第十六章16-22集う力
おっさんが異世界に転生して美少女になっちゃうお話です。
異世界で力強く生き抜くためにいろいろと頑張っていくお話です。
なにあれ!
おっきいいっ!!(マリア談)
16-22集う力
「あ、あれは‥‥‥」
師匠がはるか彼方にそびえ立つ人型に気付いた。
「くっそうぅ! ありゃぁ間違いなく『狂気の巨人』だ!! まだ拘束の鎖で動けないがどんどんと怒りと憎しみを吸収し始めているぞ! あのままじゃ直ぐに回復が始まっちまう! おいエルハイミ! お前の魔力があれば再封印が間にあう! とっととこいつら始末して手を貸せ! 今ならやつも弱っているはずだ!!」
身ずらも極大魔法を放ちながらご先祖様があたしのすぐそばまで戻ってくる。
「道理で。私の見た時よかなり小さくなっています。あれならお母様のお力で倒せるやもしれません!」
コクも一旦下がりあたしのそばまで来る。
そうすると今ならまだ「狂気の巨人」がんなとかなるって事!?
「やらせないわ! お前たちエルハイミさんよ! 彼女さえいなくなればすべてが終わる! やりなさい!!」
イパネマの号令に今まで各個にうごめいていた融合魔怪人や巨人たちが一斉にあたしに向かって殺到し始めた。
『エルハイミ! やらせません!! ガレント流剣技九の型、九頭閃光!!』
『やっちゃえティアナぁ!!』
それでもティアナの初号機が!
「来るなぁっ! 風の精霊王よ、あたしに力を!!」
シェルの精霊魔法が!
「畜生! ユリシアの娘に手は出させねーぞ!!」
英雄たちが!
「陣形崩すな! エルハイミ殿を守れ!!」
集まったみんなが!
「まだまだ来るぞ! 守りの手を緩めるな! おいこら、お前らは引っ込んでろ!!」
ゴエムでさえ魔法を振るって!
「正妻!」
「エルハイミさん!!」
セレやミアムも!
『頑張りなさいよ、エルハイミ』
そしていなくなったはずのシコちゃんの声までも!!
あたしはまだまだやって来る融合魔怪人たちを見る。
こうなったら!
「アイミ! こちらに来てくださいですわ! みんな、四連型フルバーストしますわ!! ティアナ、ショーゴさんはこちらに戻ってくださいですわ! ミグロさん、シェル魔装具一旦使えなくなりますわ!!」
あたしは叫び戻って来たアイミの背に両手をつき四連型魔結晶石核に魔力を流し込み始める。
「行きますわ! 四連型フルバースト!! 全ての魔結晶石核よ我が支配下に!!」
ぴこっ!
一気にその活動をフルドライブし始めたアイミの中に有る四連型魔結晶石核が共鳴を始めた!!
とたんにアイミを中心にこの空間に緑色のきらめく光が放たれ包み込んでゆく。
ぶわっ!!
「なっ! なんなのこれっ!?」
驚くイパネマを他所に緑色のきらめく光に包まれた広大な空間はそこにいる魔晶石核を持つ者たちに影響を放ち始める。
それは上位精霊による支配。
魔晶石核には下級精霊が封じ込められていて彼らは上級精霊には絶対服従。
四連型には上級精霊が封じ込められていて現存する魔晶石核の下級精霊たちは抗う事が出来ない。
『我が名はエルハイミ、我が声を聴き我が声に従え! 全ての魔晶石核よその活動を待機させよ! 自己維持以外にその動きを止めよ!!』
きぃぃいいいいいぃぃぃぃぃん!!
甲高い音が鳴りこの場にいるすべての融合魔怪人たちがその動きを止める。
『エルハイミ!』
『うわぁっ! 動かなくなっちゃったよ、エルハイミ!』
「ぐっ、体が」
「なんだ、急に鎧が!?」
ティアナの初号機が近くに降りて来てその動きを停止する。
ショーゴさんも最低限の活動まで双備型がその動きを押しとどめるから体を動かすのも大変だろう。
ミグロさんたちも魔装具がただの鎧と武器になってしまって絶大な効果が失われる。
しかしその分魔晶石核を内蔵している融合魔怪人たちもその動きを止める。
「どう言う事!? お前たち、何をやっているの!?」
『無理ですわ。今その体に魔晶石核を持つ者は全て私の支配下ですわ。イパネマ、もうあなたに従う融合魔怪人たちは使い物になりませんわ』
「声が直接頭の中に聞こえる? エルハイミさん! 何をしたの!!」
『これは四連型魔結晶核の真の力。全ての精霊たちはこの共鳴効果の前では従順なる僕と化すのですわ!』
あたしは共鳴効果でつながる意思の中でイパネマにそう告げる。
「そんな! くっ! 完璧な計画にならないとは!! しかしこの優しさが世界をダメにしたのよ! 偽善に騙されあなたはウジ虫共の傀儡になりその力無駄にしているのよ! それが分からないの!?」
『だから世界に希望の光を見せなければいけないのですわ!』
流石にこれだけの広範囲、今のあたしでもそんなに長くは続けられない!
