宮古島合宿3日目その1(天使の寝顔)
青い海が彼方まで広がる。
青い空と青い海、その間に白い雲が浮かぶ。
雲が無ければ海と空の境がわからない情景に思わず息を飲む。
そして少し離れた海の上に黒い物が見える。
逆光に目を細めそれを見ると、青い海の上に黒髪の美しい少女が佇んでいた。
その少女は何も身に付けてはいない。
その形の良い膨らみを隠すことなく少女は海の上歩き始めた。
遠浅の海か? と目を凝らしもう一度見ると、少女の白く美しい背中に大きな羽が生えているのが見えた。
そう、その少女は人間ではなく天使だった。
天使は白鳥のような白い羽をゆっくりと羽ばたかせ、海面を歩くように飛んでいく。
遊んでいるのだろうか? スキップするように海面に足を着けながら飛んでいる。
あまりの幻想的な光景に俺は我を忘れその場に佇んでいた。
しかし、その判断は間違っていた。
この世にあらざるものに出会ってしまったのだ。
直ぐにその場を離れなければいかなかった。
しかし俺は彼女に魅了されてしまった。
少しだけ海に足をつけていた天使は、失敗したのか? バランスを崩すように海面に膝下まで入れてしまう。
同時にそこから大きな波紋が水面を広がっていった。
その波紋はどんどんと大きく広がり波に変わった。
その波はさらに大きくなり俺の近くで巨大な高波と変わる。
俺はあっさりとその波に飲まれ海の底に落ちていった。
がぼがぼと口から空気が漏れ海面に登っていく。
俺はなすすべなくあっという間に海の底に沈んでいった。
明るく美しい世界から一転暗く冷たい海の底。
俺はもがくことなく、そのまま海底に寝そべった。
天国から地獄に……ってそう思った。
でもここが本来自分のいるべき場所……このまま冷たい海の底で死を受け入れる……ってそう思ったその時、一筋の光が差し込む。
俺はその光に思わず手を伸ばしてしまう。
その俺の手を、さっきの天使が握りしめた。
その瞬間……天使の羽が水圧に耐えきれず木っ端微塵に砕け散る。
天使の背中から血が吹き出し海水が赤く染まった。
天使は痛みをこらえ俺の手を握りしめ、海面向かって泳ぎ始める。
このままでは二人とも……と、俺も必死で泳ぎ始めた。
そして……そのまま二人で抱き合い、海面に浮かび上がる。
俺は海から顔を出しおもいっきり空気を吸った。
新鮮な空気が肺の中に入ってくる。
手足が痺れるような、そんな快感が全身を包んだ。
俺と天使はそのまま抱き合っていた。
すると背中に回した手が生暖かく感じ、ふと見ると手には真っ赤な血がべったりと付着していた。
俺は慌てて天使の顔を見る。
天使は何事もなかったかのように俺を見て微笑んだ。
血だらけの身体に砕けた羽、天使は二度と飛べないと俺はそう悟った。
俺はまた天使を抱き締めた……俺の為に……そう思い彼女を強く抱き締めた。
その時……目が覚めた。
高く白い天井、ここは宮古島のホテル……俺の部屋、ベッドの上。
そう……これは夢だった。
ゆっくりと辺りを見渡す。
カーテンは昨日と同様に少しだけ開いていた。
窓の外は暗く、まだ夜明け前だ。
昨日は午前と午後の練習を終え、夕食を食べ……。
俺はその後のことを思い出す。
そして……ゆっくりと顔を横に向けた。
俺の隣には、さっき夢で見た裸の天使が……目を閉じて、俺の腕にすがり付くように静かに寝息をたてていた。




