第五話 パンツのカーテン(前編)
鬼のパンツは、いいパンツ?
風俗店作戦に失敗したブラック銀行は、
ブラック銀行ナンバー2の
副頭取、黒岩右近を中心に
新たな策略を企てる。
<ブラック銀行 小会議室>
[黒岩]
今度、履くだけで便秘が改善する
パンツを販売する。
[黒川]
そんなもの、いつの間に
開発されたんですか。
本当に、効果はあるんですか?
[黒岩]
効果はない。ただのパンツだ。
[黒川]
消費者を騙すんですか。
詐欺ですよね。
マズイんじゃないですか。
[黒岩]
法律で、効用をうたうことは
禁止されている。
効用をうたっていないので、
詐欺にはならない。
ブラウン商事の借入金返済期限
残り三ヶ月の間だけ、
売れれば、よいのだ。
とりあえず効果は、履き始めてから
三ヶ月後に現れるということに
すれば、いいだろう。
[黒川]
三ヶ月後に、クレームが殺到しますよ。
[黒岩]
テキトーに、謝っておけばよい。
そうだ。我が銀行の配下に下る
ブラウン商事の連中に
クレーム対応及び謝罪をやらせよう。
彼らにやらせる最初の仕事としては、
最も相応しい仕事だ。
[黒川]
しかし、我が銀行の信用に
影響するんじゃないですかねぇ。
[黒岩]
なにを言っているんだ。
君たち、若い者は
知らないかもしれないが、
我がブラック銀行は
創業当時からこれまで、
鬼黒さんと私が中心になって、
散々、詐欺まがいなことをして、
ここまで、のし上がってきたんだ。
この程度のことは、
我がブラック銀行にとっては、
屁でもないことだ。
とにかく、君には
協力してもらうよ。
[黒川]
かしこまりました。
[黒岩]
さて、商品名をどうするかだ。
[黒川]
そうですねぇ〜。
「履いて、ボットリ、サッパリ
黒のパンツ」
なんて、どうですか。
[黒岩]
ボットリはマズイだろう。
消費者庁から、クレームがくる。
[黒川]
それでは、
「履いて、スッキリ、サッパリ
黒のパンツ」
は、どうですか。
[黒岩]
ちょっと、
便秘との結びつきが弱いかなあ。
[黒川]
う〜ん、ならば
「朝履いて、スッキリ、サッパリ
黒のパンツ」
は、どうでしょう。
[黒岩]
そうだなあ。これが限界だなあ。
よし、これでいこう。
こうして「黒のパンツ」は、
ブラック銀行の子会社を通して発売され、
黒川のSNS上の広告戦略が功を成し、
順調に売上を伸ばしていった。
その影響を受け、
ヘルスケアセンターの新規入会者数は、
減少していった。
<ヘルスケアセンター 事務室>
[運野]
マズイ、このままだと
借入金期限内全額返済が、
できなくなる。
[土山盛男]
「黒のパンツ」のせいですね。
[土田花子]
なんで、そんなに売れてるの?
効果あるの?
[土山]
広告では、効果は、約三ヶ月後に
現れると、うたっていますから。
SNS上のモニターの体験談も
売上増加の一因になっている様です。
花子、スマホを見ながら、
[花子]
本当に、たくさんのモニターの
体験談が載っている。
試供品を三ヶ月前から履いて
今、効果が出ている様なこと
みんな、書いてあるけど、本当かしら。
これ、みんな、サクラでしょう?
[運野]
多分、そうだろう。
でも、証拠がないとねえ。
[花子]
あれっ、このモニター、
私の高校時代の同級生の
便野清美ちゃんじゃない。
彼女は、元ブラック銀行の行員で、
最近、結婚を機に、退職したと
聞いています。
[土山]
元ブラック銀行の行員なら
当然、協力するでしょうね。
[花子]
私、彼女に本当のことを話す様、
説得してみます。
[土山]
大丈夫かあ?
[運野]
うまくいくかなあ。
[花子]
任せて下さい。自信はあります。
[運野]
彼女の、住所、わかる?
