第五話 パンツのカーテン(後編)
老兵は死なず
かつて風俗店撃退のために、
ヘルスケアセンターの敷地内に
大きな看板を立て、その看板に描いた
トランプのジョーカーのババ魔女。
そのババ魔女の突然の登場に
うろたえる運野たち。
このババ魔女、いったい何者なのか?
<ヘルスケアセンター 事務室>
[ババ魔女]
便野清美、そんなことしたら、
このババ魔女が、あなたに
天罰を与えます。
魔女は、全ての人民に平等なの。
前回は、ブラウン商事に味方したから、
今回は、ブラック銀行の味方をするの。
[土田花子]
目には目を、魔女には魔女を!
ここはひとつ、未来の美魔女、
土田花子にお任せあれ。
[土山盛男]
また、はじまったよ〜。
だったら、二人まとめて
魔女狩りだな。
[花子]
ちょっと、土山君!
その隙を突き、
ババ魔女、ほうきの柄先を
花子の喉元に、突きつける。
[ババ魔女]
動くな!
これ以上騒ぐと、
これを、あなたの喉に、突き刺すわよ。
[花子]
ギィ〜。
その時、突然、運野が、大声で
[運野]
鬼黒のウンコは臭い!
[ババ魔女]
いや、臭くない!
[運野]
ババ魔女の正体、見抜いたり。
黒岩右近、
そんな、みっともない真似は、
おやめなさい。
[黒岩]
しまったー!
こともあろうに、この私が
運野の、あのウンコネタごときに
引っかかってしまうとは、不覚!
黒岩、持っていたほうきを手放す。
ほうきが床に落ちる。
恐怖のあまり、腰を抜かし、
その場に座り込む花子。
[花子]
わー、助かったぁー。
マジで、殺されるかと思ったぁ〜。
[黒岩]
手荒なことをして、悪かった。
実は、人生で一度でいいから、
仮装なるものを、してみたかったんだ。
君たちのお陰で、
やっと、その夢が叶った。
礼を言うぞ。
さらばじゃ。
黒岩、外で待機していた
黒川が運転する車に乗って、逃げる。
[便野清美]
こともあろうに、
銀行の偉いお方が、
あんなことまで、するなんて。
私、辞めて、本当によかったです。
便野清美のSNS上での暴露により、
「黒のパンツ」の売れ行きは、
急速に悪くなっていった。
そして、ヘルスケアセンターの
新規会員増加数は、
徐々に回復していった。
<ブラック銀行 小会議室>
[黒岩]
売れ残った、「黒のパンツ」の、
在庫処分の方法を
検討しないといけない。
このままだと、倉庫の保管費用も
かさむ一方だ。
[黒川]
マスクに作りかえて、
販売しては、どうでしょうか。
コロナ禍で、マスクなら
ハズれることは、ないと思います。
[黒岩]
いや、それは、ダメだ。
もとは、パンツだったという
噂が広まれば、
たちまち、売れなくなるだろう。
[黒川]
そうでしょうか?
一度でも、誰かが履いたものなら
まだしも、
たまたま、一度、パンツという形に
なっただけで、
最初からマスクとして製造した物と
なんら、変わらないと思います。
[黒岩]
君の言うことは正論だ。
だが、残念ながら、今現在、
君のような考え方をする人は少ない。
皆、嫌がって、買わないだろう。
[黒川]
???
[黒岩]
まだ、私の言うことが、
理解できていない様だねぇ。
そんな人には、なんて説明すれば、
理解してもらえるのかなあ。
そうだ、君は、スーパーで
買い物をしたことがあるかね?
[黒川]
もちろん、あります。
[黒岩]
スーパーで買い物する時、
カゴに、食品といっしょに、
例えば、トイレ用洗剤を入れると、
レジで、店員さんが、必ず、
トイレ用洗剤だけ、
別の袋に入れてくれるでしょ。
それと、同じだよ。
トイレ用洗剤の容器は
単なるプラスチック製の物であり、
中の液体が漏れ出している
わけでもないのにだ。
わざわざ、別の袋に入れなくても、
科学的に、衛生上なんの問題も
ないはずだ。
[黒川]
確かに、僕も
そうしてもらったことがあります。
まあ、私は、それも
理解できないのですが。
[黒岩]
まだ、理解していないようだなぁ。
[黒川]
はい。
黒岩、興奮気味にボルテージを上げて
[黒岩]
ならば、君は、
おまるに似た形の容器に盛られた
カレーを、美味しく食べることが
できるかぁ〜!
衛生上は、なんの問題もないぞ!
[黒川]
わかりました。もう結構です。
マスクはやめましょう。
[黒岩]
やっと、わかってくれたようだ。
では、何か他に、いい案はないかね。
[黒川]
ならばいっそのこと、被るパンツとして
販売するのは、どうでしょうか。
そういう趣味の人、
けっこういますよね。
大人のオモチャ店を中心に
展開していきます。
パッケージを変えるだけなので、
費用も安く付きます。
なんでしたら、
一度、洗濯してから、販売すれば、
使用済みの物として、
プレミアムが付きます。
[黒岩]
いや、市場が狭すぎて、
販売は、かなり限定的になるだろう。
もし、仮に、たくさん売れたとしたら、
それは、それで、
日本の将来が心配だ。
[黒川]
日本の将来?
お言葉ですが、
これまで散々、
詐欺まがいな事をしてきたのに、
よく、そんな事が言えますねぇ。
[黒岩]
詐欺まがいな事をして、
儲けることができるのも、
ちゃんとした日本の社会が
あってこそのことだ。
[黒川]
なるほど。
[黒岩]
どうやら、いい案は、なさそうだ。
仕方ない。
銀行の本店及び支店店舗の
カーテンに作りかえよう。
ちょうど、今、交換の時期だ。
銀行に来て、カーテンを
しげしげと見る客は、
そうそういないだろう。
余ったパンツは、
福利厚生の一環として、
行員に無償で、配ることにしよう。
<ブラック銀行 頭取室>
[黒岩]
この度は、銀行に
多大なる損失を出してしまい、
誠に申し訳ございませんでした。
この責任は、一切、私にあります。
付きましては、辞表を提出させて
いただきます。
[鬼黒]
いや、いや。
これまでの黒岩さんの功績を考えたら、
これしきの事は、大した事ではない。
どうか、考え直してくれないだろうか。
[黒岩]
いや、失敗した者が、
なんの処分も受けずに、残っていたら、
他の行員に、示しがつきません。
それに私は、
黒田君の一件がなかったら、
今、ここにいるはずのない人間です。
最後の仕事と思って、
今回の仕事を引き受けましたが、
こんな失敗をしてしまい、
本当に申し訳なく思っています。
[鬼黒]
そうですか。
残念ですが、辞表を受理します。
これまで、本当にありがとう
ございました。
[黒岩]
こちらこそ。
<ブラウン商事 社長室>
[運野]
ブラック銀行のナンバー2の
黒岩副頭取が、退任したそうです。
[土屋敷社長]
鬼黒の片腕が、ついにいなくなったか。
[運野]
返済期限まで、あと一ヶ月半。
ようやく、期限内完済も
見えてきましたね。
[社長]
鬼黒のことだ。
これからも、何をしてくるか
わかったものではない。
最後まで、油断は禁物だ。
[運野]
はい、肝に銘じておきます。
[社長]
いよいよだなあ。
[運野]
いよいよですね。
<第五話 パンツのカーテン編 完>




