ルブラン教会の謎 1
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――シュゼットがいなくなった。
オルフェリウスに呼び出されたシオンは、そう言う彼の言葉に思わず耳を疑った。
執務室にはシオンのほかにアークも呼び出されている。
オルフェリウスは落ち着かなげにテーブルの上を爪の先で叩きながら、
「昼前、シュゼットが外に行きたいと言い出したのだよ。今日はシオンもアークも不在のため駄目だと言ったのだが、少し外の空気を吸いたいというから、すぐに戻ってくることを条件に許可を出した」
だが――、ルブラン教会の前で馬車を降りたシュゼットは、そのまま馬車には戻ってこなかったらしい。
御者がルブラン教会の中も周りも探したが、シュゼットの姿はどこにもなかったそうだ。
「……ルブラン教会?」
シオンは眉間に皺を寄せた。
(なんだって、ルブラン教会に……)
――ちょっと気になることがあったのよ。
シオンは、シュゼットが過去の新聞を読みながら、そんなことを言っていたことを思い出す。
デニール子爵の娘であるマルグリートが、行方不明になる前に、ルブラン教会に通っていたことも気にしていた。
(ルブラン教会に……、何かあるのか?)
もしもシュゼットがルブラン教会に何か不審なところを見つけ、それを調べようとして教会を訪れ、行方不明になったのだとしたら――
(まずいかもしれない……)
シオンの背中に冷や汗が伝った。
「オルフェ、シュゼットはルブラン教会に行ったんですね?」
「そうだ」
「わかりました。……今日はもう、夜になるので、明日の朝、ルブラン教会に行ってきます。念のため、数名で構わないので、護衛兵をかしてください」
「俺も行きます」
それまで黙り込んでいたアークが言えば、シオンは大きく頷いた。正直、アークがいてくれるのは非常に助かる。万が一何かあったときに、アークの腕は役に立つからだ。
オルフェリウスは眉をひそめた。
「その、ルブラン教会にはなにかあるのか?」
「わかりません。ただ、今思えば、シュゼットは何か不審がっていたのだと思います。彼女が不審に思ったのならば……、おそらく、何かがあるのだと」
「……シュゼットは、巻き込まれたと?」
「可能性は高いと思います」
オルフェリウスは眉間に指をあてて、ふーっと長く息を吐いた。
「必要なものがあれば言え。いくらでも用意してやる。そのかわり、何としてもシュゼットを探し出せ。……私は、動けない」
「わかっています」
理由はわからないが、シュゼットの存在は秘密にされている。いくら兄であっても、オルフェリウスが動くことはできないことは、シオンは充分にわかっていた。
長い付き合いだが、オルフェリウスがここまで弱った表情を浮かべるのははじめて見るな――、そんなことを思いながら、シオンは執務室をあとにした。




