がかかることになってしまって…… それで……」

 

「そうだったんでね。言い伝えによると、天皇や上皇に、色、いや好意をしめして宮中を騒がせたと聞いたことがあるのですが……」

「そうね。優しく言い寄られたわ。でも…… その時、私には好いた方が心にいたので…… できるだけ距離を取ろうとしておりました」


「そうなんですね」

「ええ。なるべく静かにしていたかった。でも…… 皆様方は…… ことあるごとに宴を開かれ…… 香をしたためた手紙や、和歌、お言葉を沢山いただきました」

 

「そうですか……」

「けっ。嫌がってんのにうぜぇよな」


 玲奈が眉をしかめて吐き捨てた。玉藻が話を続けた。

 

「無下にお断りするわけにもいかず、微笑で流していたのですが…… ある時、帝と親しい女性の方が騒ぎだしまして…… いつのまにか正体が露見してしまい…… 追われることになってしまいましたの……」

 

「はっ。嫉妬かよ。醜いねぇ」

「それで東の地まで逃れたのですが…… 追い詰められ…… 殺生珠に封じ込められてしまいましたの……」

「ひでぇ話だぜ」


 玉藻は顔を伏せ、唇をかんだ。眉根をギュっと寄せて瞳を閉じた。それから顔をあげ、わずかに微笑んだ。

 

「石に封じられた後は…… 意識がもどったり…… ふっと意識が遠のいたり…… まるで夢の中にいるようでした」

「伝説によると九尾の狐が那須野が原で封じられたのは一一五六年(保元元年)ごろ。今から九〇〇年ほど前の話かな」


 藤倉が言った。

 

「あら?そうなのですの?私の記憶では千年ほど封じられていた感覚ですのに」

「そうなんですね。あまりに長い時なので玉藻さんの記憶があいまいになってるのか、伝承の方が作られたものなのか……」


「はっ。どうでもいいじゃねぇかそんなのは。九〇〇年だろうが千年だろうが、そんな長い間閉じ込められてきたんだ。どんな違いがある?屁理屈ばっかこねてんじゃねぇよ。このクソロリが」


 玲奈がうんざりしたように藤倉をにらんで言った。

 

「い、いや……そんなわけじゃ……」


 藤倉がたじろいだ。

 

「はははは。学者にとっては一年でも大きな違いなんだよ。でも…… これは学問じゃない。藤倉君、別にいつだったかなんてどうでもいい、そういうことにしようじゃないか」


 山木が助け舟を出した。


「そうだよ。きゅうちゃは、きゅうちゃ。ボクたちの新しい仲間。過去のことなんてどうでもいいよ。それにお母さん言ってた「女の秘密を暴くものには死を」だって」


 剣奈が口を開いた。

 

「まったくだぜ。クソ藤倉。女の秘密を暴こうとすんじゃねぇ」


 玲奈が追撃した。


「え、い、いや、そういうつもりじゃ」


 藤倉がたじたじになった。


「ははは。その通りだよ。女性の秘密には手を触れない。それが男のたしなみというものじゃないかね…… ところで剣奈ちゃん、玲奈さんお腹減ってないかな?船上パーティをしようと思ってサンドイッチとか、おにぎりとか、からあげとか、ポテトチップスとか、いろいろ買い込んできたんだよ」


 山木がさりげなく話題転換を試みた。

 

「うわぁ。食べる食べる!きゅうちゃの歓迎パーティだよ!」


 剣奈が元気よく言った。


 山木がキャンプテーブルを出し、食事やお菓子を並べはじめた。


「手伝うぜ」


 玲奈が立ち上がって準備を手伝った。


「ほら。ジジイは椅子に座んな。あたいは若いからここでいいよ」


 玲奈が船べりに腰を掛けてニヤリと笑った。


 船上パーティーが始まった。五人はいつまでも和やかに話し合っていた。

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