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No.203:side・ryuzi「準備完了」

「よう。例の飛行船、完成したんだって?」

「まあね……」


 ついに魔王国へとつながる移動手段、飛行船が完成したとの朗報が入り、俺は真子の元へと駆けつけた。

 いつもの会議室のテーブルについて、何故かブスッとした表情をした真子が小さく頷く。


「? なんて顔してんだお前」

「気にすんな触れんな触んな」

「そこまで言われると余計気になるんだが」

「あー、隆司。ちょっと……」

「お?」


 俺の問いかけに対して殺気すら滲ませて返してくる真子の様子に首をかしげていると、先に到着していたらしい光太がちょいちょいと俺の肩をつついてくる。

 左右の腰に一本ずつ、さらに背中に四本。合計で六本の剣を装備するという極めて前衛的な進化を遂げた光太が、声の大きさを落としながら事の真相を俺に語ってくれた。


「実は、サンシターさんが少し前から実家の方に里帰りしてて……」

「それで機嫌が悪いってのか?」

「うん。送り迎えしてあげようとしたらしいんだけど、ちょうど同郷の魔導師の人がいたらしくて、やんわり断られちゃったんだって……」

「サンシターェ……」


 事の次第に思わず天井を見上げてしまう。

 サンシター……。お前としては、この重要な時に、真子という人材を自分が占有してしまうことを回避するための方便だったんだろう……。実際、判断としては極めて正しいと俺も思う。

 しかし結果として真子のやつの臍が曲がってんじゃ元も子もねぇよ、主にモチベーションと周囲への影響的な意味で……。


「じゃあもういっそ押しかけろよ、サンシターんとこに。今のお前になら楽勝だろ?」

「……サンシターに迷惑かけたくない」


 臍曲げられっぱなしもめんどくさいのでそう提案したのだが、真子はブスッとした表情を崩さないまま小さくつぶやいた。


「お前、サンシターの事、奴隷か何かのようにこき使っておいて、今更迷惑とか……」

「仕事と私生活は違うでしょう。どうしたって、魔王国へ向かうのは最後の戦いになるだろうし、ご家族へのあいさつを邪魔しちゃダメでしょ」

「まあ、そうかもしれんけどなー」


 相変わらず機嫌が悪いままではあるが、真子の中では真子なりにケリはつけているらしい。

 ……実際、次辺りでこの騒動にもけりがつくはずだ。ガルガンドの神位創生を食い止められればこちらの勝ち。そうでなければ……総力戦をけしかけるしかねぇ。

 最悪誰かが死ぬことも考えなくちゃならねぇ。誰一人欠けもなく、といきてぇところだが……。


「どうでもいいけど、サンシターも連れてくんか? さすがに今回は置いて行った方が――」

「なんか文句でも?」

「イエ、ナンデモナイデス」


 サンシターお留守番を提案したところ、呪殺されそうなほどの眼力で睨まれた。

 っていうかマジで怖い! 恋する乙女超怖い!!


