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じょじたん~商社マン、異世界で姫になる~  作者: K島あるふ
第二章 ハイラス鎮守府編

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166/493

166山里の入り口にて

「意外と早く着きましたね。

 もっと山の奥の方なのかと思いました」

 もう視界に里が見えており後はひたすら歩を進めて近づくだけ、という段階でエルシィがそう呟いた。

 エルシィは背負子で運ばれている状態なので因数外だが、それでもアベル、カエデという子供を含んだ山行パーティだ。

 どうしても歩幅という点でハンディがあると言わざるを得ない。

 とは言え、カエデはこの山で育ったし、アベルだってジズリオ島のティタノ山を庭のようにしていた子供だ。

 普通の子供とは一緒にできないとも言えるのだが。


 ともかく、そんな一行で半日くらい道のりである。

 これはエルシィが「思ったより近い」と表現しても仕方ないだろう。

「あたしが見つけにくい近道を案内したからにゃ。

 それにあんまり奥深いと買い物とか不便にゃ?」

 そんなエルシィの呟きを拾ってカエデがそう答える。

 「見つけにくい近道」の段、でエルシィとカエデ以外の三人は深々と頷いているのが見えた。

 いったいどんなケモノ道だったのか。

 苦労がしのばれる段である。

「ちなみに普通だとどれくらいかかりますか?」

「そうにゃ……判り易い道なら四倍くらいかにゃ?」

 なるほど。これは多少の苦労はあっても近道を来て正解だったのだろう。


 目的地が近くなったこととエルシィが目覚めたことで、こうした雑談が増えた。

 となれば気分的に時が経つのは早くなる。

 そうこうしているうちに遠くに見えていた里は、もう目前まで迫っていた。

 遠くからも見えていた石壁を見上げる。

 先に「石を積み上げた人の背丈の倍くらいの外壁が里を囲んでいる」という話をしたが、この壁、垂直に立つレンガ壁の様なモノではない。

 横から断面で見るなら台形をしているのだ。

 壁と呼ぶより防塁と呼んだ方が良いのかもしれない。

 遠くから見ると岩石をともかく積み上げただけのようにも見えるが、近づいてみるとそれぞれの隙間をしっかりとセメントの様なモノで埋め固めているので、防御力はかなり高そうだというのがわかる。

 エルシィはこの造りに「ほうほう」という感心気な声を上げながら頷いた。


 その防御石塁に近づくと頭上から声が降って来た。

「とまるにゃ!」

 それはまだ年若い青年らしい声だった。

 さて、声はすれども姿は見えず。という風で一行はキョロキョロと辺りを見回す。

 ただ、カエデだけは迷いなく防塁の上に視線を向けた。

 その視線を追えば、防塁の上からひょっこり顔だけ出した男がこちらを訝しむように見ていた。

「ムクロジとカズラの子、カエデが帰ったにゃ」

 無遠慮な男の視線に対し、カエデがそう答える。

 だが、男はさらに警戒を深めたように首を竦めた。

「鈴の知らせは受けているし、見ればわかるにゃ!

 それより後ろの者たちは誰にゃ!」

 男の誰何にカエデは少々イラっとした感じの表情を露骨に表しため息をつく。

「クヌギに言う必要はないにゃ。

 後ろの人は里長に用があって来た客人にゃ」

「その里長から門警を仰せつかっているのが俺にゃ!」

 一触即発という感じの険悪さである。

 が、語尾にことごとく「にゃ」が着くため、傍から聴いていると然程の緊迫感がなかった。


 とは言え、このままでは埒が明かないと思ったエルシィは、ヘイナルの肩をトントンと叩き背負子から降ろしてもらった。

 降りて、キャリナが用意した野外活動用ジャンパースカートの裾を整えてから小さく咳払いをする。

「こほん」

 さすがに言い合いしていた二人もこの場違いな格好の幼女に注目する。

 野外活動用とは言え、そもそもスカートで山登りしてくるのが場違いすぎるのだ。

 まぁ、エルシィは自分の脚で登ってはいないのだが。


 それはともかく、カエデと門警の男改めクヌギの注目を浴びたまま、エルシィは言葉を続ける。

「わたくしは旧ハイラス伯国の統治を引き継ぎましたジズ大公が娘、エルシィと申します。

 先にカエデが申し上げました通り、この里の責任を負うべき方に会いに来ました。

 よろしくお取次ぎください」

 あくまで優雅に、キャリナに叩きこまれた通り貴人らしく颯爽と、そして張りのある声で挨拶を述べる。

 当然、付け焼刃であるエルシィの振舞ではあるが、それでもこの田舎山中にあっては、相手を威圧するだけの、一種の迫力はあったようだ。

「くっ、エルシィにゃと!?

 ターゲットではにゃいか!

 カエデ、貴様裏切ったにゃ!」

 絶句していたクヌギだったが、しばらくすると我に返ってそう叫んだ。

 なるほど、この男は里長から直接門警を命ぜられるだけはあり、事情には通じていそうだな。

 とエルシィは少し感心した。

 まぁ、それもほんの少しだけだ。

 この感情的な態度はいただけない。

 カエデもそう思ったようで、すぐに反論する。

「任務は失敗したにゃ。

 裏切りどころの話じゃないにゃ」

 そう、里が受注し計画し、そして実行した『エルシィ暗殺』は失敗に終わった。

 実行犯であるカエデはその場で捕縛され、そして今に至るのだ。

 これを裏切りと呼ぶのはさすがに酷と言えよう。

「失敗したならなぜオマエは生きているにゃ?

 どこもケガしている様子もにゃい。

 そして暗殺ターゲットを連れて里に戻ってきているにゃ。

 これでオマエの言うことを信じるなど出来にゃい」


 まぁ確かに。

 とエルシィもクヌギの言い分に理があることを認めるように頷いた。

 普通なら暗殺実行犯は捕縛され次第処刑されるか、もしくは情報を吐かせるために拷問責苦を受けることだろう。

 ところがカエデは五体満足であるし、現状で拘束されている様子もなかった。

 これで信じろと言うのはいささか無理がある。

 しかしカエデからすれば自分の言葉が信じてもらえないというのが、どうにももどかしかった。

「もう、クヌギじゃ話が通じんにゃ。長のところに案内するにゃ」

「道理がないのはカエデの方にゃ。

 ええい、もういいにゃ。皆の者、出合うにゃ!」

 早々に話は決裂した様で、石塁と石塁の間にあった出入り口から、数えて一〇人ほどの影が飛び出して来た。

 否、それは皆ねこ耳を生やした大小の人である。

 どれも黒づくめに覆面をしているので老若男女が判りづらく、影と呼ぶにふさわしい姿だった。


 ただ、共通した印象を言うなら、全体的に皆小柄だ。

 これは里に住む『草原の妖精族(ケットシー)』の種族的特徴なのだろう。

 現れた一〇人とは石塁の上から見下ろすクヌギの指示によって、エルシィたちを取り囲むように配された。

「エルシィ様、どうなさいますか?」

 フレヤがニヤリと笑い、そう訊ねる。

 エルシィもちょっと悪ぶった子供の様な笑顔を浮かべてそれに応える。

「すけさんかくさん、こらしめてやりなさい」

 言葉の意味が半分ほど解らないが、それでもニュアンスは通じたようで、近衛たちはさっと己の得物を引き抜いて構えた。

次の更新は火曜の予定ですが、肩鎖関節亜脱臼による通院の予定もあるため、もしかしたら休載するかも知れません

ご了承ください

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