0.4.1.2 ポトフちゃんとこの世界の秘密 2
「じゃあなんですか、私達は祖父、祖母?にあたる人をぶん殴って追い返してるってことですか?倒しにくくなっちゃったな……」
「いや、向こうからしたら孫が楽しそうにじゃれてくる、くらいにしか思ってないし、倒しても殻の中にエネルギーが戻るだけだから何も問題はないぞ。」
うう〜ん。だんだん気になってきた。
町へ行く道すがら、他の設定も色々教えてもらおう。
まず、殻の人。人?は自分に根を張っている木の元気がなくなっていくことに戸惑っているらしい。
そんな中、その木に似た気配を察知したので、体の一部をモヤとして切り離し様子を見に行くと、かつて自身の一部であった殻の上に、愛する木にそっくりな木が生えているのを目にする。自身の力が混じったそれをみて、「この子は自分とあの木の子供だ!」と思ったんだとか。
水中の木を気にしつつも、ぐんぐん大きくなる世界樹を見守っていたけど、成長するに連れて強まる神様の力に近寄ることが難しくなってしまった。それに対抗して、送るモヤを強化するために量を増やすと、こんどは亀裂が拡がってしまったので慌ててモヤの量を減らし、遠くから見守ることにした。
それからまた時間が経つと、世界には生命が誕生した。殻の上でちょこまか動き回るそれを「我が子の子だ」と思ったので、こちらも見守ることにした。
しかしこの子達は自分を見ると声を上げて離れていってしまう。
どうしたものかと考えた殻の人は、生き物の形を真似ることにした。すると、今度は近寄ってくるものがいるではないか!
側に来た生き物は棒で突っついてきたり、バシャバシャと水を掛けてきたり、積極的に触ってくるものだから、子供たちに宿る神様の力でだんだん体の形が保てなくなり、卵の中へ押し戻されてしまった。
それが殻の人はとても嬉しかった。触れられると愛しい木の暖かさを思い出すのだ。
それに、生き物たちに触れると、その力をわずかばかり持ち帰ることが出来たのだ。そのおかげか卵がひび割れるスピードも緩まったし、殻の人のは、もしかしたらこれを水中の木へ与えれば元気を取り戻してくれるかもしれないと考えた。
それから、亀裂に響かない程度にモヤを増やし、いろいろな場所へ送り込んでいると、生き物の体から流れ出る血を浴びればより沢山の力を持ち帰ることが出来ることを発見した。
だが、長年観察した結果、たくさん血が流れると世界樹の元へ還ってしまう、つまり死ぬということがわかった。
人が減ると神様の力を集めるスピードが遅くなってしまう。そう考えた殻の人のは、動けなくなった子は人の多い場所へこっそり連れて行って周りの人の目につくところに置いておくことにした。
こうすれば誰かが気づいてまた動けるようにしてくれるだろう、と。
そんなことをしているうちに、いつの間にか、亀裂と水中の木の周りには人が集まり、国ができていた。ここに集まったのは、水中の木を信仰している水棲種族達だ。
祈りを通して水中の木に神様の力が捧げられていたが、そのことに気づいているのは殻の人だけだった。
一人祈ってもこの広大な海の一滴にも満たないほどの力しか捧げられることができなかったので、ないよりマシだが自分が集めたほうが早い、と判断し、祈りを捧げる場所、神殿にはあまりモヤを近づけないようにして、あとはそのまま放っておくことにした。
それからまた時間が経って、メインストーリーが始まる。
それと、世界樹。殻の欠片に渡っていた神様の力と、残っていた殻の人の力を使って成長したらしく、ユービキアスで生まれた生命にもわずかながら両方の力が混ざっているそうだ。
故に、殻の人は神様の力が強すぎる世界樹に近寄ることは出来ないが、この大地に自在にモヤを生み出すことができるし、この大陸で産まれたプレイヤーは、モヤを倒してその力の一部を吸収して強くなる、つまりレベルアップすることができる。
反対に、モヤは自身の力が混ざっているからこそ神様の力を持ち帰ることができるのだ。
水中の木は今でもボーッと突っ立っていて半休眠状態らしい。