「僕も同じこと言って同じ目で睨まれたよ……」

「こういう場合、普通は置いていくだろう……。来てほしいのは乙女心の為せる業か……?」

「フン」


 口々に勝手つぶやく俺と光太から視線を逸らす真子の頬は、リンゴのような新鮮な赤さを保っている。恥ずかしいらしい。

 もう告白しろよ……。サンシターはやんわり断りそうではあるけどさー。


「まあ、いいや。出来レースの事は置いとこう」

「出来レース言うな」

「光太、お前いつから六爪流に鞍替えしたんだよ。それ全部使えるのか?」

「うん! ガオウにも協力してもらって、何とか使えるくらいには仕上がったよ!」


 俺が水を向けてやると、光太は顔をキラキラ輝かせながらまず腰の剣を二本引き抜く。

 続けざまに回転しながら背中の剣を手ではなく意志力(マナ)を使って抜き払う。

 宙を舞う剣はクルリと回り、光太が剣を構えるのに合わせてビシリと俺に照準を定めた。


「名付けて二刀四飛刀流! どう!?」

「そんなドヤ顔で言われてもなぁ。とりあえず語呂の悪さは隠せてないと思うぞ?」

「え!? 語呂悪いかな!?」

「ちなみに光太が今着てる服は、あたしが混沌言語(カオス・ワード)を埋め込んで、意志力(マナ)のコントロールをしやすくしてあるものよ」


 真子の注釈によく見てみれば、確かに今まで光太が着ていたものと比べると、服が変わっていた。

 今までは、古着屋で揃えた運動着的な服装だったのに対し、今の光太が着ているのは戦闘用礼装という感じだ。今までと比べてずっと戦う人間であるという印象が強い。

 俺の言葉にショックを受けている光太の間抜け面があってなお、凛々しい印象が崩れないのはさすがというかなんというか。


「それだけじゃなく、防御関係の混沌言語(カオス・ワード)も埋め込んであるから、鎧なしでも高い防御力を発揮できるわ。まあ、燃費悪すぎて、光太以外には扱えないけど」

「ここに来て、チートに磨きがかかってんなぁ。ついに最強装備か」

「うん。それに、防具だけじゃなくて武器もそろってるしね! まずこの剣の銘が――」

「いや、いい。言わんでもいい」


 キラキラした顔で背負った剣の名前を教えようとする光太を遮る。

 どうせ例によって、光太のセンスで勝手に名前を付けたんだろう。聞かなくてもなんとなくわかるし。


「えー。せっかくだから聞いてよ」

「どうせ覚えられねぇんだから、聞いてもしょうがねぇだろ……」

「すまない! 少し遅れたか?」

「待ってたぜソフィィィィィ!!」


 語りたがる光太をどういなすか考えているところへやってくるソフィア。

 俺は一も二もなくソフィアへと突貫し。


「フン!」

「げぼっ」


 小慣れた様子のソフィアのラリアットを喰らい、そのまま仰向けに倒れる。


「ずいぶん慣れたわね、ソフィア」

「こう、連日連夜襲われてはな」

「フフフ、これも俺の、げふっ! 愛のし、ゲフ、ゲフッ! 指導のたまも、ゴボッ!!」

「ちょっと、隆司、喉が治らないうちに喋らないの。血が飛び散って、かなり凄惨なことになってるよ」

「もう少し心配してくれてもいいと思うんだ」


 確かにまあ、せき込むたびに俺の口から飛び出した血が飛び散って、会議室の中がえらいことになってるけど……。

 俺は懐から取り出した血拭き紙で、とりあえず部屋の中を掃除する。


「まあ、この阿呆はどうでもいいのだ。飛行船が完成したらしいが……」

「とりあえずね。試験飛行はしてないから、ぶっつけ本番での飛行体験になると思うけど、準備はいいかしら?」

「もちろん」


 真子の確認に、ソフィアは一つ頷くと、腰のレイピアを引き抜く。

 白く鈍い輝きを放つレイピアを前に、ソフィアは真剣な顔でその切っ先を見つめた。


「いつでも行けるさ。必ず、この戦いを――」

「ほー。こうしてじっくり見るのは初めてだけど、金属じゃないんだな」

「ちょ、近い! 近いから!」


 じっとソフィアのレイピアの刀身を見ていると、ソフィアがなんかいきなり剣閃を振るってくる。

 軽くスウェーで回避しつつ、俺は首をかしげた。


「なんだよソフィー。そんなに照れなくても」

「照れてない! まったく……」


 ソフィアは怒鳴り声を上げつつ、レイピアを腰に納めた。


「……まあ、お前の言うとおりだ。このレイピアは、魔王国を襲ってきた中でも、最も凶悪な混沌の獣の骨を削りだして作られたものだ」

「混沌の、獣?」

「ああ。高く険しい山脈の向こうに広がる荒野に住む野蛮な怪獣で、結構な頻度で山を越えて魔王国までやってくるのだ。私や魔王軍の者ならともかく、戦えぬ者にとっては脅威以外の何物でもない」

「というか、混沌の獣って魔王国にもいるんだな」


 師匠のいた村でも聞いた名称が出てきて、俺は少し感心して頷いた。


「ん? この国にも、混沌の獣がいるのか?」

「ああ。ずっと北の方にいった森の中にな。ただまあ、話だけ聞くと、魔王国にいるのよりずっと弱いみたいだけどな」


 何しろ、すぐ傍に村があってもとりあえずはどうにかなってるっぽいし。


「……そういえば、貴様は準備が終わっているのか? 光太にしろ、真子にしろ、様相が変わっているが、貴様にそんな様子が見られんのが気になる」

「ん? 俺?」


 ソフィアの質問に、俺は首をかしげながら答える。


「いや、今更、準備とかいらないかなーって」

「……正気か? 今まで以上に厳しい戦いになるのは目に見えているぞ?」


 俺の言葉に、ソフィアの瞳に険が宿る。

 これから先の戦いを甘く見ているのか?そう問いかけるような厳しい眼差しだ。


「フフフ、ソフィたんが俺のことを心配してくれている! 祭りの準備だ!」

「茶化すな。答えろ」


 ごまかすような俺の言葉に対し、まったく反応せず、あまつさえレイピアを抜いて首筋に突きつける。

 おぉう、抜く手が見えんかった……。

 俺はレイピアの刃をつまみながら、ゆっくりと押し戻した。


「……いやまあ、割とまじな話なんだよ。俺の主力武器は覇気になるだろうし、覇気と混沌言語(カオス・ワード)は相性悪いみたいだから、これ以上の準備となると、せいぜい覇気の練度を上げるくらいしかねーし」