あたしは早々に片付ける為に一気に魔力を注ぎ込む。
『これで終わりですわ!』
あたしが四連型に更に魔力を込めるとその光は更に強くなり広がっていく。
「くぅあぁぁあああああぁぁぁっ!!」
イパネマも更に強くなるその光に飲み込まれていく。
* * *
小さな村だった。
そこはとても貧しく明日の糧を得るのでさえ難しい、そんな貧困の激しい村だった。
「お姉ちゃん、お腹すいたよぉ‥‥‥」
「お姉ちゃん‥‥‥」
これは?
あたしはどうやらイパネマの記憶を見ている様だ。
「あなたたち、これを飲んで我慢して」
そう言ってイパネマは妹や弟たちに小麦をすりつぶした白湯の様なスープを飲ませる。
父親や母親はとっくに他界している。
イパネマは長女として妹や弟たちの面倒を見ている。
ばんっ!
しかしそこへいきなり扉が蹴り破られ領主の下男たちが乗り込んでくる。
「おらぁ! いい加減に税を払わねぇか!!」
「ま、待ってください! 私たちにはお金も何も無いのです。どうか、どうかお許しを!!」
「んぁあだとぉ!? ふざけるな! 金が無いならそこのガキを寄こせ! 好い値で売ってやらぁ! げへへへへへへっ!」
「お姉ちゃん!」
「待ってください! 妹たちには手を出さないで!!」
「まあまて、よくよく見ればなかなかの女じゃないか? おい、おまえ屋敷で働かないか?」
最後に入って来た横柄が服を着たような人物が扉に立っていた。
ねっとりと絡み付くような視線をイパネマに向ける。
この時イパネマはようやく成人したばかりだった。
「……い、妹たちには手を出さないのですね?」
「ああ、お前の心がけ次第でこいつらには飯も与えよう、どうだ? げっへっへっへっへっ」
そこへ一人の若者が飛び込んでくる。
「イパネマ! ベリル様! これは一体どう言う事です!?」
「なんだて、えめぇっ!」
飛び込んできた若者はイパネマの恋人、名をザックと言う。
「ザック! 来ちゃダメ!!」
「ん? お前の所もまだ税を払っていなかったな? おいっ!」
「へいっ! お任せ下せえぇ! おらてめぇ! ベリル様が直々に見回りに来ていらっしゃるんだ! とっとと払う物払えよ!!」
どかっ!
下男に足蹴にされるザック。
「ザック!!」
「ほう、お前の好い男か? 面白い、お前が色よい返事をしなければ税を払わぬこいつも強制労働送りだ!!」
「ザック!! ぅぅうっ、わ、分かりました。だからザックや妹たちには‥‥‥」
「げへっへっへっへっへっ、良いだろう、着いてこい」
そう言ってそのガマガエルの様な男は踵を返して去ってゆく。
イパネマは悔しそうにそれでもそいつについて行く。
「イパネマ! だめだ!! 行くなぁッ!!」
「うるせー! 黙れ!!」
ばきっ!
「お姉ちゃん!!」
ザックは殴られ地面に転がされる。
妹や弟たちもただ泣くしか出来ない。
イパネマはこの家を出る時に誰にと向かう訳でもなくつぶやく。
「ごめんなさい‥‥‥ でも、これしか‥‥‥」
* * *
「どう言う事だ!?」
領主のベリルは慌てふためいている。
イパネマはうつろな目をしてその騒動を裸のままベッドから見ている。
「な、何者かが侵入しています! 反乱も起こっています!! いま国に助けを呼んでいます!!」
執事らしき者がそう報告をする。
「ええぇぃ! まさか村の者か!? 儂も行くぞ!!」
そう言って扉を開けたまま出て行ってしまった。
長らくこの部屋で慰み者になっていたイパネマは裸のままふらふらと部屋を出る。
そいて窓の外を見ると既に屋敷にも火が放たれ村の者と見た事のない者たちが一緒に護衛の者たちを葬っていた。
イパネマは何かに引かれるかのようにふらふらと歩いていく。
「まさかイパネマか!?」
いきなりかけられた声にイパネマは驚きふり返る。
「ザック!? いやっ! 見ないで!! 汚れた私を見ないでぇ!!」
自分が裸のままで汚い体液に汚されたままの姿に思わずその場に座り込む。
しかしザックは慌てて駆け寄る。
だが!
「貴様らかぁっ! この謀反者めっ!!」
どすっ!