なんやかんやで結果的に上手いこと循環しているみたいで、この世界の神様の力は一応プラスに向いていて、木も回復しつつあるのだが、まだ覚醒には至っていない。
「はー、世界樹の周辺で敵とエンカウントしなかったのはそういうことか......あれ?水中の木って殻の人の力が混ざった神様の力を渡されて大丈夫なんですか?」
「ああ、問題ない。ある程度は選別されて、神様の力だけを受け取っているからな。それに、じわじわ殻のヤツと同化していってるからちょっとぐらい問題ない。」
「じゃあ……逆に神様の力が強くなりすぎて殻の人の力をもった私達がどうこうなったりは?」
「それも大丈夫だ。水中の木がそれだけ力を取り戻すのにはそれこそ何億年、何百億年の途方もない時間が掛かるし、その頃には同化も終わってるさ。」
それじゃあ今度はメインストーリーまでの話も聞かせてもらう。
殻の人に放って置かれて時間が経った後。とある国の商人が海底の国の商人から話を聞いた。
「我らが祈りを捧げる神殿の周りには黒いモヤが出ないんだ」と。
陸の商人は半信半疑であったが、その海の商人は信用におけるヤツだったので、大陸の首都とも呼ぶべき湖の国のお偉方へと伝えることにした。
こちらも半信半疑ではあったが、陸の商人が出資するとまで言い出すので、それならば、と各国の町へ教会を建てることになった。
名目としては、世界樹への信仰を祈りを捧げる場所となっている。それなりに賑わってはいたのだが、どうにも効果が感じられない。
失敗かと思われていたが、ある日とある神官が祈りの最中に声を聞く。「教会へ魔力を込めた黒晶石を納めよ」と。地の底から響く様なその声に驚き、大神官に伝えるも取り合って貰えず、挙げ句には教会を追い出されてしまう。
黒晶石はモヤからでるモンスターが落とすもので、この世界の通貨でもある。つまり金を納めよ、と言ってるも同然なのだ。
それでも神官は諦めきれなかったので、自ら実行に移すことにした。どこの教会とは言われなかったので片っ端からまわった。凍えるような氷雪の国から乾ききった砂の国。
石を捧げる度に、石は消えたので神官はこれで間違いないのだと確信していた。すべての国をまわり終えた神官は、地底の国を通って海底の国へと向かった。
そこで見た水中の木のあまりの大きさに、神官は悟った。あの世界樹に捧げる祈りでは全く足りなかったのだと。
それでも彼は、祈ることをやめなかった。かばんの中に入れてきた、ありったけの黒晶石に魔力を込め、水中の木へ捧げ、この世界の平穏を祈った。
祈りは届いたのかわからない。しかし、目の前にある魔晶石は消え、お告げのときと同じ声で、「ありがとう」と頭の中に響いたのだった。もちろんこのお告げはどちらも殻の人である。
神官は終ぞ地上へ戻ってくることはなかった。しかし、世界各国を周ったその信仰心を讃えて、神官が歩んだ道のりは『巡礼の旅』と称して永く語り継がれることとなる。
ちなみに、神官は海底でお嫁さんができたので地底で暮らしているだけだったりする。神官の捧げる祈りを見ていた彼女曰く「神々しく輝いていた」そう。惚れた贔屓目とかではなく物理的に、である。
そうしていつしか、巡礼の旅は一般にも広がり、主人公であるプレイヤーもこの道に沿って旅に出ることになるのだ。
「まあぶっちゃけ、いろんな街をまわれって言う理由付けみたいなものだけどな。」
「その巡礼の旅がメインストーリーになるんですか?」
「うーん。メインと言うか、主人公の目的はそうだ。巡礼の旅を通して、最終的に水中の木を起こすこと。ただ、それぞれの国でも大きなクエストがあって、どちらかというとそっちがメインストーリーみたいな感じだな。」
「主人公にとっては地味な巡礼クエストがメインだけど、周りで派手な争い事が起こるからそっちがメインに見える感じですね。」
「そういうこと。」
昔やったな〜。メインクエスト無視してサブクエとか探索ばっかやってたの。結局エンディング見れてないなあのゲーム......ユービキアスはちゃんとメインクエスト進めようっと。




