第十四章14-14連合軍再始動
おっさんが異世界に転生して美少女になっちゃうお話です。
異世界で力強く生き抜くためにいろいろと頑張っていくお話です。
プ、プチドーナッツですか!?
なんというものを!
ドーナッツうまぁ~(コク談)
14-14連合軍再始動
「それではイオマ行ってきますわ。アンナさん、イオマをよろしくお願いしますわ」
あたしたちは一旦ガルザイルに戻る事とした。
そろそろ連合軍の駐屯場も完成するし訓練も順調に進んでいる頃だろう。
「大丈夫ですよ、ガルザイルまでならイオマちゃんが寂しく成ったら私がすぐに送り届けてあげますから」
「お姉さま。うん、大丈夫です。お姉さまこそ無理しないでくださいね」
ちょっと寂しいけどこれからの事考えるとこの選択はイオマにとっても悪くは無いと思う。
気丈に笑顔を見せているイオマの頬に手を当ててからあたしはもう一度言う。
「では行ってまいります。ちゃんといい子にしているのですわよ?」
「はい、お姉さま!」
そしてあたしたちはゲートを起動してガルザイルに戻るのであった。
* * * * *
王都に戻りあたしたちはアコード陛下に報告をして早速拠点となる郊外の駐屯所に向かう。
「それでティアナ、連合軍は再編成をして『女神の杖探索隊』、『第一軍』、『第二軍』、『第三軍』にしたわけですがこれからはどうするつもりですのですわ?」
「それについては考えてあります。『女神の杖探索隊』は今まで通り、そして『第一軍』から『第三軍』は定期的に各国の巡視を行う予定です」
馬車の中で揺られながらあたしはティアナに聞く。
そしてティアナはこれからについての考えを述べる。
「正直ヨハネスの様な化け物が出てきてはいくら魔装具で強化された『第一軍』から『第三軍』でも歯が立ちません。しかしジュメルの十二使徒全部がヨハネスほどの力を持つことはあり得ません。そこで他のジュメルの行動を抑制する目的も含め定期的に各国に連合軍を派遣して動向をつかみながらジュメルの勢力をそぎ落としていくべきだと思うのです」
確かにヨハネス神父だけではない。
他の十二使徒もまだまだいる訳だ。
「それにアンナのあの理論の実証が出来れば‥‥‥」
あたしはイオマを思い出す。
アンナさんは魔装具では太刀打ちできない融合魔怪人や巨人の存在に対して有効手段を考えている。
それは双備型魔晶石核を搭載したマシンドールたちの強化であったがそれでも追いつかなくなってきた。
そこでさらなる強力な魔晶石核の回路を開発、それに伴う異空間活用による安定性、そして巨人に対抗する「ガーディアン計画」。
本当はあたしも手伝いたいのだけど今はティアナの事が心配だし「女神の杖」の回収もしなければならない。
そしてヨハネス神父の脅威。
あたしは思わずこぶしを握る。
もうティアナにアイミの力は使わせない。
あたしがあの力を使いこなせれば‥‥‥
「そうするとあたしたちは『女神の杖』回収でまたいろいろな所に行かなきゃか」
一緒に馬車に乗っていたシェルは窓の外を眺めていたがあたしたちの会話に入って来た。
そしてマリアを呼ぶ。
「ねえマリア、今から変な事言うけど気にしないでちゃんと聞いていてね。エルハイミとティアナもこっちに」
「なんなんですの?」
あたしとティアナはシェルに呼ばれるままにマリアの前に来る。
「思い出したんだけど、マリアってレイム様とかライム様につながっていたわよね? だったらあの二人を経由でアガシタ様に直にお願いできるんじゃないの?」
「あっ!」
あたしは思わず声をあげた。
そうだった、マリアはレイム様たちの目となり耳となっていたのだった。
「ねえシェル、あたしってレイム様につながっているの? なんか怖い」
「大丈夫だって、マリアは悪い事何にもしてないんだから怖がる必要は無いわよ?」
そう言って手のひらをマリアに差し出す。
マリアはおずおずとシェルの手のひらに乗る。
「さ、エルハイミ、ティアナ」
そう言ってシェルはマリアをあたしたちに差し向ける。
