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【書籍化】落ちこぼれだった兄が実は最強〜史上最強の勇者は転生し、学園で無自覚に無双する〜  作者: 茨木野
第4章

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56.わがまま王女の破滅~その3~



 転生勇者ユリウスが、理事長室へ向かっている、一方その頃。


 王女ヒストリアは、久方ぶりに、学園を訪れていた。


「……絶対成功させるわ、絶対に」


 血走った目で何かをつぶやく彼女は、遠目には幽鬼のように見える。


「……ヒストリア王女だ、なんかひさしぶりじゃね?」


「……学校やめたってウワサだったんだけどな」


 学生達の注目を浴びていても、ヒストリアは気にならない。


 今の彼女には、周りを見る余裕はないからだ。


「……これが、ラストチャンス。【ガイアス】を誘惑して手に入れる。これが駄目なら、アタシは終わり……」


 ヒストリアは、先日の父の言葉を思い出していた。


『良いかヒストリア。弟のガイアスを、なんとしても手に入れるのだ』


 そこは地下牢。

 国王の拳からは、血がポタポタと垂れている。


 地べたに這いつくばるのは、顔中をボコボコにされた、ヒストリアだ。


『ユリウスの心を手に入れることには失敗した。ならば、その弟を我が物にしろ。さすればユリウスと親族関係でいられる』


『で、でも……お父様。ガイアスとの関係も、破綻しております』


 バキッ!


『きゃあ!』


『だれの! せいで! ユリウスを失ったと思っているのだこの馬鹿娘が!』


 国王は娘を何度も何度も蹴り飛ばす。


『今すぐ弟を手に入れろ。できなければ……わかっているな?』


 回想終了。

 ヒストリアは狂気の笑みを浮かべる。


「……大丈夫、アタシにはこの【魅了の魔眼】がある」


 ヒストリアの左目の色が、違った。

 薄紫色のそれは、瞳孔に魔法陣が仕込まれている。


 見た異性に、無理矢理恋心を抱かせる魔眼。


「王家が保管していた宝具のひとつよぉ。ありがとうお父様ぁ」


 ちなみに父親に、これを使えばユリウスが手に入るのでは? と尋ねた。


 だが魅了の魔眼を使ってしまうと、かけられた側は思考能力を失った、ただの操り人形になってしまうらしい。


 ユリウスという最高の人材を、木偶人形にしてしまうのは惜しい……とのこと。


 さて。


 ヒストリアがやってきたのは、弟とユリウスのいる教室だ。


「ガイアスぅ! どこぉ~!」


 しーん……。


 ヒストリアの登場に、同級生達は戸惑っている様子だ。


「ひ、ヒストリア王女……?」


 クラスメイトのひとりが、こちらを青ざめた表情で見やる。


「ねえ、ガイアスはどこ? さっさと答えなさい! ねえ!」


「なんだよぉ! 怖いよあんたぁ!」


 知りたいことをさっさとしゃべらない、愚鈍なこの生徒に、ヒストリアは魔眼を使う。


「こっちを見なさい!」


 ヒストリアは怯えていた生徒の胸ぐらを掴み、顔を近づける。


 左目が、カッ……! と輝く。


 紫の輝きを、至近距離で見た彼は……とろんとした表情になる。


「ガイアスの居場所を言いなさい?」


「……地下ダンジョンに用事だそうです、ヒストリア様ぁ」


 手を離すと、生徒はその場にぐにゃりとへたり込む。


 焦点の合わない目で、えへえへ……と夢見心地の表情になっていた。


「魅了の効き目は上々ね! よしっ!」


 ヒストリアは生徒を放置して、地下へ向かう。


 ちなみに彼女が命令しない限り、一生彼はその場から動こうとしない。


 国宝級の魅了の魔眼は、それほどまでに強力なのだ。


 ややあって。

 地下ダンジョンの入り口まで到着。


「ガイアスぅ!」


 彼はなぜか、入り口の前で、そわそわしていた。

 

 まるで誰かの帰りを、待ちわびているかのようであった。


「……なに、ヒストリア? ボク忙しいんだけど?」


 ガイアスの冷たい対応に、はらわたが煮えくり返る。


 出来損ないの弟の分際で、この王女にそんな態度を取って良いとでも?


「用事は一瞬よ。ちょっとツラ貸しなさい」


 ヒストリアはぐいっ、とガイアスの胸ぐらを掴む。


 顔を近づけ、魔眼を発動させる。


 カッ……!


「あははっ! 勝った! これでアタシは国外追放を逃れたのよぉ!」


 ガイアスを手放すと、ヒストリアは勝ち誇った邪悪な笑みを浮かべる。


「さぁ! ガイアス! アタシに忠誠を誓うと言いなさい!」


「は? 嫌だよ」


「んなっ!? なんで!?」


 自分の魔眼は、確かに発動した。

 だが彼は言うことを聞く様子はない。


「どうして魅了の魔眼が発動しないの!?」


「……ボクの体は、常に魔力の鎧に覆われている。物理攻撃だけでなく、スキルによる特殊な精神攻撃も防ぐんだよ」


「魔力の鎧ですって!? そんなこと……どうしてあんたができるのよ!?」


「修行したからだよ。……ところで、魔眼を使って、何するつもりだったわけ?」 


 ゴミを見るような目で、ガイアスが見下ろしてくる。


「いや……これは……その……」


「もしかして、兄さんのときみたいに、ボクを無理矢理惚れさせて、自分のものにしようとしたわけ?」


「ち、違うわ! これは違うの! 話を聞いて」


「聞くかそんなもん!」


 ガイアスが怒気を発する。


 それは彼の体から発する魔力の波動となって、ヒストリアを吹っ飛ばした。


「うひぃいいいいい!」


 彼女は無様に転がって倒れる。


「……なんてクソ女なんだ。兄さんだけでなくボクまでも。見損なったぞ!」


「ち、ちがうのぉ~……これは、ちがうのよぉ~……信じてよぉ~……」


「うるさい! もうボクにも兄さんにも近寄るな! 二度とそのツラ見せるんじゃない!」


「そ、そんなぁ……」


 そのときだ。


 ギギ……。

 グギギ……。


 ダンジョンの奥底から、何かが聞こえたのだった。

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― 新着の感想 ―
[一言] 浮気の現場を押さえられた女のように言いつくろう。 「違うの、これは・・・違うのよ、あなた」 何が違うんだ?
[良い点] 頭を空にして読めば面白い。 [気になる点] ガイアスはどの面下げてヒスとリアを軽蔑しているのだろうか? 少し前に、惚れ薬を兄さんに使おうとして嫌悪感を露にしていたが、お前そもそも責めない…
[一言] ああ……失敗した時のこと何も考えないから……それにあれだけ大勢の前で無駄に魔眼の存在を披露するなんて……ああ……。
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