0.4.1.3 ポトフちゃんと宿屋
「わ、大きいのがいる。」
「あれは中型モンスターだな。小型より強いが得られるものも多いぞ。」
さらに歩みを進めていると、珍しく川辺にケロンが上陸しているのが見えた。が、遠目に見ても明らかに大きい。今まで見てきたケロンはしゃがんだ状態でも、私の膝辺りまでしかなかったのに、中型のヤツは腰ぐらいまでありそうだ。
よし、遠くから火矢を撃ってこっちにおびき寄せよう。
「〈火矢〉!」
「あっ。」
火矢は見事命中し、ケロンはこちらに気づき──消えた。少なくともポトフの目にはそう見えたが、実際はポトフへ高速で飛びかかってきただけだ。ステータスの差と相まって消えたように見えただけで。
ケロンが消えた、そう思った瞬間、ドゴンッ、と腹の底に響くような音を立てて目の前に大きなハンマーが振り下ろされていた。地面にめり込んだハンマーの下には消えた中型ケロンが。もちろんやったのはうさちゃんである。
「流石に反応できないか。敵のステータスはもうちょっといじったほうがいいか?いや、木の装備じゃ弱すぎるのか……料理でバフする余地もあるよな……ポトフ。」
「ひゃい。」
「もう少しレベルが上がるまで、中型以上のモンスターは避けていこう。」
「ふぁい。」
し、心臓止まるかと思った〜……その言い方だともっと大きいのがいるんですかね……
──────────
「あっ、あれが町ですか?」
「いや、あれは村だな。森の街と、これから行く『梢の町』の間にある、『枝の村』だ。」
ぽこぽこ現れるケロン達を倒しながら進むと、建物が見えてきた。外壁はないが、森の街にあったようなログハウスやツリーハウスが見える。樹海の国特有の建築様式ってやつかな。周りには畑がある!野菜に混じってブタモモも生えてる......!
「なんだか人が少ないですね。」
「そりゃ森の街に比べたらな。こういう小さな村には、宿屋と雑貨屋くらいしかないぞ。ギルドシステムができたら、クエストを受けられるような、小さな出張所が作られる予定はあるけどな。」
人影はまばらで、お店の看板も少ない。ほぼ物資を補給するための場所でしかなさそうだ。
しかし、うさちゃんの発した言葉でふと思い出した。宿屋と言えば食堂があるよね!?ギルドと言えば酒場があるよね!!?うわぁー!なんでこんな大事なこと忘れてたんだ!
「ポ、ポトフ?どうしたんだ?」
「……欲しいものが思い浮かんだだけです。」
思わず頭を抱えてしゃがみこんでしまった。ごめんねうさちゃん。大丈夫です。
「何が欲しいんだ?」
「料理を買って食べられる場所です。」
「そういえばこの村には屋台がないな。」
「屋台でもいいんですけど、レストランとか料理店とか……そうだ!あの宿屋に入りましょ。」
「ああ、回復していくか。」
目的はそこじゃないんですけどね。
宿屋では体力、魔力、スタミナの回復ができて、持ち物を預けることができる。でも、上限はあるよ。
あとは、最後に泊まった宿屋が次回ログインしたときの初期地点になる。戦闘不能で転送された時もその宿に泊まったことになるよ。
今までの感じからして、食事はとれないだろうけど、背景としてなら食堂が存在してると思うんだよね。
「おお!やっぱりある!」
カロンとドアベルを鳴らしてドアを開けると、左手にはカウンター、その奥にはキッチンがある!食欲をそそる匂いがする……気がする。真っ直ぐ行った突き当りには階段があるから、客室は二階にあるのかな?
そして右手には……ありました!食堂!長テーブルと長椅子が並んでいて、村人達が席について賑やかに食事をしている!
焼きブタモモを食べてる人と……ん?何も入っていない皿をスプーンでさらってる人がいる……イマジナリーご飯?怖……そういえば代替品の作物が出来るまであんな感じのがたまに居るんだっけ……頑張って創るから待っててね。
「なるほど、ポトフが欲しいのはこういうやつか。」
「そうです!ああやって座って、人と喋ったり休憩がてらゆっくり食事をとれる場所があったらいいなって思ったんです。」
「ああ、確かにいいかもしれないな。ただ、店売りのものは〈並〉だからあまり品質は良くないぞ。」
そう言ったうさちゃんの視線の先では、ちょうど、お客さんがカウンター内にいる宿屋の人から料理の乗ったトレイを受け取っているところだった。
「そういえばなんで〈並〉の物しか売ってないんですか?」
「本来はカルマ値によって決まるんだが、まだ設定されてないからな。それでも〈良〉までなんだが。」
「〈良〉まで?」
「あんまりいいものを売ると、わざわざ作らなくていいか。ってなるかもしれないだろ?プレイヤー間でアイテムを売買する機能も出来るから、そっちを使ってもらいたいんだ。」
「なるほど……プレイヤー同士でっていうと、バザーとか露店みたいな感じですか?」
「そんな感じだ。もう一つ、店に渡して仲介してもらうっていう手もある。」
「仲介ですか?」
「武器なら鍛冶屋、アクセサリーなら雑貨屋と宝飾店とか、ゲーム内にある店に並べてもらうんだ。店に直接売るよりは高いが、値段は自動的に決められるし、価格交渉も出来ない。けど、プレイヤーとのやり取りとか面倒な手間を省ける……」
「「あっ」」
じゃあ宿屋に料理を置いてもらえばいいじゃん。うさちゃんも気づいたみたい。
まあ細かいところは売買機能が出来てからってことで、メモメモ。
「ポトフ、一先ずはここで泊まって、ついでに休憩しよう。」
「わかりました。すいませーん。」
ってことでお昼なので休憩を挟みます。
カウンターへ近付いて中の人へ呼びかけると、妙齢の女性、宿屋の女将さんがこちらへ来て話しかけてきた。
「やあ、いらっしゃいお客さん。泊まりかい?食事かい?」
「食事で。」
「泊まりかい?食事かい?」
「食事で。」
「泊ま「泊まりで。」あいよ。泊まりなら一人10石いただくよ。」
うさちゃんに頭をわしわしもふもふされながら遮られてしまった……ああ〜揺れる揺れる。
「ポトフ……そんな可愛い顔したってないものはないぞ。」
「わかってますよ。」
持ち物から黒晶石を取り出し、女将さんに渡す。
「確かに受け取ったよ。部屋は奥の階段を上がって2階だよ。ごゆっくり。」
支払いをすませ、カウンターから離れ二人で2階へ。
「そういえば、黒晶石ってなんなんですか?通貨になってるみたいですけど、モンスターから取れるんでしょ?」
「あれはモヤが実体化した時の力だけが残ってるんだ。説明が難しいが……モヤが空気で石が風船みたいな感じか?」
「ええと、実体化してる時は風船みたいに膨んでて、空気が抜けたから縮んで石になった、ってこと?」
「そういうこと。」
なるほど……そういえば魔力って殻の人の力も混ざってるんだよね?
だから魔力を込めると殻の人が回収出来るんだな。
さて2階へ着きました。隣合った部屋のドアを開け中に入ろう。
「それじゃまた後ほど。」
「ああ、また後でな。」
お昼休憩に入ります。