「マリア‥‥‥ いえ、レイム様聞こえていますかですわ? 今までマリアが一緒だったから事情は分かっていますわよね? お願いですわ、アガシタ様に会わせてくださいですわ」
あたしがマリアに向かってお願いをする。
しかしシェルの手のひらのマリアは困惑したままだった。
「レイム様、いえ、マザーライム様でも構いません、どうか私たちの声をアガシタ様にお届けください。そして私たちにお力を与えてください!」
ティアナも真剣なまなざしでマリアを見る。
「お母様、フェアリー相手に何をしているのです? レイム? ライム? それは女神の分身ですか?」
今までの成り行きを見ていたコクはあたしたちに質問をする。
そう言えばコクはこの事を知らなかったんだっけ。
あたしがこの事を簡単に説明しようとしたその時だった。
『全く、良い様に利用されてしまいましたね? まあ姉さまからも言われていたし僕も楽しませてもらっていますからね』
およそマリアの声とは全く違う声変わりのしていない少年の声が聞こえてきた。
「レイム様!」
『お久しぶりですね、エルハイミさん、ティアナ殿下? いや、今は将軍でしたっけ。今までの話は大体聞いていました。しかし残念ながらアガシタ様はまたどこかにふらっと出て行ってここにはいないのですよ。全く困ったお方だ。姉さまはセミリア様の所へ行っていて戻って来ていないし、僕の担当だった異世界召喚の魔法回収もまさかあんなのが残っていたとはね』
マリアは焦点の定まらない表情で淡々とレイム様の声を届けてくれている。
『はっきり言ってあれは僕らの手でもかなりてこずります。そしてあなた方の今の力でもあれを倒すのは難しいでしょう。しかし弱点もある。あれは常にこちらの世界にいる間は魔素を消費しています。だからあなたたちとの戦いで一度失った腕の再生しただけで魔素の損失が大きくあの場は引いたのです。あれは上質な魂を狙っているでしょう。そう、エルハイミさんのような魂をね』
そこまで言って大きくため息をついたようだ。
『僕もアガシタ様を探してあげますよ。ただアガシタ様は今南方にお出かけのようだ。貴女たちにも南方に移動することをお勧めします。そうですね、サフェリナ共和国辺りが良いでしょう。今の僕が助言できるのはここまでです』
そう言ってマリアはふっと我に返る。
「あ、あれ? もしかして今あたしなんかしゃべっていた?」
「マリア、ご苦労様ですわ。おかげでレイム様と連絡が取れましたわ」
あたしはそう言ってポーチの中からドーナッツを取り出しマリアに手渡す。
「あー! ドーナッツ!! ありがとう、エルハイミ!」
マリアはプチドーナッツを両手に抱えて窓枠に座り美味しそうに食べ始めた。
「お母様! そ、それは何ですか!? 小さなドーナッツですか!?」
「落ち着いてですわ、コクの分もちゃんとありますわ。あのお店の新作、プチドーナッツですわ」
あたしはそう言ってポーチからそれらを出してコクたちにも渡す。
おやつに丁度好いかと思って買いだめていたのだ。
「エルハイミ、だんだんそのポーチの使い方が分かってきたようね?」
シェルはそう言いながら手を出して来る。
まあ、食べ物なんかは特に重宝して腐る事の無い入れた時のまま新鮮さ、出来たてを保てるのは確かにすごいと思う。
あたしはシェルにもプチドーナッツを渡しながらティアナを見る。
「南方、サフェリナ共和国‥‥‥」
「ティアナ、まずはこれをですわ。それにちょうど良いですわ商売の女神エリル様の杖はサフェリナの海底神殿に有るのでしょう?」
ティアナはプチドーナッツを持ったままもう一度「サフェリナ共和国」とつぶやいた。
「エ、エルハイミさん、私たちの分は無いのですか?」
「セレ」
ティアナの持つプチドーナッツを見ながらセレがあたしに聞いてくる。
あたしは苦笑してこの二人の分も取り出す。
「ちゃんとありますわ、じゃないと優しいティアナが自分の分をあなたたちに分けてしまいそうですからね」
「くっ! しまったミアム!! その方がご褒美だったわ!」
「セレ、だからエルハイミさんの行動には要注意なのよ!」
おいこら、素直に「ありがとう」はどうした?
