ただ者ではない?
食事を終え僕達はようやく部屋に入った。
部屋割りは僕と妹が同部屋、円とキサラさんは一人一部屋だ。
寝室が3部屋だったので、必然的にこうなる……。
ある意味兄妹でお互いを見張ってろって事なのか?
僕よりも妹の方がだけど。
メイドさんに連れられあてがわれた部屋に入ると、そのあまりの豪華さに若干引いてしまう。
聞けばここは主の寝室らしく、ある意味高級ホテル以上の作りになっていた。
部屋はホテルではあまり見た事の無い広さで、真ん中にダブルベッドが二つ並び、大きなテレビや黒檀の机、ウォークインクローゼッ
ト、バストイレ、さらにはミニバー等、充実過ぎる設備が整っていた。
荷物を置くとメイドさんは一礼して部屋を後にする。
妹は部屋に入るなり「先入るよ!」と言って、部屋に付いているお風呂に入っていった。
身体についた塩、バーベキューや松明の煙の匂い、僕も早くシャワーで身体を洗い流したかったけど一緒に入るわけにもいかず、かといって妹より先に入らせろなんて言える筈もなく、そのままホテルの様な部屋で大人しく待っていようかと思っていたが、脂っこい物を結構な量を食べたので、僕は何か飲み物を得るべく部屋を出るとキッチンに向かった。
部屋とキッチンの途中に階段がある。2階に円とキサラさんの部屋がある……らしい。
チラリと2階を眺め……何をしているんだろうか? 二人の部屋はどんなのだろうか? 等と想像しつつそのままキッチンに入ると……。
「──あらあ、ヤッホ~~」
キサラさんがキッチンで一人ワインを傾けていた。
「まだ飲んでるんですか?」
食事の時も相当飲んでいたみたいだけど……。
「うん! ここはねえ、美味しいワインが一杯あるのよ」
彼女は1990chambertinと書かれたボトルのラベルを僕に見せる。
「いや、見せられてもわからないので」
「じゃあ飲んでみる?」
「……未成年ですから」
「ふーーん真面目ね」
グラスにワインを継ぎ足すとクルクルとグラスを回し、虚ろな目でワインを一気に飲み干す。
僕はとりあえずキッチンの冷蔵庫から水のペットボトルを2本取り出し一本をその場で一口飲んだ。
キサラさんは、再びワインをグラスに注ぐと背中を向けたまま僕に聞いてくる。
「天ちゃんはお風呂?」
「あ、はい」
「そか……」
そう言うとよろよろと立ち上がり、扉の方に向かおうとする。
「ど、どちらへ?」
「ん? 天ちゃんお風呂なんでしょ?」
「ええ……いやいや!」
再度フラフラと歩き出すのでさすがに突っ込む。
「何よ兄妹だからあんな可愛い妹と一緒に入ったりしてるんでしょ!」
「入ってねえよ!」
「全く、お風呂も一緒に入れないなんて、だから大浴場のあるホテルが良いって言ったのに!」
キサラさんは諦めたのか? 再びテーブルに戻りワインを注ごうとするが、既に空になっていたので冷蔵庫の横にある黒塗りのワインセーラーから今度はシャンパンを取り出した。
「あははは、ピンドン開けてやろ」
ポンと音を鳴ら派手に蓋を飛ばしてシャンパンを開けると、溢れる泡を気にする事なくグラスに注ぐ。
「まあ……とりあえず……明日から妹の勉強、宜しくお願いします」
「ふふ、貴方も一緒にって提案したら、彼は私が教えますってマドカに却下されちゃった」
「そうなんですか?」
「そうなんですよお~~あの娘が人の為に何かをしようなんて、変わったよねえ」
「──円は優しいですよ」
「ふふふ、今はね」
「昔は違ったんですか?」
「そうね、会った時あの子は誰も信用してなかった、あんな尖った小学生見たこと無かったわね」
「尖った……」
「まあ、あの母親にそっくりだったわ、自分さえ良ければ後はどうでもいいって所がねえ、色々苦労したわよ」
「そうですか……僕の前じゃそんな素振りは全然」
「そりゃそうよ、あの娘は全て捨てたんだから、貴方の為に……自分さえもね」
シャンパンを一気に飲み干すと彼女は僕を睨み付ける。さっきまでの、とろんとした目から一転射るような目で僕を見つめる。
僕は黙って彼女を見つめ返した。
「ふーーん、そんな顔するんだ……ま、マドカがああなるんだから、貴方もただ者じゃないって事かな?」
「そんな事は」
「はああ、少し酔いすぎた、私もお風呂入って寝るわ」
「あ、はい」
「何? 一緒に入りたい? じゃあ天ちゃんと3人で」
「入りませんから」
「ちぇ」
彼女はよろよろと立ち上がると、フラフラしながらキッチンを出ていく。
「一番ただ者じゃないのはあんただろ」
あの目は、全てを見透かしているようなそんな感じがした。
もしかしてわざと酔った振りをしていたのかも知れない。
僕はそう考え、そしてハッとして廊下を飛び出す。
「キサラさんの部屋は2階だよ!」
思った通り階段を通り過ぎ僕達の部屋に向かおうとしていたキサラさん。
僕に声を掛けられ残念そうにテヘペロすると、階段を上がって行った。
その足取りはさっきキッチンから出て行ったそれとは違いしっかりとした足取りだった。
「やっぱりブラフか……」
いたなあ、試合の時調子悪いなんて言いまくっていざ走ると誰よりも速い奴。
そんな事を考えながら、彼女には気を付けなければと……そう確信をして、僕は部屋に戻った。
おかげさまでこの作品が、なんと! なろうコン2次通過しました。
ありがとうございます。
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