イパネマに駆け付けようとしたザックの背中に領主ベリルの剣が突き刺さる。
ザックはイパネマに手を伸ばしたままその場に倒れ動かなくなってしまった。
「ザック!? う……そ‥‥‥ いあやぁっ! ザッぁクぅぅぅっ!!」
「こいつめ、お前が手引きしたのか!? やはりお前らは油断ならん。くそ、お前の妹や弟も下男どもに預けたというのに!!」
「えっ?」
「げっへっへっへっへっ、今頃はお前の妹や弟は変態どもに売られ可愛がられている頃だろうよ、それもこれも税を払えないお前らが悪いのだ! 儂はお前らの領主だぞ! それに立てつくとは!!」
ベリルはイパネマにに対してザックを葬った剣を振り上げる。
「全く、何時の時代もこいつらには反吐が出る!」
どすっ!
「ぐふっ!」
ベリルは口から血を吐きその場に倒れる。
そして床に赤い血を流し動かなくなる。
「そこのあなた、立てる? あなたは自由よ。ここから逃げる事をお勧めするわ」
見ると褐色の肌に長い耳、小柄な少女は口元を隠す布を下げてイパネマを見ていた。
「だ‥‥‥れ‥‥‥?」
ザックの死体に覆いかぶさり泣いていたイパネマはその少女を見上げた。
「私はクク、この腐った世の中を破壊する者よ。あなた、村の者ね? 今ならまだ間に合うわ逃げなさい」
そう言って彼女は立ち去ろうとする。
「待って! 私もついて行く!! こいつらを、皆殺しにしてやる!!」
ククはそう言うイパネマを見る。
そして「ついてきなさい」とだけ言ってその場を離れる。
* * * * *
「これよりお前にはスペシャルの中でも最高峰の十二使徒の座を与えよう。我ら秘密結社ジュメルはこの腐った世界を滅ぼすのだ。すべてを無に!」
神父姿の男にそう言われククから「時の指輪」を渡される。
「イパネマ、いえ、イパネマ様。私の命ある限りあなたに従います。我らジュメルの悲願を達成する為に永遠の時を私と共に」
イパネマは静かに頷きその指輪を左手の薬指にはめる。
次の瞬間ダークエルフのククとイパネマの命が「命の木」でつながり永久の鎖でつながれたのだった。
* * *
『イパネマ、あなたはですわ‥‥‥』
「見るなぁ! 私の過去を見るなぁっ! もうこんな世界たくさんよっ!! 全て滅べばいい! 巨人たちよエルハミを、あの女を殺せぇっ!!」
イパネマ。
本当はとてもやさしい女性。
だからこそ世界の破滅を望む。
たくさんの悲しみを終わらせるために。
でも、この世界はたくさんの優しさに包まれている。
だから‥‥‥
『させませんわ! 逆スパイラル発動!! アイミ、巨人たちを異界へと飛ばしますわよ!!』
ぴこっ!!
次の瞬間天空にいくつもの黒い渦が発生してそれは急速に台風の目の様になっていく。
そして異空間が開き巨人たちを次々と飲み込んで行く。
「くはぁ! 相変わらず凄い!! あ、融合魔怪人たちまで!?」
シェルは空を仰ぎ見る。
巨人と共に融合魔怪人たちもどんどんと黒い渦に吸い込まれていく。
それはまるで竜巻に吸い上げれれるかのように。
『エルハイミ!!』
『あっ! ティアナあたしも行く!』
ティアナとマリアは慌てて初号機から降りて来てあたしのもとへ駆けつける。
『大丈夫ですわ、今度は失敗しませんわよ。アイミも私も万全なのですから』
あたしは念話でティアナに声をかける。
「エルハイミ‥‥‥ うん、信じる。私のエルハイミ!」
そう言ってティアナはあたしの背に回りあたしに抱き着いてくる。
それはとても暖かく安心できる感触。
「しかしそのぬくもりが、その優しさが結局悲劇を生むのよ! 人はその優しさに安堵しそしてその甘えで更に非道を繰り返す。だったらそんなぬくもりも優しさもいらない! すべて消えて無くなればいいのよ!!」
イパネマは呪文を唱えあたしたちに攻撃魔法を放って来る。
しかしティアナが張った【絶対防壁】でそれらは防がれてしまう。
『悲しい人、でも私たちは負けるわけにはいかない。ティアナ!!』
「ええっ!」
あたしとティアナはイパネマに向かって手をかざす。
そして重なったあたしとティアナの手から赤い光が急速に収縮していく。
『「【爆裂核魔法】!!」』
あたしとティアナが同時に力ある言葉を発する。
次の瞬間収縮された赤い光は一気にイパネマに向かって放たれる。
それは業火の炎と爆風。
人なんて一瞬で消し炭になってしまう。
「イパネマっ!」
迫る光を遮るようにダークエルフのククがイパネマをかばうように抱き着く。
「クク?」
「まったくあなたは最後まで‥‥‥でも好きよイパネマ‥‥‥」
光りが覆う中ククはイパネマに口づけした。
そして次の瞬間二人の姿は光と爆風にかき消されたのだった。
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