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部長  運野 良夫  作者: 犬 文男
6/7

第五話 パンツのカーテン(後編) 

老兵は死なず

かつて風俗店撃退のために、

ヘルスケアセンターの敷地内に

大きな看板を立て、その看板に描いた

トランプのジョーカーのババ魔女。

そのババ魔女の突然の登場に

うろたえる運野たち。

このババ魔女、いったい何者なのか?



<ヘルスケアセンター 事務室>


[ババ魔女] 

 便野ベンノ清美キヨミ、そんなことしたら、

 このババ魔女が、あなたに

 天罰を与えます。

 魔女は、全ての人民に平等なの。

 前回は、ブラウン商事に味方したから、

 今回は、ブラック銀行の味方をするの。

 

[土田花子]

 目には目を、魔女には魔女を!

 ここはひとつ、未来の美魔女、

 土田花子にお任せあれ。


[土山盛男]

 また、はじまったよ〜。

 だったら、二人まとめて

 魔女狩りだな。


[花子]

 ちょっと、土山君!


その隙を突き、

ババ魔女、ほうきの柄先を

花子の喉元に、突きつける。


[ババ魔女]

 動くな!

 これ以上騒ぐと、

 これを、あなたの喉に、突き刺すわよ。


[花子]

 ギィ〜。


その時、突然、運野が、大声で

 

[運野]

 鬼黒のウンコは臭い!


[ババ魔女]

 いや、臭くない!


[運野]

 ババ魔女の正体、見抜いたり。

 黒岩右近、

 そんな、みっともない真似は、

 おやめなさい。


[黒岩]

 しまったー!

 こともあろうに、この私が

 運野の、あのウンコネタごときに

 引っかかってしまうとは、不覚!


黒岩、持っていたほうきを手放す。

ほうきが床に落ちる。

恐怖のあまり、腰を抜かし、

その場に座り込む花子。


[花子]

 わー、助かったぁー。

 マジで、殺されるかと思ったぁ〜。


[黒岩]

 手荒なことをして、悪かった。

 実は、人生で一度でいいから、

 仮装なるものを、してみたかったんだ。

 君たちのお陰で、

 やっと、その夢が叶った。

 礼を言うぞ。

 さらばじゃ。


黒岩、外で待機していた

黒川が運転する車に乗って、逃げる。


[便野清美]

 こともあろうに、

 銀行の偉いお方が、

 あんなことまで、するなんて。

 私、辞めて、本当によかったです。



便野清美のSNS上での暴露により、

「黒のパンツ」の売れ行きは、

急速に悪くなっていった。

そして、ヘルスケアセンターの

新規会員増加数は、

徐々に回復していった。



<ブラック銀行 小会議室>

 

[黒岩]

 売れ残った、「黒のパンツ」の、

 在庫処分の方法を

 検討しないといけない。

 このままだと、倉庫の保管費用も

 かさむ一方だ。


[黒川]

 マスクに作りかえて、

 販売しては、どうでしょうか。

 コロナ禍で、マスクなら

 ハズれることは、ないと思います。


[黒岩]

 いや、それは、ダメだ。

 もとは、パンツだったという

 噂が広まれば、

 たちまち、売れなくなるだろう。


[黒川]

 そうでしょうか?

 一度でも、誰かが履いたものなら

 まだしも、

 たまたま、一度、パンツという形に

 なっただけで、

 最初からマスクとして製造した物と

 なんら、変わらないと思います。


[黒岩]

 君の言うことは正論だ。

 だが、残念ながら、今現在、

 君のような考え方をする人は少ない。

 皆、嫌がって、買わないだろう。


[黒川]

 ???

 

[黒岩]

 まだ、私の言うことが、

 理解できていない様だねぇ。

 そんな人には、なんて説明すれば、

 理解してもらえるのかなあ。

 そうだ、君は、スーパーで

 買い物をしたことがあるかね?


