ルブラン教会の謎 4
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アークとシオンはすぐに近くの兵士を呼び、部屋の中にいた少女たちの遺体を運び出させた。
地下室から礼拝堂へと運び上げられた少女の遺体の数は、八名。驚くことに、どの遺体もまったくと言っていいほど腐敗しておらず、まるで眠りについているか人形のようだった。
(……キャロルと、同じ……?)
腐敗していなかったローデル男爵夫人の遺体。それと同じように腐敗していない少女たちの遺体。いったいどうなっているのか、シオンは頭をかきむしりたくなる。
そして、この教会の責任者であるフランク神父が、この実態を知らないはずはなく――
「アーク、フランク神父を探した方がよさそうだ」
「そうですね。……少なくとも、何か事情を知っているはずです」
少なくとも――アークの低い言葉にシオンは眉を寄せる。そう、「少なくとも」。シオンもアークも、フランク神父がこの現状を「知っている」だけだとは思っていない。
もしかしたら、この少女たちの死にも関わっている、そう思っている。
(シュゼットはもしかしたら何かに気がついたのかもしれないな……。だから……)
脳裏に最悪なことがよぎり、思わずシオンは自分の二の腕に爪を立てた。
「アーク、このままルドルフ警部のところに向かおう。フランク神父を探すには、警察の力を借りた方がいい」
急がなくてはいけない。
シオンは焦燥にかられ、兵士たちに少女の遺体を取り急ぎ城まで運んでほしいとだけ告げると、アークを連れて馬車に乗り込んだ。
急いで警察署に向かい、ルドルフが使っていた部屋に飛び込む。
「あ、殿下!」
シオンの姿に真っ先に気がついたそばかす顔のロトネーが、目を丸くして近づいてくる。
「どうしたんですか、殿下?」
「お久しぶりです、ロトネー。ルドルフ警部に会いたいのですが、いらっしゃいますか?」
「警部なら、今朝ローデル男爵邸に向かったきり、もどっていませんよ」
答えたのはロトネーではなく、眼鏡をかけた長身の男――シャルルだった。
「ローデル男爵の邸に?」
シオンは首を傾げた。確かに今日、警部とローデル男爵邸に向かうことにしていた。しかしシオンは急遽シュゼットの行方を探さなければならなくなったため、日を改めてほしいと伝えていたはずだ。
シオンの困惑に気がついたのか、シャルルが眼鏡を押し上げながら眉をひそめた。
「何かあったのですか? 警部も――、男爵の邸に向かってからもう何時間もたっていますし、そろそろ戻って来てもいいころなのに帰ってくる気配がないから気になっていたんです」
何があったのかと問い詰めるシャルルに、シオンは少し考えたあと、シャルルになら話してもいいだろうと判断した。
シャルルとアークと別室へ向かい、そこでルブラン教会で発見された少女の遺体の件や、ローデル男爵夫人の遺体がもともとそこにあったことを話した。シュゼットの件についてはもちろん伏せたが、今の話で状況が少し変わったと判断したシャルルは難しい顔をした。
「今の話を聞くと、フランク神父が殴られ、ローデル男爵が夫人の遺体を盗んで――というのは自分の妻なので不思議な気もしないでもないですが――、とにかく、そう言ったフランク神父の証言にも虚偽があったのではないかと判断できます」
さすがシャルル。頭が切れると思っていたが、今の説明だけで内容を理解してくれたらしい。
「もう一つ。少女たちの遺体というのが気になります。行方不明者の少女たちのリストには、ルブラン教会の近くの孤児院――フランク神父が管理していた孤児院の少女たちも上がっていますね。その遺体の中に、まさか、行方不明の少女たちがいたなんてことはありませんか?」
シオンは目を丸くしてアークを見た。そこまで気がついていなかった。確かに、行方不明者の少女たちの遺体であることも考えられる。
「遺体はいったん城へ運んでもらいました。シャルル、あなたは行方不明者の名前や顔の特徴などをご存知ですか?」
「ええ。全部ではありませんが、ある程度は」
「わかりました。紙とペンをかしてください」
シオンはシャルルに用意させた紙に一筆書くと、それをシャルルに手渡した。
「これを城の警備兵に見せてください。少女たちの遺体を見せてもらえるはずです。俺たちはローデル男爵邸に向かいます。……ルドルフ警部が心配です」
シャルルはシオンから紙を受け取るとさっと立ち上がった。
「警部のことを頼みます。……なんだか、この事件は、いろいろきな臭くて仕方ありません」
シオンは頷き、アークとともに急いでローデル男爵邸へと向かった。




