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じょじたん~商社マン、異世界で姫になる~  作者: K島あるふ
第五章 戦争の季節

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482わかっちゃいるけどやめられない

 トラピア子爵国騎士府長サイが派閥の兵一〇〇を引き連れて戦場を離脱してから一日経った朝。

 ちょうどセルテ領主城ではエルシィたちが朝食会という名の方針決定会議を行っていたころである。


 場所はトラピア国とセルテ領の境付近にある砦。

 の、ほど近い場所に張られたトラピア国軍の仮陣地である

 その一番マシな天幕において、やはりこちらも方針についての打ち合わせを行っていた。


 そのイカしたメンバーを紹介しよう。

 まずはサイがいない今、この軍の責任者とも言える騎士府副長。

 それから騎士隊長各が数人。

 そして最後に故トラピア子爵の四男坊、ハンノ殿下である。


 武官文官煌びやかなセルテ主城の朝食会とは打って変わって地味なメンツと言えるが、まぁこれは戦場ゆえに仕方ないと言っておこう。


 そんな席において、最も年若いが最も位の高いハンノ殿下が一大決心した顔でこうのたまった。

「わかりました。降伏しましょう」


 聞いて、そこにいる彼以外。つまり武官の面々は「え!?」という顔で絶句し、そして主君としてはまだ目方の足りないハンノを凝視した。

 言ったハンノもその視線が痛いがこれ以上彼にはいい考えが浮かばなかった。


 そも、この軍を率いる責任者は騎士長サイであり、ハンノは添え物の君主であったはずだ。

 そのサイがこともあろうに士気の高い彼の派閥兵を一〇〇名も引き抜き、その上で何も告げずに離脱した。

 最初は「何かの作戦なんだよな?」と思ったが、一日待ってみても何の音沙汰がない。

 こうなればもう彼とその兵抜きでモノを考えなくてはいけない。


 であればだ。

 足りない兵で勝てないならば、もう戦争をやめるしかないじゃないか。


「殿下、よろしいですか?」

 と、武官連を代表して副長がおずおずと手を上げる。

「発言を許しましょう」

 間を置かず出たハンノの言葉に一応軽く頭を下げて礼に変え、副長はやはり言いにくそうに口を開いた。


「ご主君の深慮たるや臣たる私には図りえませんが……」

「いや、そう言うのいいから、端的に言って」

「あ、はい」


「つまりですね、今ここで降伏するのはあまりお勧めできかねると」

 そう、副長は言った。

 ハンノはとても嫌そうな顔をして胡乱な目を副長に向ける。

「よもやサイ騎士長の様に『騎士の(ほまれ)が』とか『誇りが』とか言うまいね?」

「そう言う面がない訳ではありませんが、もちろん言いませんとも」


 お互いなんだかまだ奥歯にものが挟まったようなやりとりになっていて、ハンノはうんざりしてため息をついた。

「私……いやもう取り繕うのはやめよう。

 僕は所詮子爵位を継ぐ目のなかった四男坊なのでロクな領主教育も受けていない。

 そんな僕のような素人からすれば、これ以上戦ったってなんの意味もないように思うんだよ。

 副長はいったい何の目論見があってまだ戦いを続けようというんだい?」


 ホントぶっちゃけて来たな。

 と、騎士たちは肩の力が抜けたように唖然とし、副長もまたふぅ、と一息ついてから口を開く。

「では私も取り繕うのはやめてぶっちゃけましょう。

 我らトラピア軍は攻め入った側……戦争を始めた側です。

 攻め入っといて一つも良いところなく降伏します、では要求される賠償が天井知らずになるでしょうな」

「そんなものか?」

「ケンカを売っておいて勝てそうにないから『ハイやめやめ。やっぱり仲良くしましょう』って、相手は納得すると思います?

 どう考えても舐められるだけですね。

 そして舐められたら……後はしゃぶり尽くされるのが世の常です」


「なるほど……」

 そう言われればよくわかる。

 ハンノは感覚的にどっちかと言えば庶民なのだ。

 酒場のケンカでそんなことすれば、その後ソイツは浮かぶ瀬もないだろう。


「……賠償。

 例えばどんなものが待っている?」

「そうですな……」


 副長はしばし考え、そしてこれまでの歴史であった礼を挙げる。

 曰くには以下の通り。

 一つ、多大な賠償金。

 一つ、生産物の搾取。

 一つ、領土の割譲。

 一つ、敗戦国民の奴隷化。

 などなど。


 どれをとっても貧国であるトラピア国にとっては死活問題となろう。


 ハンノは激しい頭痛に苛まれるかのように頭を抱える。

 本来であればこんな仕事は兄たちの誰かの仕事であり、彼は今頃、支給される微々たる年金でのんびり市井で詩吟に興じる生活を送っているはずだった。

 なのにどうしてこうなったのだ。


「ではどうしたらいい?

 残りの二五〇で砦攻めをするのかい?」

「それは悪手でしょう。

 砦攻めには最低でも倍の兵力が必要です」


 即座に却下され、ハンノは全身が斜めになって戻らないような錯覚に陥る。

 もうどうしようもないだろう。

 そんな気持ちから投げやりに次の案を口にする。


「ならいっそ砦を素通りしてセルテ領に攻め込むか?」

「砦攻めよりは成功の目が高そうですな。

 強いて修正を提案するのであれば、そう見せかけて砦の兵が追いかけてきたところで反転し野戦を持ち込む。というところですか」

 ところがこれは肯定された。

 肯定された上に、なんかやれそうな気がしてきた。


「いいじゃないか。野戦なら数が多いのはこちらだ」

「まぁ士気の低さが玉に瑕ですがね」

「それでも副長に言う『良いところ』の一つくらいは見せられるのではないか?」

「……志が低すぎる気もしますが、今はそれが最良でしょう」


 同席した騎士たちも顔を見合わせて頷きあい、そう言うことになった。

 決まれば後は動くだけだ。

 作戦の決行に向け、副長たちはせわしなく出発の準備に取り掛かった。

続きは金曜に

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― 新着の感想 ―
知らないとは恐ろしいもので、ハンノさんが一番被害の少なく条件の良い降服を選んだのに、 継戦を訴える家臣がいるというのは、攻め込む相手国家のことを何も知らないし、調べてもいないという、恐ろしいほどの怠慢…
そもそも帰る領土も差し出す金や領民ももういないんだよなぁ… エルシィちゃんなら即刻での無条件降伏をすれば 「機を見るに敏。たいへんよろしい。兵や物資の浪費もないので花丸です!」 って言ってくれそうだけ…
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