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くろやみ国の女王  作者: やまく
第六章 国への襲撃、防衛戦
104/120

いろんな後始末 1

 

 

 

 海図上の船の表示がどんどん無くなっていく。

 玄執組の船の反応がすべて消えると、島と海を覆っていた漆黒がある一点に集まるようにして消えていく。

 ヴィルの用意してくれた結界のお陰で、私達のいるお城には影響がない。

「雪みたいなものが降りだして辺りが真っ黒になったのはびっくりしちゃたけれど、ずいぶんと静かに終わったわね」

「あれの基礎はマイクロブラッ、いえなんでもないです。ものすごく簡単に説明しますと、フツヌシは王の間のシステムのご先祖の一種なんです。ローデヴェイクの脳と接続することであの黒く広がる領域内に自由に干渉することが出来るんです」

 王座の傍らに立つレーヘンの解説に首をひねる。

「聞いてもさっぱりわからないわね……それで、あちこちに精霊の反応があるのは関係があるのかしら」

「ご存知でしたか」

「ええもちろん。流石に気付いてるわよ。変に多いんだもの」

 外海にいくつかの国の船が偵察しに来ているのはわかるけれど、それに加えて城を通して感じる複数の視線。空や海の、普段はいないはずの場所に精霊がいる。黒堤組船にもコトヒトがいるだろうし、そんなにうちが気になるのかしら?

「くろやみ国として初の対外的な戦闘ですから珍しいんでしょう」

 闇の精霊がにこりと笑うので、思わず軽く睨む。はぐらかす時の笑い方よ、それ。

「……本当の事を言いますと、大陸で少しばかり注目されたようで、ローデヴェイクとフツヌシを見に来てるんです。彼らが復活したのは精霊側としては想定外でしたので」

 そういえばマルハレータはベウォルクトの推薦で影霊として復活したけれど、ローデヴェイクはマルハレータの要望からだった。

「彼らの力はその気になればこの星やその他諸々をどうにかできてしまうので、暴走するとちょっと脅威なんです」

「……危険だからって排除しに来たりしないわよね?」

「そこまでしません。今回の起動も安定していましたし、それに、今はちゃんと飼い主がいますし」

 レーヘンが空中に画面を出すと、そこにはフツヌシを担ぐローデヴェイクにマルハレータがなにか話しかけている姿が映し出された。

「ならいいけれど」

 マルハレータにはローデヴェイクが必要だもの。


「レーヘン、これからズヴァルトに海に浮いてる玄執組員の位置を送るから、黒堤組にも回収の手伝いを依頼してちょうだい」

「わかりました」





《あれでよろしかったですかな》

「ああ。アイツらに動く様子がないから、うまいことやれたんじゃないか?」

 フツヌシの問いかけにマルハレータが答える。

《見知らぬ相手に捕捉されながら動くというのはなかなか気をつかいますな》

「慣れないとそうだろうな」

「おい、なんの話だ?」

 話についていけずローデヴェイクが眉をひそめる。

「気にするな。もう終わったことだ。おれは転移門の向こうへまた行ってくるが……お前は大人しく留守番してろよ。そうだ、こいつを城へ連れて行ってやれ」

 ローデヴェイクが何か言おうとするのを制してマルハレータは肩のブルムをローデヴェイクの腕にとまらせると、さっさと転移門の方へ歩いて行った。

「なんだこいつ、竜か?」

「シャー(丁重に扱ってくださいましね)」



「なんだかよく分からなかったが、あれで終わったのか?」

 ローデヴェイク達を遠目に見ていたジェスルは結界陣をじっと見つめているヴィルヘルムスへ問いかけるが、返事はなかった。

 結界陣はヴィルヘルムスの技術で出来うる限りの、過剰なほどの頑丈さを用意したものだったが、ほとんどの部分をあの黒いものに削られていた。

「これは危ないところだったんでしょうか」

「限界までは削られていませんです。結界への干渉は調節されていましたです」

「……加減されていたという事ですか。ザウト、現状の様子をデータボードに記録することは出来ますか? あとで詳しく調べたいんですが」

「わかりましたです」

 

