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部長  運野 良夫  作者: 犬 文男
5/7

第五話 パンツのカーテン(前編)

鬼のパンツは、いいパンツ?

風俗店作戦に失敗したブラック銀行は、

ブラック銀行ナンバー2の

副頭取、黒岩右近を中心に

新たな策略を企てる。



<ブラック銀行 小会議室>


[黒岩]

 今度、履くだけで便秘が改善する

 パンツを販売する。

 

[黒川]

 そんなもの、いつの間に

 開発されたんですか。

 本当に、効果はあるんですか?


[黒岩]

 効果はない。ただのパンツだ。


[黒川]

 消費者を騙すんですか。

 詐欺ですよね。

 マズイんじゃないですか。


[黒岩]

 法律で、効用をうたうことは

 禁止されている。

 効用をうたっていないので、

 詐欺にはならない。

 ブラウン商事の借入金返済期限

 残り三ヶ月の間だけ、

 売れれば、よいのだ。

 とりあえず効果は、履き始めてから

 三ヶ月後に現れるということに

 すれば、いいだろう。


[黒川]

 三ヶ月後に、クレームが殺到しますよ。


[黒岩]

 テキトーに、謝っておけばよい。

 そうだ。我が銀行の配下に下る

 ブラウン商事の連中に

 クレーム対応及び謝罪をやらせよう。

 彼らにやらせる最初の仕事としては、

 最も相応しい仕事だ。


[黒川]

 しかし、我が銀行の信用に

 影響するんじゃないですかねぇ。


[黒岩]

 なにを言っているんだ。

 君たち、若い者は

 知らないかもしれないが、

 我がブラック銀行は

 創業当時からこれまで、

 鬼黒さんと私が中心になって、

 散々、詐欺まがいなことをして、

 ここまで、のし上がってきたんだ。

 この程度のことは、

 我がブラック銀行にとっては、

 屁でもないことだ。

 とにかく、君には

 協力してもらうよ。


[黒川]

 かしこまりました。


[黒岩]

 さて、商品名をどうするかだ。


[黒川]

 そうですねぇ〜。

 「履いて、ボットリ、サッパリ

  黒のパンツ」

 なんて、どうですか。


[黒岩]

 ボットリはマズイだろう。

 消費者庁から、クレームがくる。


[黒川]

 それでは、

 「履いて、スッキリ、サッパリ

  黒のパンツ」

 は、どうですか。


[黒岩]

 ちょっと、

 便秘との結びつきが弱いかなあ。


[黒川]

 う〜ん、ならば

 「朝履いて、スッキリ、サッパリ

  黒のパンツ」

 は、どうでしょう。


[黒岩]

 そうだなあ。これが限界だなあ。

 よし、これでいこう。



こうして「黒のパンツ」は、

ブラック銀行の子会社を通して発売され、

黒川のSNS上の広告戦略が功を成し、

順調に売上を伸ばしていった。

その影響を受け、  

ヘルスケアセンターの新規入会者数は、

減少していった。



<ヘルスケアセンター 事務室>


[運野]

 マズイ、このままだと

 借入金期限内全額返済が、

 できなくなる。


[土山盛男]

 「黒のパンツ」のせいですね。

 

[土田花子]

 なんで、そんなに売れてるの?

 効果あるの?


[土山]

 広告では、効果は、約三ヶ月後に

 現れると、うたっていますから。

 SNS上のモニターの体験談も

 売上増加の一因になっている様です。


花子、スマホを見ながら、


[花子]

 本当に、たくさんのモニターの

 体験談が載っている。

 試供品を三ヶ月前から履いて

 今、効果が出ている様なこと

 みんな、書いてあるけど、本当かしら。

 これ、みんな、サクラでしょう?

 

[運野]

 多分、そうだろう。

 でも、証拠がないとねえ。


[花子]

 あれっ、このモニター、

 私の高校時代の同級生の

 便野清美ベンノキヨミちゃんじゃない。

 彼女は、元ブラック銀行の行員で、

 最近、結婚を機に、退職したと

 聞いています。


[土山]

 元ブラック銀行の行員なら

 当然、協力するでしょうね。

 

[花子]

 私、彼女に本当のことを話す様、

 説得してみます。


[土山]

 大丈夫かあ?


[運野]

 うまくいくかなあ。


[花子]

 任せて下さい。自信はあります。


[運野]

 彼女の、住所、わかる?


