0.4.7.1 ポトフちゃんと服屋
どうにかこうにか落ち着いた2人。
「今日は、服屋に行くのとモンスターの捕獲、ですよね。どっちから先にいきましょうか。」
「先に服屋にいこう。俺の店のすぐ近くだ。」
「わかりました。」
モンスターの餌になりそうな作物をいくつか収穫しながら、改めて今日の予定を確認して、連れ立って街へむかいます。
…………
………
……
うさちゃんのお店から徒歩30秒。蜘蛛?の看板が目印のお店にやって来ました。
「ここが服屋さんですか。」
「ああ。入ろう。」
カロンとドアベルを鳴らして入店。
中にはマネキンが並んでいて、何体か服が着せられている。ひらひらとした花をかたどったドレスに、妖精が着ていそうな、葉っぱのようなワンピース。
小物が並ぶ棚には、蔦のようなアクセサリーにキノコのような帽子。
壁にもいくつか服がかかっており、どれも植物を基調とした物であることが分かる。
「あら、いらっしゃいませ。ポトフさん、うさぎさん。」
「あ、こんにちは!」
店の奥から出てきたのはななさん。今日は服飾班の担当なんだって。
「今作業中ですので、もう少々お待ちくださいね。」
「わかりました。」
「それから……ポトフさん、雲の上まで飛んだとの事ですが……大丈夫ですか?」
心配げな様子でおずおずとななさんにたずねられる。おやまあ、もうハグワープのこと知られてるのか。私が空を飛んでる間にうさちゃんから知らせがいったのかしら。
「大丈夫ですよ。怪我ひとつありません。驚きはしましたけど、落下速度が緩やかだったので、意外とパニックにならずに済みました。」
「そうですか……無事で何よりです。ゆっくり降りてこられたのは、おそらくポトフさんの〈綿毛〉の効果が上手く働いたのでしょうね。風に乗って飛べるくらい軽いんですから。」
「……それがなかったら……?」
「……地上まで真っ逆さまで落下死……ですかね。ああ……その前に、安全装置があるので脳波の異常を検知して、プレイヤーがショックを受けないように強制的にログアウトすることになると思います。」
ヒエッ……ショックを受けないようにって、ようは地面に叩きつけられたりして死んだと脳が誤認しないように……みたいなことでしょ?プラシーボ効果の逆みたいな。コワ〜。
ん?私は飛んだ時は脳波の乱れはなかったのかな。いや異常を検知する前には雲の上だったのか。ほんとに一瞬だったし……その後は比較的落ち着いてたし……
「没入感が高いのはいいことですけど、現実的すぎるのは危ういですもんね。」
「ええ。今回の例を鑑みるに、もっとしっかり安全措置を取らなければいけませんね。」
「慌てて今日いる奴らに連絡したら、ふわふわ飛んでるって返ってきて何言ってるんだと思ったら、目の前に降りて来るし……生きてて良かった……」
いや本当その通り。飛べてよかった……
そんな感じで雑談を交わしていると、
「なっちゃんできたよ〜。あっ待って……こっちの袖重くした方がいいかも……いや、胸元を豪華にするか……」
店の奥にある扉から、手元でシャツのようなものを弄りつつ、ブツブツと独り言を呟く女性が出てきた。
高い位置でまとめた長い黒髪、2つ、4つ……垂らされた前髪やアクセサリーで見えづらいけど、複数の赤い目。長い8本の脚を器用に動かしこちらへ向かってくる。
襟ぐりが大きく開いたドレスを身にまとっており、でっぷりとしたお尻……もとい、腹部が存在するであろう場所はフリルとレースがふんだんに使われたスカートで覆われている。クリノリンだっけ?骨組みみたいなやつ。パッと見はあれが入ってるような見た目だ。
まあ、まとめると“蜘蛛”っぽい人だね。なるほど看板に偽りなし。アラクネ?女郎蜘蛛?多分そんな感じの種族かな。
「ん、ここのボタンは隠しちゃお……よし。出来た!……よ?」
顔を上げた蜘蛛の彼女と目が合う。あ、ドモ。
ぱちぱちと目を瞬かせフリーズしちゃった。
「ほら、お客さんですよ。」
「ア、お客さん!!!?例の!?あっエー、ん゛ん゛っ、んーんー。ようこそいらっしゃいました。ワタクシ、この店のオーナーの“花菱”と申します……どうぞ以後お見知り置きを……」
しゃなりと姿勢を正してご丁寧な挨拶。すごい……さっきまでゆるゆるなフォントで喋ってたのにエレガントなフォントになってる……!
「それでは、お二方のお召し物をご用意させていただきますね。どちらが先になさいます?」
「俺からいこう。」
「それではこちらへ。」
「ポトフさんはこちらへどうぞ。」
「はい。」
さっそく、うさちゃんは花菱さんに連れられ奥の部屋へ。どんな服なのかな。何着てもかっこいいと思うけど。
私の方はカウンターの所で椅子に座り、ななさんから花菱さんが考えてくれたというデザイン画を見せてもらうよ。
たんぽぽの花をモチーフにしたドレス。スカート部分は黄色いフリルを重ねてあり、葉っぱのような飾りも着いている。もこもこした綿毛のようなストールも可愛い。成人式でよく見るやつだ……
これは……全部綿毛!ふわふわな雪だるまって感じ。頭をすっぽり覆う綿毛のフードに、お腹や袖がぽっこり膨らんだ服。ちょっとマスコットキャラ感あるね。
こっちはコックコートっぽいやつ。黄色をベースに緑のラインが入っていて大きな葉っぱのリボンが腰についている。それから、綿毛の帽子に、葉っぱのコックタイ。全体的に今私が着ているものをグレードアップさせた感じ。
「いかがですか?」
「は~……どれも素敵ですね……」
アレが可愛い、コレが着てみたいとかお話しているうちに、ガチャリと扉の開く音がしたのでそちらに目をやる。うさちゃんが着替え終わったみたいです。
「お待たせいたしました。ささ、うさぎ様こちらへ。」
「あ、ああ。」
花菱さんに促されのっそり出てきたうさちゃん。どんな服に着替えたのかな〜?
……!!!!!エッチベルトだ……!エッチベルトだ!!!!
胸筋を支えるように、アンダーバストの位置に横一文字に……!!両脇にも肩紐のようにベルトが付いている。ベルトじゃなくてエッチハーネスだったか……!
そうだよね……装備はダメだけどスキンなら服着れるよね。服……?
胸元から視線を逸らすように目線を下げると、腰まわりが豪華になってる!
金の装飾がされた太めのごついベルトに、ハンマーや革袋が吊るされてたり、様々なツールが収納されている。
垂れた腰布にもポケットが付いていてそこにも細々とした物を挟んであるみたい。
「ど、どうだ?」
「すごくお似合いです!かっこいい……!」
下半身に比重を置いた、どっしりとして安定感のあるシルエット。堂々とした立ち姿に思わず見惚れちゃうね。
「「……………」」
(この二人いつもこんな感じなの?)
(そうですよ。今日はかなり控えめですけど。)
「これで控えめ……んんっ、えー、ポトフ様。ポトフ様も奥の部屋へどうぞ。」
「はっ、わかりました!」
危ない危ないボーッとしてた。思わず見つめあっちゃったよ。
花菱さんに奥へ案内されるのでついて行く。待っててね、うさちゃん!




