0.5.1.5 ポトフちゃんとクレープ三昧
チャチャッと盛り付けちゃうんで、皆さんはトッピングをつまんでて下さいね。
「ん〜!口の中で消えちゃう……」
「苦味……甘味……なるほど。そちらは?」
「こっちは塩味と酸味じゃな。」
花菱さんにはこちらを……
「え?クリ?わあっ!んんっ、喜んで頂戴しますわ。」
わいわいと楽しむ声を聴きながら、お皿を用意します。
そこにクレープの生地を一枚置きまして、生クリームをスプーンで塗りつけます。8等分にした、ピザとかケーキの1ピースみたいな扇形にね。縁のところにもちょっと盛っちゃお。
そして、クリームの上にバナナをちょん、ちょんっと乗せる。
最後はキャラメルソース。スプーンを左右に動かし波形のように垂らす。
「「「「おおー!」」」」
……これで歓声を上げられるってなんか照れるな。ともかく手を動かそう。生地を半分に折りたたみ、トッピングを置いた所を軸にくるくると巻く。
「あ……せっかくキレイに出来てたのに見えなくなっちゃうのね。」
「ふふ、そうですね。でも見えないところまで作り込むのも職人ってやつですよ。それに……」
「それに……?」
「食べたらなくなっちゃいます。」
そうだった……と、パピちゃんは残念そうな顔をしているけど、デザイナーの2人はハッ!としたように「消える……」「見えないところに……」とかブツブツ呟きながら、ペンを動かしている。なんか降りてきたのかな。
クレープを巻き終えたら、ちょっとだけトッピングを増量。クリームを乗せて、バナナを刺して、ソースをぴゃっぴゃっとかける。
最後に、ラッ葉でくるんで、出来ました!
「『キャラメルバナナクレープ』完成です!」
それでは、一足お先に実食!……ああ~、美味い!さっぱりしたバナナに、ふわふわ溶けるクリームと濃縮されたキャラメルの甘み……それらを優しく包み込むパリッもちっとした生地。まさに至福……
皆の熱い視線を受けながら食べ進め、最後、もっちりしたクレープと、先っぽに溜まったキャラメル&クリームを口へ放り込む。これがまた美味ぇんだ。
ごちそうさまでした……さあ、量産して皆さんにも食べていただきましょう!
「んん~!美味しい……!」
「いろんな味が口の中で踊ってます!」
「異なる組み合わせ……布地を変えて……」
「ポトフ、もう一つ作って貰えんか?」
大量に焼かれたクレープ生地を見やりながらおずおずとおかわりを要求するゴインキョさん達。ふむ。
「同じクレープがいいですか?それともトッピングを他のものに変えますか?」
「トッピングを……」
「変える……」
ゴクリと唾を飲み込み、期待した目を向ける皆さん。そんな皆様のために……
…………
………
……
たっぷりのクリームに甘酸っぱいイチゴがアクセントな『イチゴホイップ』
「イチゴはそんなに甘くないのに、クリームの甘さでカバーしてるのね……」
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ホイップをマロンクリームに変えて、砕いたクルミや甘栗を乗せた『モンブラン風』
「んん〜おいひぃ……」
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生地の上にレタスを敷いて、その上にケーランサラダを乗せて巻いた『ケーランサラダ』
「ふむ……これはどちらにもケーランを使ってるんだって?」
「そうですね。ゆでケーランはもちろん、マヨネーズにも使ってます。あっ、クレープの生地にも使ってますね。」
「同じ素材でこれだけの変化を……」
またブツブツやりだしちゃった。
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トマトとモッツァレラチーズ、上からオリーブオイルをちょっとだけ垂らし、パラパラと塩コショウをかけた『カプレーゼ風』
「不思議な匂いがするのう。」
「オレンジオイラの匂いですね。」
「ほう……んん、みずみずしいトマトとむっちりチーズが一緒に……面白い食感じゃ。」
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そして、レタス、キュウリ、トマトに味噌マヨをかけた『山林風サラダ』
「美味いのう。しかし山林風とは?」
「味噌は山林の国の特産品にしようかなって思ってるんです。だから、味噌を使ったこれは山林風なんです。」
どうせなら、和風、よりも山林風の方が世界観に合ってていいでしょ。
「じゃあ、“草原風”……なんてのもあるのかしら?」
「そのうち作りたいですね。」
…………
………
……
とりあえず、今日のクレープ祭りはこのくらいにしておこう。肉、魚が増えたらまたやりたいね。
もう終業時間だけど、最後にこれだけ作らせて!とお願いしてちょっとだけ延長戦。
お皿に乗せたクレープ生地の全体に生クリームを均一に塗り拡げる。縁は1センチぐらい塗り残しておこう。
その上に、慎重に生地を重ねる。ズレないように、キレイに重なるようにね。そしてもう一度生クリーム。生地、クリーム、生地、クリーム……繰り返して十数枚。高さも出てきたし、そろそろいいでしょう。
「『ミルクレープ』完成です!」
「ず、随分と大きいわね……」
「すごいボリュームですね。」
直径二十数センチ、高さ5センチちょい。ケーキとしては一般的だと思うけど……ああ、一人で食べると思われてるのか。
食べられると思うけどやりません。カットして皆に分けますよ。5等分って難しいな。
潰さないように慎重に包丁を入れ、切り分けた1ピース持ち上げると……
「わっ、綺麗ね〜!」
「なるほど。何枚も重ねていたのはこのためだったんだね。」
その通り!何層にも重なり合ったクレープと生クリーム。ミチミチと詰まった地層のような断面が現れた。“千枚のクレープ”の名に違わぬ重厚感よ。
それぞれの皿に移して、いただきます!崩さないようにフォークで一部を切り取って……刺して、口へ運ぶ。
んん〜!美味……舌の上に乗せただけで、クレープがハラハラと口の中で舞い散り、生クリームの海で泳ぎだす。至福のひとときです。
「はぁ……ポトフは天才ね。こんな美味しいものを作っちゃうなんて……」
「んん〜ほいひ〜!」
「層のように重ねて……断面……内側に……」
「ふぉっふぉっ。これは確かに残業してでも食べたくなるのう。」
さて、本日のまとめです。
「えーっとまず、小麦と小麦粉はお店に並べます。それと……マヨネーズも。」
「うむ。」
「クレープは、おにぎりみたいに屋台を出したいですね。」
「!早速設定するわね!」
あ、山林風だけ山林の国限定にしてもらお。あと農園に並べられそうなのは……
「ミルクレープはどうなさるんですか?」
「うーん……流石に屋台じゃ売れませんね。農園で売るのもなんかちょっと違う気がするんですよね。ゆっくり食べられる所……あ、宿屋とかで売れませんかね。」
ミルクレープを置くのなら、オシャレなカフェとか喫茶店みたいなのが理想だけど、そんな贅沢は言わないよ。
「ふむ…………いいかもしれんのう。」
「ホントですか?」
「あら……『前に宿に泊まったときに、宿屋で料理を売りたがってた』って証言が来てるわね。」
「あっ!それです、それ!」
証言したのはうさちゃんだろうな……
なにはともあれ、持ち運びに向かない料理は宿屋の食堂で売ることになりました。細かい設定はまた今度決めましょ。
ではでは、遅くなっちゃったけど今日も1日お疲れ様でした!