[花子]

 何人かの友人に、あたってみれば、

 わかると思います。


[運野]

 じゃあ、よろしく頼むよ。



幸い、便野清美の住まいは、

ヘルスケアセンターから、

徒歩5分程のところであった。

花子は、意気揚々と、

便野宅へと向かった。



<便野清美 宅>


[花子]

 久しぶり、清美ちゃん、元気?

 ちょっと近くを通ったから、

 寄ってみたの。


[清美]

 あら、花子ちゃん。久しぶり。

 何年ぶりかしら。変わってないわね。

 今、お茶いれるから。


[花子]

 私、今、この近くの

 ヘルスケアセンターで、働いているの。


[清美]

 もしかして、「黒のパンツ」

 のモニターの件で、来たの?

 だったら、何も話すことはないわ。


[花子]

 お願いだから、

 本当のことを話してちょうだい。


[清美]

 お断りします。


その時、突然、

ブー。

清美、屁をこく。


[清美]

 失礼。

 

[花子]

 うわぁ〜、臭〜い。

 あなた、かなり長いこと

 排便していないでしょう。


[清美]

 そんなこと、ないわよ。

 臭いのは、きっと、

 昨日、食べたものが悪かったからよ。


再び、ブー。

その後、繰り返し、屁をする清美。


[清美]

 どうしちゃったのかしら。

 オナラが、シャックリみたいに

 止まらなくなっちゃった。


[花子]

 臭〜い。鼻がもげる〜ぅ。

 誰か助けてぇ〜。


まだ、屁は止まらない。


[花子]

 もう、我慢できない。

 今日は、帰ります。


花子、鼻をつまみながら、玄関へと向かう。


[清美]

 お役に立てなくて、ごめんね。


[花子]

 まさか、こんな展開になるなんて。

 せっかく、色々と、

 説得する文句、考えてきたのに。

 帰って、部長に

 なんて報告すればいいの。


花子が帰りかけた、その時

 

[清美]

 うぅ〜、苦しい。


清美、床に倒れ込む。

花子、清美のところへ

なんとか、駆けつける。


[花子]

 清美ちゃん、大丈夫?


花子、清美の脇腹を触り、


[花子]

 うわっ、めちゃ硬い。

 以前の玉子さんと同じ症状だわ。

 今すぐ、ヘルスケアセンターに

 連れていかないと。


花子、鼻をつまみながら、スマホで、

ヘルスケアセンターへ、電話する。


[花子]

 あっ、土山君、

 清美ちゃんが、大変なの。

 彼女をヘルスケアセンターに

 連れていきたいから、

 今すぐ、車で、迎えにきて。


[土山]

 なんか、声、変だけど、

 本当に、土田だよねぇ。


[花子]

 鼻をつまんで話してるからよ。

 それと、できれば、念のため、

 高性能のマスクをしてきて。

 訳は、あとで話すから。


[土山]

 了解、すぐ行くよ。

 (いったい、何が起こったんだ?

  ガス漏れ事故でもあったのかなあ)


土山は、花子の連絡を受け、

無事、二人を救出?した。

その後、ヘルスケアセンターで、

新たに導入された機器から出る

光線を、清美の脇腹に当てながら、

花子の手もみを行なった結果、

清美の症状は、改善した。



<ヘルスケアセンター 事務室>


[清美]

 ありがとうございました。

 お陰で助かりました。


[運野]

 治って、よかったですね。


[清美]

 花子ちゃん、臭い思いをさせて

 本当に、ごめんなさい。


[花子]

 死ぬかと思ったわ。

 でも、もう大丈夫。気にしないで。


[清美]

 ありがとう。

 実は、夫はブラック銀行の行員です。

 それで、ブラック銀行に

 協力せざるを得なかったんです。


[花子]

 そうだったんだ。

 それじゃ、仕方がないわよね。

 断ったら、旦那さんが辛い目に

 あっちゃうもんね。


[清美]

 でも、今日、

 便秘を治していただいたお礼に

 本当のことを、SNS上で暴露します。


[運野]

 旦那さんのことは、大丈夫ですか?


[清美]

 夫も賛成してくれるはずです。

 実は、夫も私も、あのブラック銀行の

 儲けるためなら手段を選ばない

 やり方に、ウンザリしていたんです。

 夫には、場合によっては

 転職を勧めたいと思っています。


[運野]

 そうですか。

 では、ご協力、よろしくお願いします。


その時、突然


[ババ魔女]

 そうは、イカのキャン玉よ。


[運野]

 うちの看板の

 ババ魔女が現れた!


      (後編につづく)


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