[花子]
何人かの友人に、あたってみれば、
わかると思います。
[運野]
じゃあ、よろしく頼むよ。
幸い、便野清美の住まいは、
ヘルスケアセンターから、
徒歩5分程のところであった。
花子は、意気揚々と、
便野宅へと向かった。
<便野清美 宅>
[花子]
久しぶり、清美ちゃん、元気?
ちょっと近くを通ったから、
寄ってみたの。
[清美]
あら、花子ちゃん。久しぶり。
何年ぶりかしら。変わってないわね。
今、お茶いれるから。
[花子]
私、今、この近くの
ヘルスケアセンターで、働いているの。
[清美]
もしかして、「黒のパンツ」
のモニターの件で、来たの?
だったら、何も話すことはないわ。
[花子]
お願いだから、
本当のことを話してちょうだい。
[清美]
お断りします。
その時、突然、
ブー。
清美、屁をこく。
[清美]
失礼。
[花子]
うわぁ〜、臭〜い。
あなた、かなり長いこと
排便していないでしょう。
[清美]
そんなこと、ないわよ。
臭いのは、きっと、
昨日、食べたものが悪かったからよ。
再び、ブー。
その後、繰り返し、屁をする清美。
[清美]
どうしちゃったのかしら。
オナラが、シャックリみたいに
止まらなくなっちゃった。
[花子]
臭〜い。鼻がもげる〜ぅ。
誰か助けてぇ〜。
まだ、屁は止まらない。
[花子]
もう、我慢できない。
今日は、帰ります。
花子、鼻をつまみながら、玄関へと向かう。
[清美]
お役に立てなくて、ごめんね。
[花子]
まさか、こんな展開になるなんて。
せっかく、色々と、
説得する文句、考えてきたのに。
帰って、部長に
なんて報告すればいいの。
花子が帰りかけた、その時
[清美]
うぅ〜、苦しい。
清美、床に倒れ込む。
花子、清美のところへ
なんとか、駆けつける。
[花子]
清美ちゃん、大丈夫?
花子、清美の脇腹を触り、
[花子]
うわっ、めちゃ硬い。
以前の玉子さんと同じ症状だわ。
今すぐ、ヘルスケアセンターに
連れていかないと。
花子、鼻をつまみながら、スマホで、
ヘルスケアセンターへ、電話する。
[花子]
あっ、土山君、
清美ちゃんが、大変なの。
彼女をヘルスケアセンターに
連れていきたいから、
今すぐ、車で、迎えにきて。
[土山]
なんか、声、変だけど、
本当に、土田だよねぇ。
[花子]
鼻をつまんで話してるからよ。
それと、できれば、念のため、
高性能のマスクをしてきて。
訳は、あとで話すから。
[土山]
了解、すぐ行くよ。
(いったい、何が起こったんだ?
ガス漏れ事故でもあったのかなあ)
土山は、花子の連絡を受け、
無事、二人を救出?した。
その後、ヘルスケアセンターで、
新たに導入された機器から出る
光線を、清美の脇腹に当てながら、
花子の手もみを行なった結果、
清美の症状は、改善した。
<ヘルスケアセンター 事務室>
[清美]
ありがとうございました。
お陰で助かりました。
[運野]
治って、よかったですね。
[清美]
花子ちゃん、臭い思いをさせて
本当に、ごめんなさい。
[花子]
死ぬかと思ったわ。
でも、もう大丈夫。気にしないで。
[清美]
ありがとう。
実は、夫はブラック銀行の行員です。
それで、ブラック銀行に
協力せざるを得なかったんです。
[花子]
そうだったんだ。
それじゃ、仕方がないわよね。
断ったら、旦那さんが辛い目に
あっちゃうもんね。
[清美]
でも、今日、
便秘を治していただいたお礼に
本当のことを、SNS上で暴露します。
[運野]
旦那さんのことは、大丈夫ですか?
[清美]
夫も賛成してくれるはずです。
実は、夫も私も、あのブラック銀行の
儲けるためなら手段を選ばない
やり方に、ウンザリしていたんです。
夫には、場合によっては
転職を勧めたいと思っています。
[運野]
そうですか。
では、ご協力、よろしくお願いします。
その時、突然
[ババ魔女]
そうは、イカのキャン玉よ。
[運野]
うちの看板の
ババ魔女が現れた!
(後編につづく)




