帽子屋と消えた遺体 6
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ローデル男爵の邸に行くと、執事のトムキンスに出迎えられた。
事情を伏せて男爵に会いたいと伝えたところ、男爵は昨日から邸に戻っていないらしい。
シオンはトムキンスに男爵が戻ったら教えてほしいと伝えて一度城に戻ることにした。
城に戻ると、シュゼットは何やら難しい顔で考え込んでしまった。
テーブルの上に並べられたお菓子にも紅茶にも見向きもせず、頬杖をついて一点を睨むように見つめているシュゼットをシオンは不思議に思うが、声をかけてほしくなさそうな雰囲気なので、ただ黙って自分の分の紅茶に口をつける。
(それにしても……、どうしてローデル男爵はキャロルの遺体を持ち出したんだ?)
確かに二年も腐敗を免れた遺体なんて奇跡に近いし、愛する妻が生前の美しい姿を残していると知ったら一目見たいと思うかもしれない。しかし、神父を殴って遺体を持ち出すという暴挙にまで出る理由が、シオンにはまったくわからない。
(あの蛇の封蝋の手紙が何か関係しているのか……?)
もしかしたら、遺体が腐敗しない理由も、あの手紙に関係するのだろうか。考えれば考えるほどわからなくなって、シオンは「うーん」と唸る。
そうして、いつの間にかシュゼットと同じように難しい顔で考え込んでいると、シュゼットが唐突に口を開いた。
「行方不明の事件、調べてきて」
「え?」
シオンはきょとんとした。
「ルドルフ警部の捜査を手伝う許可を得たんでしょう」
(許可を得たんじゃなくて、押しつけられたんだけどね!)
シオンは心中で反論したが、はあとため息をつくと渋々立ち上がる。
確かに、オルフェリウスによって強制的に捜査の協力をすることになったシオンだったが、まだ一度も警察署に顔を出していなかった。
正直乗り気はしないが、このまま無視し続けていれば、オルフェリウスによってアナスタシアとの結婚許可証が発行されかねない。それは何としても避けたかった。
シュゼットはとぼとぼと部屋を手で行こうとするシオンの背中に、
「行方不明者たちが行方不明になる前に会っていた人物を探ってきてほしいの」
「会っていた人物?」
「そう。全員じゃないでしょうけど……、おそらく、ローデル男爵の名前も出てくるはずよ」
シオンは驚愕して、その場にしばらく立ち尽くした。




