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じょじたん~商社マン、異世界で姫になる~  作者: K島あるふ
第五章 戦争の季節

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484/493

484瑠璃色の行軍

 決戦の日の朝が来た。

 この日はセルテ勢にしろトラピア勢にしろ、示し合わせたわけではないがお互い「作戦決行日」と定めた日である。


 デニス正将率いるセルテ軍四五〇。

 目的はトラピア軍を降伏させ、責任者を捕らえる事。

 ハンノ殿下率いるトラピア軍二五〇。

 目的は敗戦を見据え、「賠償に無理吹っ掛けるならまたやってやんぞ」という気概を見せる事。


 この戦いの最初の一手を踏んだのは、後者、トラピア軍だった。

「いやはや、こんな早朝から行軍とは、入隊時の強行訓練以来ですなぁ。

 ああ、夜明け前の空が綺麗だ」

 そういくらか楽しげにボヤくのは、トラピア子爵国騎士府副長の中年男だ。


 彼の言う通り、トラピア軍はハンノ殿下の指示を受け、まだ薄暗いうちから街道を東進し始めている。

 どうせこの後に起こる戦いを今回の遠征最後にするつもりなので、仮陣の天幕などは片付けもせずそのままである。


「セルテの将は優秀なようだし、僕のような軍事素人では出し抜くのも難しいだろうからね。

 だったらもう常識外のことをするくらいしか考え付かないよ」

 中年副長の隣に轡を並べてそう肩をすくめるのは、今は名実ともにトラピア軍の責任者となった、故トラピア子爵が四男、ハンノ殿下である。

 とは言え、実際に戦闘が始まれば指揮を執るのは、隣にいる副長になる予定だ。


 常識外というが、実際のところ夜討ち朝駆けと言えば奇襲の基本ではある。

 あるのだが、セルテ軍は最初の晩以降奇襲をかけてこないし、そもそも彼らは国境砦という拠点にドンと構えて防衛していればいい立場である。

 ならばこの明けぬうちの早朝行軍はいくらか意表を突けるのではないか。

 その程度の期待と意識であった。


 ただ、今回はこの素人軍師ハンノの策がハマった。

 砦のセルテ兵たちはトラピア軍が動き出したことに、この時点で全く気付いていなかった。

 なぜなら、彼らは彼らで、この日トラピア軍を屈服させるための出撃準備で昨晩は遅くまで忙しくしており、今朝は今朝で「出撃前にゆっくり休め」と上長たちから言われて寝ていたからだ。


 もちろん砦の専任兵たちが五〇程度はいるので、彼らが交代勤務で見張りはしているが、それらが見張るのは長年の習慣から「国境が破られないか」という観点となってしまっている。

 ゆえに間の悪さも手伝って、すでに国境を越えているトラピア軍の砦迂回隠密行軍を見つけることができなかった。


 そして夜明けの朝日が向こうの山間から姿を現し、セルテ勢の砦に詰めた兵たちが目を覚ます。



「デニス正将、大変です!

 トラピア軍の陣地がもぬけの殻です!」

「ごふぅ!?」

 そんな報告を受け、朝食中のお茶を口に含んでいたデニス正将は思わず(むせ)た。

 その後はしばし気道に入った液体を吐き出そうとケホケホとなっていたので、代わりに同じテーブルについていたホーテン卿がその報告の兵に顔を向ける。


「陣地に誰もおらんとは?」

「はい。夜明け頃に砦の専任兵たちが異変に気づき確認に向かったようで、たった今、その斥候が戻りまして。

 天幕などはそのままなので気づくのに遅れたとのことです」

「かっかか、面白い。出し抜かれたようだな。

 あとはヤツらが逃げたのか、それとも牙をむく準備にかかっておるのか……」


 などとホーテン卿が面白がってニヤニヤしていると、また別の兵が食堂に駆けこんでいた。

「報告します。

 砦の専任兵がトラピア軍を見つけました!」

「ほう……。

 して、ヤツらがいたのはどの位置だ?

 トラピア国側か、それともセルテ国内か」

「こ、国内です。どうやら獣道から迂回したようで、砦後方……つまりセルテ国内方面に現れました!」


 その報を聞き、ホーテン卿は食べかけのパンを放り出し颯爽と立ちあがった。

「ほれデニス。のんびり茶をしばいている場合ではなさそうだぞ?」

「……ケホンケホン。そのようですね。

 よし、各隊を砦外の錬場に集結させよ。

 すぐトラピア軍を追いかけるぞ!」

「はっ! すぐ連絡します」

 取り繕いながらも命令を伝え、デニス正将もまた、お茶を中断して立ち上がった。


 昨晩の内に出撃準備を整えていたのが功を奏し、デニス正将旗下のセルテ軍はすぐに終結する。

 後はもうデニス正将の「出撃」という言葉を聞くだけである。

 そこへ、自らの乗騎に跨ったデニス正将が姿を現す。


「すでに聞き及んでいる者もいるだろうが、どうやら先手を打たれた。

 敵、トラピア軍は暗いうちから砦を迂回して西進している。

 だがこれは我らに背後を見せていることになる。

 我らを侮り先へ進んだことを後悔させてやれ!」

「おお!」

「出撃!」


 デニス正将が手にしたグレイブを振りかざして西へ向けた。

 その先はセルテ領内のいくつかの街、そして最終的には領都へ向かう。

 まさかそこまで相手がたどり着けるとは思わないが、それでも一刻も早く止めるのがデニス正将の任務だ。


 しかも、対トラピアの為に兵の割り振りを増やしてもらったばかりである。

 これは失敗できない。

 朝から想定を外され心穏やかではないデニス正将は、奥歯を音がなるほど食いしばって意を新たにした。

獣道とは言え砦の見張り兵がトラピア軍を見逃したのは、「砦に大軍が詰めている」ことによる油断がいくらかあったのでしょう……

続きは金曜日に

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― 新着の感想 ―
砦の見張り兵は完全に油断してたんでしょうね、というか兵数で敵を上回り、敵の主将を一方的にいなして打ち倒し、また離脱兵が敵から出てる状況で、心に緩みが出ない兵はいないと思いますので、致し方なしだとは思い…
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