あたしは二人にプチドーナッツを手渡しあたし自身も一個くわえる。
そして今だドーナッツをもってぼ~っとしているティアナに口にくわえたドーナッツを食べさせながらキスする。
「あ”ぁあぁぁぁぁーっ!!」
とたんに周りが騒がしくなる。
「んっ、ごくん、エルハイミ?」
「今は何も考えずドーナッツを楽しみましょうですわ」
「お母様! それ私にもしてください!」
「エ、エルハイミ、あたしにも!」
「ティアナ様、私たちにもしてください」
「ティアナ様!」
わいわいキャイキャイ。
この馬車の中はこうしてひと時のにぎやかさで満たされるのであった。
* * * * *
「ご苦労様です、ルジェイド、ガラ、ルノマン」
ティアナはそう言って闘技場に集まった顔ぶれに挨拶をする。
「ティアナ将軍、お帰りでありましたか?」
ロクドナルさんもいた。
しかし他の三人はぼろぼろになっている。
もしかしてあの訓練をこの三人も受けていたのかな?
あたしは回復魔法と浄化魔法をかけてあげる。
「た、助かります、エルハイミ殿」
「流石にこれはきつい‥‥‥」
「全くだ、こんな事続けていたらいくら体が有っても足らんわ」
三人はどうやらかなりロクドナルさんに絞られている様だ。
「弱音を吐いていてはいけません。ジュメルの十二使徒の一人、ヨハネスと遭遇しましたがあやつは悪魔の王の力を手に入れています。それは『魔人戦争』の魔人をも凌駕する力です」
ぴしっと言うティアナのその言葉にロクドナルさんを含むみんなが緊張をする。
「ティアナ将軍、それは本当ですか?」
「魔人をも凌駕するだって?」
「将軍、それは本当か?」
流石にこの三人は驚きを口にする。
しかしティアナは静かにこう断言する。
「私のあの力をもってしても倒せませんでした」
その言葉にこの三人は更なる衝撃を受ける。
「ティアナ将軍でさえ倒せなかった?」
「そんな馬鹿な‥‥‥」
「ティアナ将軍、それで対策はあるのか?」
さらに動揺する三人。
「落ち着きなさい、ティアナ将軍が無策で戦場に赴くはず無いでしょう?」
「そうですねぇ、ティアナ将軍ですもの、既に見込みが有るのでしょう?」
アラージュさんが三人を叱責し、カーミラさんがそう言いながらティアナを見る。
「正直今は対抗手段は少ないのです。しかし我々は止まるわけにはいかない。ボヘーミャではアンナが新たな試みを行っています。そして私たちもさらなる力を求め『女神の杖』探索を行いながら南方サフェリナ共和国へと向かいます」
ティアナはそう言いみんなの顔を見渡す。
「今後の予定は私たち『女神の杖探索隊』はサフェリナに赴きます。『第一軍』、『第二軍』はガレント国内の巡視、『第三軍』は引き続きロクドナル卿の指導の下訓練を続けます。三か月後『第三軍』を含み他国巡視を始めます」
「巡視ですか? しかし要請も無く動き回ってもよいものなのでしょうか?」
思わずルジェルドさんがティアナに聞く。
「ジュメルは狡猾でしかも暗躍が得意です。我々連合軍が各国を巡視する事によりその動きをけん制するとともに各国にも我々の存在を今一度誇示します。これよりの戦い、今まで以上に厳しくなるからです」
全体の引き締めと各国への再度警戒を怠らない様にしてもらうための軍事行動。
今の連合軍ではそれが精一杯だろう。
ボーンズ神父が持ち出したあの種の様な魔法具もまだまだたくさんあるらしいし、寿命が短くても魔怪人クラスの力を出せるあれは脅威だ。
連合軍にはアンナさんが開発した魔装具が有る。
これならかろうじて魔怪人クラスには対抗できる。
そして万が一巨人が出ても時間稼ぎくらいはできる。
確かにこれからの戦いはさらに厳しくなるだろう。
正直連合軍もテコ入れしなければ対抗できなくなってくるだろう。
「今は世界が一丸となってジュメルを叩かなければいけない時。『女神の杖』をいち早く回収してジュメルの野望を打ち砕かなくてはなりません。そして新たな力を手に入れヨハネスを倒さなければならないのです」
ティアナはそう言ってみんなを見る。
するとアラージュさんたちはその場に整列して左胸に右手を当て一斉にこう言う。
「「「「「世界平和の為我が心臓を差し出す!」」」」」
びしっと誓いの言葉を言ってみんなティアナ将軍を見る。
ティアナも同じく左胸に手を当て言う。
「ジュメルを滅ぼす為我が心臓を差し出す!」
こうして新制連合軍はその活動を再開するのであった。
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