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じょじたん~商社マン、異世界で姫になる~  作者: K島あるふ
第二章 ハイラス鎮守府編

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136ライネリオのお願い

 あれから数日、エルシィは人事のことにうんうんと頭を悩ませながら平常業務に取り組む日を送った。

 平常業務とはいえ、手を止めればどんどん積み重なっていく仕事である。

 それでもライネリオが配下に加入してからは、これでだいぶんマシになった。

 ライネリオ、彼は優秀だった。

 いや、優秀であることが判ったからこそスカウトしたのだが、期待通りというか期待以上の働きを見せてくれた。

 まず初日はいろいろな仕事を見てもらうつもりで各司府を回らせてみたのだが、これがまた、過去の惨状と現在の状況を比べて瞬く間に大まかなことを把握して帰って来た。

「まぁ、元々私の父と兄が治めていた国ですからね。

 最初からおおよそのことは知っていますし」

 とは、半日で戻って来たライネリオに驚嘆するエルシィと側仕えたちの顔を見て苦笑いするライネリオの言である。


 さてそうなると、その優秀な彼をどう使おうかということになるわけだが、エルシィはそのまま自分の輔佐をするポストに据えることにした。

 現状、秘書のような形でエルシィをサポートしているのは侍女のキャリナである。

 彼女は彼女で大変な優秀さを見せてくれてはいるが、いかんせん様々な判断については完全にほぼノータッチである。

 そこはキャリナ自身が弁えているということではあるが、こうした判断もある程度できる人材が欲しかったのだ。


 簡単に言えばエルシィのお仕事軽減のための人材。ということになる。

 おかげさまでエルシィへの様々な報告書は、先にライネリオが精査し読み砕いてから上がって来ることになり、たいして重要でない案件についてはほぼめくら判でも良くなった。

 キャリナが捌き、ライネリオが精査し、エルシィが認可する。

 この流れが出来、鎮守府の処理能力は格段にアップしたと言えよう。


 さらには。

「エルシィ様、少しお話が……というか三割ほどはお願いでもあるのですが」

 割と重要度の低い決裁書にエルシィが軽く目を通し判を押しているところに、珍しくライネリオが雑談のように話しかけて来る。

 この頃にはもうキャリナもライネリオのことを半ば信用してきていたので、目くじら立てることもなく聴き耳だけを立てている。

「なんですか? お給金でしたら研修期間繰り上げということでなるべく早くあげることを検討しますけど」

「嬉しいですね。

 もちろんそれもぜひお願いいたしますが、それとは別で」

「……とりあえず話してみてください」

「鎮守府……ですか、とりあえず行政府全般のお話ですが、人が全然足りてませんよね?」

 言われ、エルシィは眉を八の字によせて判を押す手を止めた。

「来て数日のあなたにも判りますか。そーなんですよねー。

 本当ならキャリナだって侍女のお仕事に専念させてあげたいところなんですが、いかんせん人が足りなくて」

 そう言って、机の上にへにょーっと伏せて盛大なため息をつく。

 キャリナは自分の名前が出たことで肩をすくめながら口を挟む。

「私は別に構いませんよ。

 エルシィ様のお世話でしたらグーニーもいますし、それにカエデもそれなりに仕事を憶えてきましたし」

 グーニーはキャリナと同僚の侍女である。

 ジズ公国時代からついてきたエルシィ室の内向き担当だったが、今はキャリナがエルシィの補助の仕事をしているので全般を請け負っている。

 カエデはハイラス領へエルシィが赴任してから雇い入れた半人前のねこ耳メイドだ。

 まぁ、そうはいうが大領のトップであるエルシィの世話係が二人半というのがすでに少なすぎるわけだが、まぁそれはそれ。

 少し話が逸れたが、ライネリオは黙ってその流れが途切れるのを待ってから、話を再開した。

「つまりですね。その人手の足しに、という訳で何人か雇い入れて欲しい者たちがいるのですよ」

 この言葉に、エルシィはキランと目を輝かす。

 使える人材ならこちらから三度頭を下げてでも欲しいのである。

 ライネリオに当てがあるというのなら、これほどうれしいことはない。

 このエルシィの表情を見てまた苦笑いをこぼしたライネリオは、少しだけ困ったように言う。

「あまり期待しすぎないでくださいよ?

 読み書きと簡単な計算ができるだけの子たちですから」

「それだけできれば大助かりですよ!

 現在、役に付いてない人のどれだけが出来ると思ってるんですか」

 そう、一般市民に教育などという概念がまだない世界なので、読みだけならともかく、書くこと、そして計算することが出来る人間は極端に少ないのだ。

 お役人の座にいる中でも、三割くらいはおぼつかない人がいるくらいである。

「……子たち?」

 鼻息を荒くして答えてから、エルシィは少し戻って引っかかりを口にする。

 ライネリオはここぞとばかりに笑顔を濃くして答える。

「ええ、貧民街(スラム)に私が教えた子たちがいるのです。

 手が足りないなら、この際、その子たちを使ってみてはどうかと」

「なるほど、いいですね。採用しますので連れてきてください」

 即答だった。

 あまりの速さにライネリオはキョトンとして首をかしげる。

「よろしいのですか?」

 ライネリオ自身、まだ数日しか働いていないので信用を得られているとは思っていない。

 その自分が紹介する人物をこうも簡単に採用して良いのだろうか。

 という懸念含みの疑問である。

 もちろん採用して欲しいから話を持ち込んだのだが、テストや面接くらいはあってから決まるものだとばかり思っていたのだ。

 だが、エルシィはそんなライネリオが疑問顔でいる間に、引き出しから取り出した紙片にサラサラっと何かを書きつけて判を押す。

 そしてその紙片をライネリオに差し出した。

「はいこれ、採用に関する決裁書です。

 面通しくらいはしますけど、ライネリオが『出来る』と思う人間ならおっけーですので、早速連れてきてくださいね」

 呆気にとられたライネリオだったが、すぐに立ち直り「ははぁ!」と恭しくその決裁書を受け取るのだった。


 と、そのように、また人材不足が軽減される見通しが立ったところで執務室の扉がノックされる。

 キャリナが優雅ながら素早く動いて、その扉の外にいる者を確認し言付けを受けとる。

 その顔がわずかに綻んだところを見ると、これまた朗報だったのだろう。

 エルシィは彼女から取り次がれる言葉を楽しみに待った。

 そして楚々と机前に戻ったキャリナが口を開く。

「外遊に出られていた殿下がお戻りになられるとのことです」

 鎮守府運営の援護にとジズ公国から出向してくれた、エルシィの実兄、カスぺル殿下が無事に帰って来たとの報であった。

 これは確かに朗報だと、エルシィはにぱっと笑顔で頷いた。

次回更新は金曜日です

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― 新着の感想 ―
[一言] そういえばカスペル殿下どうしてるのかな?と思っていたとこでしたが今お帰りでしたか帰って早々に新しいお仕事の予感がしますね
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