第十四章14-35レイムの知らせ
おっさんが異世界に転生して美少女になっちゃうお話です。
異世界で力強く生き抜くためにいろいろと頑張っていくお話です。
え、ええとぉ、確かこうやって決めポーズっと(ティアナ談)
14-35レイムの知らせ
「エ、エ〇ス〇ローション‥‥‥ ぢゃなかった、【爆裂核魔法】!!」
おいティアナ、今噛んだな!?
なに無理して眼帯付きのつるぺた赤い魔導士の真似してんのよ!?
あたしたちは丘の上の古城が業火に焼かれ塵へと化すのを見ていた。
あの後ベルトバッツさんが一応他も調べてもう誰も捕まっていないのを確認してから「異空間渡り」の魔法であたしたちも脱出した。
そして残った魔怪人たちを一掃する為に今ティナが【爆裂核魔法】ですべてを塵へとふっ飛ばしたところだ。
あたしが仏頂面で戻って来たからティアナは何が有ったか聞かず吹き飛ばす事に問題が有るかだけ聞いてからぶっ放した。
うーん気を使わせたかな?
「港の方もコクたちが暇だからと言って魔怪人たちを殲滅に向かいました。これでサフェリナでのジュメルのアジトは壊滅です」
なんとなくあたしをチラ見しながらティアナはそう言う。
ふう、やっぱり気を使ってくれているんだ。
あたしは気持ちを切り替えティアナに微笑む。
「終わりましたわね」
「ええ、終わりました。アインシュ商会に戻りましょう」
ティアナは安堵した様子で他の人に見られない様にあたしに小さく微笑み返してくれた。
* * * * *
「流石ですねティアナ将軍。船員たちの大半を救出してくれるなんて」
「全ての者は救えませんでした。しかもジュメルの十二使徒の一人も取り逃がしてしまいました」
あたしは戻る途中に古城で何が有ったかティアナに話した。
その時ティアナはあの十二使徒の一人クシュトリア司祭がいたことに驚きその場にいなかった事を残念がっていた。
ティアナの心境としては幹部である十二使徒は何が何でも仕留めたい所だったのだ。
「それでもジュメルの拠点を壊滅しました。我々サフェリナ共和国としましても次は後れを取りません。アインシュ商会は全面的にジュメルに対抗する事としましたから」
そう言いながらロザリナさんはあたしを見る。
「エルハイミさん、あの改造船はそのまま私たちで使っても?」
「かまいませんわ。あのくらいで世界の軍事バランスが崩れることは有りませんわ」
そう言ってあたしはお茶を飲む。
ロザリナさんはそんなあたしを見ながらため息をつく。
「エルハイミさんが関わるとやはり私の思惑はいつも覆される。独り勝ちの大儲けはなかなかさせてもらえませんね」
「むしろ長く私たちと取引した方が良いのではないのですの?」
あたしがそう言うとロザリナさんは楽しそうに笑った。
「優秀な後輩を持つと先輩としての威厳を保つのが大変ですね? ティアナ将軍、我々は対ジュメルに対して協力を惜しみません」
そう言って握手を求めてくる。
ティアナはロザリナさんの手を握り返す。
こうしてあたしたちは貿易都市サフェリナでの用事を全て済ませたのだった。
◇ ◇ ◇
「う~、いくら精霊の扱いが上手くなってもやっぱり海上は苦手だわぁ~」
シェルは相変わらず文句を言いながら甲板の風当たりの好い所にいる。
あたしたちはもう少しでボヘーミャに到着をする。
そんなシェルの横にあたしは何となく海を眺めていた。
あの力、もう一人のあたし、アガシタ様、十二使徒クシャトリア司祭。
やはり今回もいろいろと有った。
そしてギリギリの所も結構あった。
ヨハネス神父に対する力は何とかなった。
でもまだまだ制御に問題が有る。
あたし自身がもっと強くならないといけない。
でないともう一人のあたしに今のあたしが飲み込まれ取り返しのつかない事が起こってしまう。
あの力でもう一人のあたしになって知ったことが有った。
それはこの世界の女神は時間の操作が出来ないと言う事だ。
つまり過去の改編も未来への操作も出来ないと言う事だ。
いくら女神とは言え万能ではない。
そしてもう一つ、寿命を延ばしたりは出来ても「死」自体は操れないと言う事。
もし肉体と魂のつながりが切れてしまうといくら女神とは言えもう元には戻せないと言う事だ。
それは自分たちに対しても同じで自力だけでは元の肉体を取り戻すことは出来ないようだ。
ほんと、万能じゃないんだなぁ~。
でもアガシタ様が言ってたあれ。
―― 全ての枷が外れれば君は女神以上の力を手に入れられるだろう ――
もしそれが出来ればティアナの魂と肉体のつながりを元に戻せるのじゃないだろうか?
