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つなガール! NEXT  作者: 松竹梅竹松
第4章 間違いの続き
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第4章 第23話 腕

〇梨々花


 自分の力の全てを引き出せる代わりに、甚大な体力の消耗も引き起こしてしまう過集中。これのコントロールをするための修行も二日目に入った。


 修行と言ってもあまり辛いものではない。ただ監督者用の部屋で身体をゆっくり動かし、自分がリラックスできる行動、つまりルーティーンを見つけるというものだ。


 これを試合中に行うことで過集中を解除することができる可能性があるとのことだが、これが中々難しい。


 まずリラックスできる行動なんて一日かけても見つからない。これは、というものもあったけど、ラリー中でもできるようなものじゃないと意味がない。


 一応試合の録画を観せてもらい、サーブの際には数度ボールを突き、手元で回転させるというルーティーンをやってたけど、完全に無意識。確か似たようなルーティーンをやっていたサーブの名手をテレビで観たことがあったから、その人の真似をしてたのかな?

でもこれを意識的にやらなきゃいけないんだ。意識的に、なおかつ無意識的にできるようにならないととてもじゃないけど試合中には使えない。


 慣れない動きをしたせいで左腕が痛くなっちゃったし、汗もかいてないのに下手したら普段の練習よりもしんどいかもしれない。

そんな体操を朝から数時間ぶっ続けで行っていると、突然部屋の扉が勢いよく開かれた。


「梨々花せーんぱいっ! 一緒にごはん食べましょーっ!」


 現れたのはわたしにひどく懐き、依存しているかわいい後輩、環奈ちゃん。両手にはソフトクリームがあり、脚を大きく上げた体勢から、扉を蹴飛ばして開けたことがわかった。


「だめだよ、他校の施設なんだから」

「えー、いいじゃないですかーあたしの母校でもあるんだしー。それに! もう帰っちゃったと思った梨々花先輩がここにいるって聞いてテンション爆上げだったんですもんっ! しょうがないですよっ!」

 そういえば環奈ちゃんと話すのは初日以来だったっけ。じゃあわたし依存症の環奈ちゃんからしたらこうなってしまうのも無理はないか。


「誰に聞いたの? 小内さん?」

「あの生意気な中学生! えーと、たか……み? さんです! いやー、ただのクソ生意気なガキかと思ってたんですけど! 意外といい子ですねっ!」

 とりあえず座布団を二つ用意し、開けっ放しの扉を閉める。こんな元気な環奈ちゃんを紗茎の三年が見たら手を抜いてるって思われちゃうかもしれないし。


「それで、なんでソフトクリーム? ごはんじゃなかったっけ?」

「紗茎の食堂で一番おいしいのがこれなんです! 梨々花先輩にはおいしいものを食べてもらいたくて、買ってきちゃいましたっ!」

「ありがと。あとでお金払うね」

「いえいえいいんですいいんです! 梨々花先輩の顔が見れたのでプライスレスですっ!」

「わたしが先輩なんだから受け取ってね」


 座布団に座り、ひさしぶりにケータイを見てみる。もうお昼か……だとしたらあの長時間の試合を一つこなしたはず。なのになんでこんな元気なんだこの子……。


「試合はどうだった?」

「もー、聞かないでくださいよー! 梨々花先輩がいなくてつまらなかったです!」

「いやそういうことじゃなくてね……」

 なんだろう、さすがにテンションがうざすぎる。


「んー。あ、きららがかわいそうでしたよ。たぶんあの中学生がきららを潰そうとしてます」

 えげつないことを言いながら、笑顔でバニラのソフトクリームを渡してくる環奈ちゃん。別にきららちゃんのことをどうでもいいと思ってるんじゃなくて、わたしと話すことに意識が向いてるって感じか。


「あ、潰すって言っても期待の裏返しって感じですね。まーきららも春高予選が終わってから胡桃さんのやり方に傾倒しすぎだったしいいんじゃないですかね。織華派ってわけじゃないですけど、結局スパイカーからしたら止める気のないブロックなんて怖くないんで」

 チョコ味のソフトクリームを舐め、環奈ちゃんがずいぶん冷静な感じで語る。改めて思ったけど、強豪校出身なだけあってバレーの知識が凄い。なんでリベロなのにスパイカーの気持ちがわかるんだ。


「そんなことより」


 わたしもソフトクリームに口をつけると、今までとはまた違った視線がわたしを見ていることに気づいた。


「左腕、もしかして痛めてます?」

「!」


 なんで、ばれた? ソフトクリーム持ってる方右手なんだけど。


「ちょっといつもと動き方が違うっていうか……なんか梨々花先輩気にしてますよね」

 いつもと違うって……別にそんなに痛いわけじゃない。だから異変があったとしてもわたし自身でも気づかないレベルのはずなのに。普通わかるわけないのに。


 ――気持ち悪い。


「あたし保健室行ってきますね! 湿布もらってきて……いや一緒に行った方が……」

「大丈夫だよ、環奈ちゃん」

 ソフトクリームを放らんばかりにばたばたと立ち上がった環奈ちゃんを制止させる。


「それよりバレーのこと教えてよ。みんな過集中はどうしてる?」

「あたしは特に気にしてません」


「他のみんなは?」

 環奈ちゃんの『浸透』の場合はほとんど発現しないらしいからいいけど、流火ちゃんと織華ちゃんの過集中は試合が長引けば自動的に発動する。115点マッチならまず出るだろうし、過集中を教えてもらってからどうしてるのか気になる。


「みんなみんなって……」


 環奈ちゃんの苦しそうな声が聞こえた次の瞬間。


 わたしの身体は押し倒されていた。


 そして、


「ねぇ……梨々花先輩……。いけないこと、しませんか?」


 わたしのソフトクリームを一舐めし、環奈ちゃんの瞳が潤んだ。

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