 俺の言葉にソフィアが真子へと問いかけの視線を送る。

 ソフィアの視線を受け、真子は肩をすくめた。


「そいつの言う通りよ。覇気と混沌言語(カオス・ワード)は水と油みたいな関係でね。竜の谷の現象がいい例ね」

「そうか……」


 真子の言葉に納得したのか、ソフィアはレイピアを引いた。

 だけど、不満は残るのか渋い顔をしたままだ。

 そんな顔をさせっぱなしでは男の沽券にかかわるので、俺はニヤリと笑いながら口を開いた。


「まあ、そう心配しなくても武器は持ってくさ」

「武器? ……そういえば、貴様以前は剣を使っていたな」

「そう、あれ。覇気の通りがいいみたいで、あれを使うと結構でかい一撃打ち込めるけど、威力がでかすぎるんで最近は使うの控えてたんだよな」


 俺の言葉に、ソフィアは何かを納得したように頷いた。


「そうだったのか。ひょっとしたら、あの剣も何らかの生物の骨を加工したものかもしれんな」

「あの石剣が? そりゃまたなんでだ?」

「覇気が通りやすいからだ。金属や鉱石に比べると、やはり生物の肉体であった物の方が覇気の通りがいいことが多い。私が混沌の獣の骨を加工したレイピアを使っているのも、そのためだ」

「ほー」


 ソフィアの説明に、いつだったか骨以外のほとんどすべてを溶かすとかいうスライムと戦った時のことを思い出す。

 あの時、石剣が解けなかったのは、石剣が実は骨剣だったからなのか。

 しかし、そうだったとして、あの剣の材料の元となった生き物ってなんだろうな……。あれだけ重くて、硬くて、しかも切れ味までいいとか。


「で、あとは騎士団と魔王軍の編成だけど。騎士団からはケモナー小隊をメインに腕利きを選出。魔王軍からは、ケモナー小隊と同数程度。選出は済んでる?」

「ああ。十分な使い手を選んだ。だが、やはりついてこれないものからは不満が上がっているな……」

「そこんとこは悪いけど、一応の人質ってことで。飛行船に全員載せられない以上は、人数は絞らないといけないしね」

「そうだな……」


 人質、という言葉に対してソフィアが少しだけ暗い顔になる。

 戦争が終結して一週間と少し。形式上だけとはいえ、その痕傷を引きずっていることを気にしてるんだろうな。

 雰囲気を切り替えるように、光太が手を叩いた。


「他には、ヨハンさんとアルルさんが名乗り上げてたけれど……大丈夫?」

「むしろお願いしたいくらいね」


 光太の言葉に真子が頷く。

 あの二人にとっても、この戦いは重要なものになるからな。連れて行かないわけにもいくまい。

 と、その時。


『……アメリア王国に住む、すべての皆さん。こんにちわ。アルト・アメリアです』

「む? これは……?」

「ああ、忘れてた」


 突然響き渡ってきたアルトの声に驚くソフィアに、真子が説明する。


「実はこれから、アルト王子による王都全域放送があるのよ」

「王都全域放送? 何故だ?」

「そりゃ、これから魔王国へ人質を救出に行くからさ。……アルト王子が陣頭指揮に立ってな」

「彼が? ……大丈夫なのか?」


 ソフィアの言葉ももっともだろう。

 元々、アルトは前線に立つタイプじゃない。

 むしろ後ろの方で人を動かすタイプだろう。

 ただ、あいつにとっても妹を救いだすチャンスになるんだ。来るなというわけにもいかねぇし……。


「それに、止めてもついてくるだろ。何しろ、しばらくの間は自分がいなくてもきちんと国が回るように、ここ最近ずっと根回ししてたみたいだしな」

「え、自分がいなくても?」

「……それは別の意味で大丈夫なの?」

「……大丈夫!って祈るしかねぇだろ……」


 そこはかとなく香ってくるアルトの死亡フラグ。

 それが無事へし折れることを祈りながら、俺はアルトの放送へと耳を傾けた。




 ついに準備が整い、あとは出発するだけとなりました。

 アルトは王都の人たちに向けて、放送を発信します。彼の真意は?

 以下、次回。


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