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第四話:王都地下迷宮

 サキと出会ってから三日後。

 私達は彼女の指示に従い、王都地下迷宮を管理している大きな建物の前に集まっていた。

 

 王都の観光名所として名高いこのダンジョンは、特に貴族や商人などの富裕層からの人気が厚い。

 比較的危険度の低い魔物しかいない第十階層までの浅層を、冒険者に護衛されながらアトラクション気分で観光することが、富裕層の間で流行っているのだ。


 まるで魔物見物のサファ○パークだ。


 庶民の間でも第三階層までなら、比較的安価で駆け出し冒険者の護衛を雇うことができるため、娯楽として根強い人気を博している。

 駆け出しの鉄級冒険者が日銭を稼ぐためによく行う仕事がこれだ。


 銅級以上の冒険者としても、金払いのいい富裕層から簡単な護衛依頼をこなすだけで日銭を稼げることができるため、競争率の高い依頼となっている。


 王都に多くの冒険者が集まる理由の一つだ。




 そんな観光名所である王都地下迷宮管理施設の入り口で、観光客向けのグッズをイズ達と眺めながら、私達はサキが来るのを待っていた。



「師匠。このスライムのぬいぐるみ、お土産としてとても良さそうですよ! これを師匠の執務室に置くだけで、部屋の雰囲気が明るくなると思います!」


 

 そんなこと言いながら隣で鼻息を荒げているイズの方を片目で覗き、呆れた様子で首を振って私は答える。



「……イズ。私のためのように言っているが、ただ君がそれを欲しいだけだろう」


「え!? い、いえ、そんなことはないですよ。かわいいなぁとか、ぎゅーと抱きしめて寝たら気持ちいいだろうなぁとか、そんなことは全くこれっぽっちも思ってないです」



 目を背けながら、後ろ手に組んで恥ずかしそうに半笑いを浮かべるイズを私は見つめる。

 そしてその奥から、冒険者風の装いをした黒髪の少女がこちらに近づいてくるのを視界の端に捉える。



「お待たせ。何やら楽しそうね。……今回は観光で来たわけじゃないんだから、気を引き締めていかないと危ないわよ」



 ぬいぐるみを見て騒いでいた私達を遠目から見ていたのだろう、彼女が呆れた様子で私に向かって言う。


 騒いでいたのはイズだというのに、何故私の方を見て言うんだ。

 


「勿論、わかっているとも。今日は依頼で来ているのだからね。気を引き締めて、先輩冒険者から色々と学ばせていただくとしよう」



 紳士的で優雅なお辞儀をしながら言う私に、サキはため息をつきながら、半目で私の顔を覗き答える。



「その胡散臭い仮面をつけたまま言われても、信憑性はないわね……。まぁいいわ。私達はそっちの観光者用受付じゃなくて、こっちにある冒険者用受付よ。ついて来て」



 スタスタと慣れた様子で冒険者用の受付に向かう彼女の後ろを、イズとアメラが付いて行こうする。

 少し歩いたところで彼女達がこちらを振り向き、不思議そうな顔をして声をかけてくる。



「あれ? 師匠何やってるんですか。早くしないと、サキさんに置いてかれちゃいますよ?」


「私は少し迷宮用のアイテムを購入してから行く。すぐに向かうから先に行っていてくれたまえ」



 私の言葉に頷いたイズは、「わかりました!」と元気のいい返事をして、トテトテと小走りにサキの後ろを付いていく。

 

 その様子を黙ってみていたアメラが、私の方を一度振り返ってから口を開く。



「…………はぁ。甘いですね、悪魔(ごしゅじんさま)



 そう言って歩き去って行くアメラを見送りながら、私は目の前の店で買い物を一つし、彼女達の元へ歩いて行った。






ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー






 迷宮内にはそこまで待たずに割とすんなり入れた。


 観光用受付の列は凄い行列だったが、冒険者用の受付は依頼さえ受けていればスムーズに中に入れるようだ。


 特にサキは冒険者の中でも上位の金級冒険者だ。

 彼女が持つその金の冒険者プレートを受付に見せたら、驚くほど丁寧に対応され中へと入ることができた。


 どうやら今回の調査にあたり、観光向けの浅層以外は冒険者の立ち入りを制限しているようだ。

 つまり、今から調査する予定の階層付近は私達で貸切状態ということだ。

 金級冒険者様様である。



「ここが、王都地下迷宮ですか……」



 イズの言葉が迷宮内に響き渡り、石質の頑強な壁にぶつかって返ってくる。

 辺りを見回すと、石の壁には灯りが設置されており、人の手が加えられた痕跡が所々見受けられる。



「ここは王都地下迷宮第一階層。駆け出しの初心者向けの階層ね。比較的危険度の少ない魔物しかいないし、罠もないから安心していいわ。観光で通る人もいるから、何かあっても大丈夫よ」



 そんなことを言いながら、サキが手をヒラヒラと振ってどんどん先へと進んでいく。

 

 確かに周囲の気配から感じた限り、ここには人間に明確な敵意を持っている生き物はほとんどいないようだ。

 ここに住んでいるのは、短い角のある兎や小さなスライムなどの比較的弱そうな魔物ばかりだ。

 彼らは温厚な性格をしているようで、こちらから攻撃を仕掛けない限り敵意を向けられることはないだろう。

 一般の住人が観光に来るのも納得だ。


 しかし……魔物か。



「アメラ君。魔物というのはどのような存在なんだね?」



 私は、前方でイズを守るように指示をしている純白のメイドに向かって尋ねる。



「そうですね。簡単に言うと、元々は言葉通り“魔の者”という意味です。魔族と違う点は、知性がほとんどなく、魔力溜まりやダンジョン内で自然と生み出される存在、というところでしょうか」



 アメラがその竜の金眼をこちらに向け、淡々とした口調で説明を続ける。



「故に、血族で形成される魔族とは差別化され“魔の物”────魔物と人々に呼ばれるようになったのです。……私からすれば、魔族も魔物も同じ魔性であることに変わりありませんが」



 魔力から自然と生み出される物……魔物か。


 なるほど。魔性の存在という意味では、魔族と魔物は同じ分類に組み分けられるようだが、生まれ方に差があるようだ。


 魔族には魔物と違って知性があり、“血族”が存在している。

 そして仲間となる血族を集め、人間と同じように同族内で勢力を形成していったのが、今ある魔族領ということなのだろう。

 

 私はイズの方を向き、彼女のことを考えながら小さく呟く。


 

「……こちらの世界では、悪魔にも血族があるということか」



 私の世界では、生まれながらの悪魔というものは存在しなかった。


 人間……動物……天使。

 そういったものが堕落し、穢れ、貶められ、そして生まれたものが悪魔だ。


 私も人間の欲に穢され、貶められて生まれた悪魔の一柱だ。

 当然、悪魔としての親など存在しない。

 まぁ強いて言うなら、人間という種族全体が親ともいえるが、それはまた別の話だろう。



「イズにも……生みの親がいるかもしれないんだな……」






 そう言って、自分にしか聞こえないほどの声量で小さく呟く私の声は、どこか少し寂しそうな声をしていた。

お読みいただきありがとうございます。

遂にダンジョンに足を踏み入れたマモン達。


『デーモンロード 〜強欲の悪魔、異世界へ征く〜』について少しでも


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