「……ありゃしばらく夢中になってるな。シメオン、俺も手伝うわ」

 ヴィルヘルムスが研究者の顔でザウトと結界について話しているので、ジェスルはため息をつくとシメオンの元へ行き撤収作業に加わった。

「あー流石に疲れた。ただ様子を見るってのも気疲れするもんだな」

「城に戻ったらライナがご飯を用意してくれていますよ」

「お、そりゃ楽しみだ。あの子料理上手いもんな」


「ファムさまからの通信です」

 ジェスル達が道具などを片付けているとカートの持ち手にとまっていたサユカが声をあげる。

『シメオン、聞こえるかしら? これから黒堤組経由で大空騎士団に連絡を入れるからサユカを連れてきて欲しいの。それと、ジェスルとヴィルも同席できるかしら?』

「シメオンです。分かりました。すぐに戻ります」

「おーいヴィルヘルムスもど……げっ! 何やってんだあいつ」

 シメオンが返事をして、ジェスルがヴィルヘルムスに声をかけようと振り向くと、そこには白金色の髪の男が銀髪の大男に向き合っていた。


「それは機甲器ですか?」

 ヴィルヘルムがローデヴェイクが担ぐフツヌシを見上げる。

「一応そうだが」

 突然自分に話しかけてきたヴィルヘルムスに怪訝な顔をしながらローデヴェイクが答え、ヴィルヘルムスの両目がわずかに見開かれる。

「貴方が作ったんですか?」

「こいつは……いや、あー、大昔に造られたもんだ」

 言葉を濁しながらローデヴェイクは言う。この時代でのフツヌシの説明はややこしい。

「そうですか。本物が動くのを見たのは初めてです」

「そりゃよかったな」

「先程は何をしたんですか?」

「あ? 島にいた邪魔な奴らと海の船を消したんだよ」

「全部の船をですか? 銀鏡海全域の?」

「玄執組船だけだ。人間とその周辺は残して海に落とした。島にいたやつは武装だけ消した。今頃他の奴らが回収してんだろ」

 ローデヴェイクは興味無さそうに言う。

「もう行くぞ」

 話が続きそうなのを察してなげやりに言うと、ローデヴェイクはフツヌシを担いでいるのとは反対の肩へブルムを乗せ、城へ向かって歩いて行った。


「何やってるんだよ。あんな殺気だだ漏れの奴に突撃しやがって。白箔王の身分忘れんな」

 戻ってきたヴィルヘルムスをジェスルがどつく。

「すいません、つい好奇心が先走って。それとザウトも一緒でしたよ」

「そいつもくろやみ国所属だろうが。お前、さっきのは配下の奴らが見たら失神するぞ」

 ジェスルが呆れる。

「見てないから大丈夫ですよ。くろやみ国は本当に興味深い国ですね」

 肩のザウトを撫でながらヴィルヘルムスが言う。

「まあ、そうだな。だがあまり長くはいられないぞ。大空の船が近くまで来ているし、お前の迎えもすぐに来るからな」

「……わかりました」





『どうもはじめましてくろやみ国、大空騎士団長のエシルと申します』

 黒堤組経由で大空騎士団と連絡をとると、なんと騎士団長という人が出てきた。なんでも大部隊を率いて大陸で玄執組を追いかけて、そのままくろやみ国近海まで来ているらしい。

『おや白箔王もそちらに? ああなるほどジェスルですか。それはご愁傷さまです』

 大空騎士団長はあっという間に事情を理解して、そのまま流れるようにジェスル達の救援の話をつけ、私達との契約にもすんなり同意してくれた。

 元々彼らが追いかけていたので玄執組は大空騎士団に回収してもらい、後日調査の段階になって私達も立ち会わせてもらう事になった。人手がかかる部分を担当してもらえるのは助かるわね。

 初契約なのと、こちら側が助力を乞うというよりもお互いが協力関係になるとのことで、今回の協力料は補給物資の手配とズヴァルトが手伝う事でいいらしい。


「戻ったぞ」

 ヴィル達が休息に入り、残った私がレーヘンに助言を受けつつこれからの動きの段取り確認や大空騎士団や黒堤組との連携に忙しくしていると、マルハレータが戻ってきた。

「おや」

 レーヘンが声をあげ、見ればマルハレータが見慣れない人達を連れている。

「マルハレータ、そちらは?」

「大陸で知り合ったんだが、転移門の向こうで再会したから連れてきた」

「は、はじめまして、私はベリャーエフといいます。こっちは妻のシュダです」

「はじめまして。シュダです」

 ベリャーエフさんは中年といった年頃のちょっと疲れた顔つきのごく一般的な男性で、シュダさんは……おそらく、たぶん人間の、不思議な光沢のある白いふわふわした髪の、十代後半くらいに見える小柄な若い女性だった。ずいぶんと年の離れたご夫婦ね。

 傍らの国精霊を見ると普段通りの様子。特に意見は無いみたいだし、問題ない人達みたいね。

「こいつらは追われていて、もう行くあてがないんだと。ここに置いてやってくれないか?」

「お願いします」

 ベリャーエフさんが懇願し、シュダさんが不安そうにこちらを見ている。

「別に人が増えるのはいいけれど……追われていたって、背後関係は大丈夫なの?」

「ああ。単に女の方が変わってるからと赤麗国の一派閥に狙われていただけだ。もうぶっ潰したが」

 マルハレータがさらりととんでもない事を暴露した。


 ちょっっと!

 あなた達、大陸で何やってきたの?

ベーさんとシュダはスピンオフに先に出てきてた人達です。


2018/02/11:会話の順番など、少し加筆。

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