あたしは自分の手を見る。
あたしはシェルと共の時間を過ごす者。
どうあがいても今のティアナとずっとはいられない。
ティアナは転生してまたあたしと一緒にいられる。
それだけはあたしにとっての不幸中の幸いだった。
でも、本心では今のティアナとずっと一緒にいたい。
「ふう、あの力が上手く使えればティアナも同じ時間を生きられるのでしょうかしら?」
「それはやめておいた方が良いですね。あのお方の力はこの世界では絶大すぎますから」
いきなり声をかけられた。
あたしはびっくりして声のした方を見る。
するとそこには年の頃十三歳くらいのメイド服の美少女の外観をした美少年が立っていた。
「レ、レイム様?」
「こんにちはエルハイミさん。あまりこの世界であのお方の力を乱用はしてもらいたくないんですけどね、結局後始末は僕らがやらされるのですから」
レイム様は世間話でもするかのようにあたしの横まで来る。
シェルも遅れて気付き驚く。
「うえっ! レイム様ぁ!?」
「シェルさん、こんにちわ。さてエルハイミさん、この世界は女神様たちによって作られた。しかしあなたのあの力はこの世界の物ではない。もっと上の世界の力。そんなものがたやすく人間に扱えるはずが無いでしょう?」
言いながら海を見る。
「もうすぐボヘーミャですか。ユカは元気にしていますか?」
「レイム様、マリアを通してご覧になられているのでしょう?」
あたしのせい一杯の皮肉にこの少年は笑って返してきた。
「勿論見てますよ。でもね、彼女の本心までは見えない。本当は自分もあなたたちと共にジュメルの殲滅に動きたいのでしょう。マーヤの為にも」
そして意地悪そうな笑顔になる。
「君たち人間を見るのは本当に面白い。でもね僕自体は君たちがどうなろうと興味は無い。今もアガシタ様の命が有ったから来ただけなんだよ」
「アガシタ様の?」
あたしがそう聞くとレイム様は真顔に戻る。
「ジュメルは既に確保した『風の女神メリル』様、『戦の女神ジュリ』様、そしてとうとう『知恵の女神オクマスト』様の杖まで手に入れました。残るは古竜の赤竜が持つ『炎の女神シェーラ』様の杖だけです」
「!!」
あたしはレイム様のその言葉に衝撃を受ける。
ジュメルは世界中で「女神の杖」を手に入れる為に動き出した。
当然あたしたちが動いている間にもあちらも動く。
「ジュメルが‥‥‥」
「本当に厄介な連中ですよ。おかげで僕が『彼女』を助けに行かなければならないなんてね。同じ女神の分身のくせして力が弱いのだから。オクマスト様も何を考えているのやら」
やれやれという雰囲気でレイム様は肩をすくませる。
そしてまた海を見る。
「エルハイミさん、最後のシェーラ様の杖を取りに行くのでしょう?」
「それは、勿論ですわ!」
レイム様は海を見たままおもむろにメイド服を脱ぎ始める。
うわっ!
ちょっ、ちょっとぉっ!
何いきなり脱いでいるのよっ!!
しかし上半身をあ露わにしたレイム様の背中を見てあたしは息を飲む。
そこには深い傷が有った。
「ヨハネスにはかなりのダメージを与えました。多分あちらも当分動けないでしょう。最も僕もこんな傷を負ってしまいましたがね」
「うそっ、レイム様に傷を!?」
シェルもその傷に驚いている。
女神の分身でありその力は絶大なはずのレイム様。
そのレイム様に傷を負わせるなんて‥‥‥
レイム様は服を着直しこちらを向く。
「異界の悪魔王の力は侮れません。 しかし『狂気の巨人』の力はもっと厄介です。ライム姉さまの命を使ってでも半分しか倒せなかったのですから‥‥‥」
「ヨハネス神父、『狂気の巨人』・・・・・・」
あたしはその二つの名を口にする。
「そうそう、アガシタ様からの伝言です。『セミリア姉さまはへそ曲げたままだ、すまんがティアナは転生できるが後はどうなるか分からん』だそうです。ライム姉さまもコテンパンにやられて帰ってきましたが当分回復の為こちらに来れないでしょう。それと最後にエルハイミさん、学園都市ボヘーミャには注意してください。分かっているとは思いますが情報はあそこから流れています」
それだけ言ってレイム様の姿は薄くなり始める。
『エルハイミ! この感覚、レイムなの!?』
シコちゃんの念話が入る。
そして向こうからティアナたちがやって来た。
「おっと、シコちゃんにこんな僕の姿は見られたくありません。それではエルハイミさん、くれぐれも気を付けて」
最後にそう言ってレイム様は完全に虚空に消えた。
「エルハイミ、今のはレイム様ですか?」
『エルハイミ! レイムだったの? 大丈夫? 何かされてない??』
心配するティアナとシコちゃん。
あたしは静かに首を横にふってから話し始めるのだった。
評価、ブックマーク、ご意見、ご感想いただけますと励みになります。
誤字、脱字ありましたらご指摘いただけますようお願いいたします。