[黒川]

 もちろん、あります。


[黒岩]

 スーパーで買い物する時、

 カゴに、食品といっしょに、

 例えば、トイレ用洗剤を入れると、

 レジで、店員さんが、必ず、

 トイレ用洗剤だけ、

 別の袋に入れてくれるでしょ。

 それと、同じだよ。

 トイレ用洗剤の容器は

 単なるプラスチック製の物であり、

 中の液体が漏れ出している

 わけでもないのにだ。

 わざわざ、別の袋に入れなくても、

 科学的に、衛生上なんの問題も

 ないはずだ。


[黒川]

 確かに、僕も

 そうしてもらったことがあります。

 まあ、私は、それも

 理解できないのですが。


[黒岩]

 まだ、理解していないようだなぁ。


[黒川]

 はい。


黒岩、興奮気味にボルテージを上げて


[黒岩]

 ならば、君は、

 おまるに似た形の容器に盛られた

 カレーを、美味しく食べることが

 できるかぁ〜!

 衛生上は、なんの問題もないぞ!


[黒川]

 わかりました。もう結構です。

 マスクはやめましょう。


[黒岩]

 やっと、わかってくれたようだ。

 では、何か他に、いい案はないかね。


[黒川]

 ならばいっそのこと、被るパンツとして

 販売するのは、どうでしょうか。

 そういう趣味の人、

 けっこういますよね。

 大人のオモチャ店を中心に

 展開していきます。

 パッケージを変えるだけなので、

 費用も安く付きます。

 なんでしたら、

 一度、洗濯してから、販売すれば、

 使用済みの物として、

 プレミアムが付きます。


[黒岩]

 いや、市場が狭すぎて、

 販売は、かなり限定的になるだろう。

 もし、仮に、たくさん売れたとしたら、

 それは、それで、

 日本の将来が心配だ。


[黒川]

 日本の将来?

 お言葉ですが、

 これまで散々、

 詐欺まがいな事をしてきたのに、

 よく、そんな事が言えますねぇ。


[黒岩]

 詐欺まがいな事をして、

 儲けることができるのも、

 ちゃんとした日本の社会が

 あってこそのことだ。


[黒川]

 なるほど。


[黒岩]

 どうやら、いい案は、なさそうだ。

 仕方ない。

 銀行の本店及び支店店舗の

 カーテンに作りかえよう。

 ちょうど、今、交換の時期だ。

 銀行に来て、カーテンを

 しげしげと見る客は、

 そうそういないだろう。

 余ったパンツは、

 福利厚生の一環として、

 行員に無償で、配ることにしよう。



<ブラック銀行 頭取室>


[黒岩]

 この度は、銀行に

 多大なる損失を出してしまい、

 誠に申し訳ございませんでした。

 この責任は、一切、私にあります。

 付きましては、辞表を提出させて

 いただきます。


[鬼黒]

 いや、いや。

 これまでの黒岩さんの功績を考えたら、

 これしきの事は、大した事ではない。

 どうか、考え直してくれないだろうか。


[黒岩]

 いや、失敗した者が、

 なんの処分も受けずに、残っていたら、

 他の行員に、示しがつきません。

 それに私は、

 黒田君の一件がなかったら、

 今、ここにいるはずのない人間です。

 最後の仕事と思って、

 今回の仕事を引き受けましたが、

 こんな失敗をしてしまい、

 本当に申し訳なく思っています。


[鬼黒]

 そうですか。

 残念ですが、辞表を受理します。

 これまで、本当にありがとう

 ございました。


[黒岩]

 こちらこそ。



<ブラウン商事 社長室>


[運野]

 ブラック銀行のナンバー2の

 黒岩副頭取が、退任したそうです。


[土屋敷社長]

 鬼黒の片腕が、ついにいなくなったか。


[運野]

 返済期限まで、あと一ヶ月半。

 ようやく、期限内完済も

 見えてきましたね。


[社長]

 鬼黒のことだ。

 これからも、何をしてくるか

 わかったものではない。

 最後まで、油断は禁物だ。


[運野]

 はい、肝に銘じておきます。


[社長]

 いよいよだなあ。


[運野]

 いよいよですね。


 <第五話 パンツのカーテン編  完>



 

 

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― 新着の感想 ―
[一言] おそらく、フェロー・フェロ助とコラボしていればパンツの在庫はなんとかなっただろう。
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