0.4.7.0 ポトフちゃん空を飛ぶ
おはようございます。本日はお休みなのでうさちゃんと遊びに行きます。
「おはようございます!」
「ああ、おはようポトフ。」
ログインして家を出ると、丁度こちらへ向かっているうさちゃんが。
……?ちょっと元気ないね?
「どうかしましたか?何かあったんですか?」
「いや、大丈夫だ。すぐに解決することだから。」
うさちゃんが落ち込むようなバグでもあったのかな。ちゅうちゃん達の火耐性が消えるとか。ないか。
まあ、すぐ解決できるならそんなに深刻なことじゃないのかな。ふーむ。
「撫でますか?」
少しでも慰めになればと頭を差し出すが……
「〜っ、い、いや、今はいい。」
断られた。でも手をわきわきと動かしているし、視線は私の頭の上。言動が一致してませんよ。体は正直なんですねぇ……
「えいっ!」
「あっ!」
じわじわ近づいてくる手のひらに、エイヤッと頭突き!
……?なんかおかしいな。撫でられる感触がしない。そろりとうさちゃんを見上げるとへにょりと眉と口角を下げた沈痛な面持ち。
んん?おかしい。ならば、前にもやったようにうさちゃんの手を……
「掴めない……?」
手のひらを近づけると押し戻されるような感覚。ぐっぱぐっぱと指を曲げてもスカッと空を切る。
「その……セクハラ防止で触れなくなったんだ。」
「セクハラ……防止……」
そう言われて思い出すのは昨日のこと。うさちゃんの腕に抱かれていたあの幸福な時間。見つめ合った甘い一時。
そうだ……セクハラだ……抱きついて、頭まで撫でて……あれだけの密着、セクハラ以外の何物でもない……
とうとう私も年貢の納め時か……
「ごめんなさい、昨日のアレのせいですよね……」
「!?ちっ、ちがっくもない……んだが、これは、その……」
目を泳がせ、言葉を詰まらせるうさちゃん。
やっぱり昨日のくっつき虫が良くなかったんですね……
「ふふ。いいんですよ庇ってくれなくて。」
1歩、2歩と後ずさり、うさちゃんから距離をとる。これ以上近づかないからね。
「待ってくれ!」
「う゛っ!???」
駆け寄ってきたうさちゃんに抱きしめられ───なかった。
両サイドから挟み込むように勢いよく私の体にまわされた腕。
小さな体のポトフは大きな体のうさちゃんの腕の中に容易におさまった……のはいいが、両者それぞれについている接触禁止用の壁どうしが、干渉し合い、どういうわけかポトフの体がガクガクと揺れ始めた!
「聞いてくれポト「あわわわわわわわ」ポトフ!!!!???」
うさちゃんが違和感に気付き顔を上げる頃にはもう遅い。高速振動によって蓄積された速度をもって、ビー玉を飛ばすおもちゃのように、あるいは壁に向かってお尻から突っ込んだ時のように。ヤッフゥー!と天に向かって射出された!
「ポッ、ポトフー!!!!!!」
…………
………
……
(わあ おそら きれい)
ポトフは幸運であった。
もしうさちゃんが違和感に気づくのが遅れ、顔を上げるのが遅かったなら……
飛行距離が伸びて大気圏を飛び越え、暗い宇宙を1人寂しく漂っていたかもしれない。
あるいは、射出方向が下になり、地面を突き抜け、わけも分からぬ地の底で、怯えながら助けが来るのを待っていたかもしれない。
ポトフは幸運であった。
本来、飛ぶことが出来る種族やモンスターに乗るしか来ることの出来ない雲の上。
この高さではモンスターに乗っている間、降りることが出来ないようにロックがかかるようになっている。
雲上の国だって出入りは特定の場所からしか出来ないし、地上へ落下しないような特殊なマップになっている。
つまり……生身の人間がこんな高さから落ちる事は想定外なのであった。
しかしポトフはたんぽぽの精霊。青く澄んだ空の下、綿毛のようにふわふわと、ゆっくりと地上へ落ちていく。
初めは何処だここ!?と戸惑っていたポトフも徐々に高度が下がるにつれて、周りを見る余裕もでてきたし、段々と空中での体の動かし方も分かってきた。
いや〜まさか雲の上まで飛ばされるとはね。これはあれかな。グリッチ?ってやつ。よくあるよね、猛スピードで吹っ飛ぶバグ。
少し肌寒いな。むしろこの高さにしては暖かいのかも。雲の上にも国があるって聞いてるからこの気温なのかな。あっ、あの大きな雲の塊!あの中に国があるのかな。
この場所からなら、世界樹が見えるね。反対側には火山もみえる。あの白いところは雪が降っているのかな。
そんな事を考えていると、地上にある農園にだんだん近づいてきた。
これって中から上には出られたけど、上から中に入れるかな?とりあえず、私の家である大きな木は見えているので、その辺を落下地点に定める。
木のそばまで来ると、ふと“農園の中に入った”という感覚を受け取った。
やったね。無事帰還だ。
うさちゃんは私がハグワープした所から動いてなかったみたい。
「ただいま戻りました。」
地に足をつけ、ぽかんと口を開けて呆然と立っているうさちゃんに歩み寄る。
「…………よがっだあああああああ!!!!」
ガクッと膝をつき、私の足元にくずおれるうさちゃん。ご心配おかけしました……
そんな彼が涙ながらに語ってくれたのは、セクハラ防止のテストとして、接触出来ないようになったこと、それを解除する方法があること、それを私にどう伝えるか迷っていたこと……色んなことを白状された。
「ポ、ポトフに断られたらどうしようって……」
「断るなんて有り得ません。うさちゃんのこと大好きですから。そうやって泣いてるうさちゃんを、抱きしめてあげられないのが悔しくてしょうがないくらいですから。」
「ポトフ……俺も愛してるぞ……」
そう言って微笑みながら両手を広げるうさちゃん。アッ、今ハグは駄目です




