212.格の違い
魔王は、二千年前の自分と相対していた。
(相手は自分じゃ。弱点は心得ておる!)
魔王はぐっ、と身をかがめると、すさまじい速度でツッコんだ。
魔王は、魔の王。魔法の扱いにおいては魔族1。
魔法で攻撃しても防がれてしまうことは必定。
一方、魔法の腕がなまじあるせいで、肉弾戦はやや不得手だ。
それゆえ、魔王は接近戦を持ちかけたのである。
「ずあぁ……!」
魔力で強化した拳を男魔王の顔面に向かって放つ。
ガキィイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイン!
その衝撃で、背後の魔王城の壁が破壊される。
(手応えあり……!)
だが。
男魔王はじろりとこちらをにらみつけてきた。
「で?」
(バカな!? 無傷じゃと!?)
魔王は焦りを覚える。出し惜しみなしの全力の一撃をお見舞いしたはずだったのだ。
けれど男魔王の肌に傷一つ負わせることができていなかった。
「う、おぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」
魔王は両腕に魔力を込めて、相手に連打を食らわせる。
ズガッ!
ズガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガ!
1秒に1000発もの打撃を男魔王に食らわせる。
だが信じられないことに、敵は……回避も防御もとろうとしていない。
ただつまらなそうにこちらを見つめている。
攻撃は当たっている。1発で巨岩を易々と砕く攻撃を、1000発受けてもなお平然としていた。
(なんじゃ!? どうなってるのじゃ!?)
明らかに、男魔王は自分よりも強靱な肉体を持っている。
あり得ない話だ。なぜなら目の前のこいつは、2000年前の自分なのだ。
自分と同等の存在のはずである。だというのに、自分より強い力を持っているのは、どういうことかと。
「答えは単純だ、ヴェノムザードよ」
またしても、心を読まれてしまう魔王。
「我は星杯の力でこの世に顕現した。裏を返すと、我の体には星杯から力が……魔力が供給されている。無限にも等しい魔力がな」
人間と違い、魔族の体は魔力で構成されている。
それゆえ、魔族にとって魔力量は体の強度とイコールだ。
目の前の男魔王の体は、今の自分より遙かに頑強ということである。
「いくらやっても無駄だぞ」
「…………」
追い詰められているのは自分だ。
だというのに……魔王はにやりと笑った。
「腹の立つ笑みを浮かべるな」
男魔王の表情がゆがむ。
一方で魔王は笑った。これでいい。
魔王が単身攻めてきた本当の目的は、2000年前の魔王軍の強さを図るためだ。
相手から情報を引き出すために、今、彼女はここに居る。
がきぃん!
男魔王が小バエでもはらうかのように、軽く手を振る。
魔王はそれだけで吹っ飛んでいく。魔王城の壁を突き破り、遙か上空へと飛ばされる……。
今の一撃で魔王は大ダメージを受けた。
(なる……ほど……ここまで……強いのか……)
魔王は真の姿を解放する。
邪悪なる巨竜となって、大きく口を開く。
「勇者よ! よく見ておけよ!」
魔王は全魔力をこの一撃にかける。
おそらくこれで敵が死ぬことはないだろう。下手したら、肌に傷一つ付けられないかもしれない。
だがそれでいいのだ。
自分は使い魔。主人のために尽くす存在。
勇者達が戦うとき、少しでも今回の戦いで、有利になれる情報を引き出すことができれば……。
それだけで十分なのである。
『邪竜閃光波ぁ!!!!!!!!!!!!!』
ビゴコオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!
魔王が放ったのは全魔力を込めた強烈な竜の息吹。
大気を震わせ、海面を蒸発させ、触れたものを魂から消滅させる破壊のブレス。
敵は回避不可能だ。攻撃が来ると認識できない速度で、ブレスが飛んできているのだから。
ドゴォオオオオン! という激しい音が遠くからした。
だが……魔王はわかっていた。
『は……ここまでか』
背後に、無傷の男魔王がいることに。




