第十三章13-15マリア
おっさんが異世界に転生して美少女になっちゃうお話です。
異世界で力強く生き抜くためにいろいろと頑張っていくお話です。
ジュメルには「馬鹿め」と言ってやりなさい!(ティアナ談)
13-15マリア
「何もかもが懐かしい‥‥‥」
ティアナは部屋に入って中を眺めてからそうつぶやいた。
あたしやイオマ、コクやクロさんクロエさん、それにセレとミアムもとりあえずあたしたちの部屋にやって来た。
シェルやショーゴさんは以前使っていた自分の部屋に行っている。
「あの日のままですわね、ティアナ?」
「エルハイミ、すみませんでした」
みんなが見ている前でティアナはあたしに抱き着いて来た。
その眼の端には光るものが‥‥‥
「もうあなたを思い出すことが怖くなってこの部屋を出た。ジュメルだけを滅ぼすのが私の使命と思っていた。だがもう一度あなたを取り戻す事が出来た‥‥‥ こんなにうれしい事は無い、私には帰ってこれる所があった。あなたともう一度‥‥‥」
そう言ってティアナは更にあたしを強く抱きしめそのまま唇を奪う。
「んっ、ティアナぁ」
あたしはその強烈な口づけにドキドキしながらいったん離れてティアナの顔を見る。
そこにはあの頃の優しいティアナの笑顔が有った。
「うー、お姉さま見せつけなくたっていいのに!」
「くっ、お母様、赤お母様、理解はしますが納得は出来ません! 今は離れてください!!」
『そうね、そのまま放っておくといろいろ始めちゃうからそろそろ止めないとね。』
「こ、ここがティアナ様たちの愛の巣‥‥‥ う、うらやましい!」
「ああっ! セレ見てあのベッド! あんなに広くて大きい! くっ、あそこでエルハイミさんは色々とかわいがられて‥‥‥ く、悔しいわセレ!」
なんかみんな文句を言ってくるがあたしははにかみながらティアナから離れ、接客用のテーブルにみんなを案内する。
椅子も何とかギリギリ足りたようなので早速使用人を呼んでお茶を入れてもらう。
みんな席についてもらってからお茶をふるまう。
でも、あたしとティアナだけは二人掛けのソファーに座る。
「お姉さま、そのソファーってもしかして専用ですか?」
「悔しい、見せつけるなんて酷いですエルハイミさん!」
「セレ、落ち着いて。エルハイミさんがいない所で私たちもティアナ様におねだりするのよ!」
ふふん、ここはあたしたちの愛の巣。
すべてがあたしの手中なのだから部外者が騒いでも無駄よ!
あたしはティアナに寄りかかりにっこりとほほ笑む。
『はいはい、二人ともこれ以上みんなを挑発しないの。うれしいのは分かるし見せつけたいのも分かるでしょうけどエルハイミはまだまだみんなに顔合わせしなきゃでしょ? 貿易ギルドや冒険者ギルドなんかもあなたが来るって話行ってるのでしょうから』
そうだった。
危うく浮かれて当初の目的を忘れる所だった。
あたしがそんな事を思っていると部屋の扉が開いた。
「エルハイミねーちゃんとティアナねーちゃんが戻って来たんだって!?」
勢い良く扉を開いたのはジルだった。
しかしあたしの知っているジルと大きく変わっていた。
少年だったはずのジルはあたしより背が高くなって顔つきも精悍になり、そしてたくましくなっていた。
「お帰り、ティアナねーちゃん、エルハイミねーちゃん!」
「ジル、久しぶりです。元気そうで何よりです」
「ジル、ただいまですわ」
あたしやティアナはそんなジルを見てうれしくなった。
見た目は変わってもジルはジルのままでいてくれたようだ。
ジルはにっこりと笑いながら懐を開く。
「ほら、大丈夫だって、出て来いよマリア」
するとジルの開かれた胸元からもぞもぞと天真爛漫なはずのマリアがびくびくしながら出てきた。
「ティアナ‥‥‥? え、エルハイミ?」
しかしマリアはあたしの姿を確認すると涙で顔を崩しながら飛んで来た!
「エ”ル”ハ”イ”ミ”~!! 本当だ! エルハイミが帰ってきたぁっ!!」
あたしは胸に飛び込んでくるマリアを受け止め優しく手を添える。
「ただいまですわ、マリア」
しかし顔をあげたマリアは涙でクシャクシャだった。
「エ”ルハ”イミ”ぃ~、ぐずっ、本物だ! よかったぁ! 戻ってこれたんだね!?」
「ええ、勿論ですわ。元気にしていましたの?」
ヒックヒックとしながらマリアは手で涙を拭き取る。
「う”ん”、ジルがいろいろしてくれた。エルハイミもシェルもいなくなっちゃって、あたし、あたしぃ~」
そしてまた顔をあたしの胸にぐりぐりと押し付ける。
「まあ、エルハイミねーちゃんの事だ、きっと無事戻ってくると思ってたよ。なあ、マリア、ティアナねーちゃんだってもう怖くないだろ?」
マリアは一瞬びくっとするけど恐る恐るティアナを見る。
そしてゆっくりと口を開いた。
「ティアナは、もうあの怖いティアナじゃないよね? エルハイミが戻って来たんだから‥‥‥」
「マリア、ごめんなさい。あの時は私もどうかしていました」
横にいるティアナは目を伏せそう言ってからやさしい顔つきでマリアを見る。
「あの時はあなたにも当たってしまいましたね。本当にごめんなさい。でも、もうそんな事は二度としません。エルハイミが戻って来てくれたのですから」
そして優しく笑う。
マリアはそんなティアナを見てふわっと飛び上がりそして今度はティアナの胸に飛び込んでいった。
「ティアナぁ~!! みんないなくなっちゃって寂しかったよぉ~!!」
わんわん泣くマリアをティアナは優しくなでてあげる。
あたしはそんなティアナを見てやっと昔のティアナが取り戻せたのではないかと安堵の息を吐く。
ティアナ、ごめんね。
やっぱりティアナも苦しんでいたんだ。
ティアナはあたしにはその事を一切口にしない。
ただ、ただ、あたしが戻って来たことを喜んで謝罪して包み隠さず愛人の事も言って‥‥‥
そしてあたしを愛してくれた。
ちょっと悔しいけどティアナとはやっと正式に一緒になれたし、セレとミアムの二人にはあたしなりに同情はする。
だからあたしがいない所、あたしの目の届かない所ではティアナの浮気を許す事にした。
都合の良い女じゃなく、理解のある女よ?
王族の中には側室を取る人もいる。
そう考えると仕方ない気持ちも出てくる。
でも結局は惚れたが負け、あたしがティアナを大好きで愛しているのに変わりはない。
あたしがそんな事を思いながらその光景を見ているとシェルやショーゴさんもやって来た。
「なに? マリアじゃない! 久しぶりぃ、元気だった? って、あんたジル?」
シェルは大きくなったジルを見て驚いてる。
「シェルねーちゃんにショーゴさん!」
「あら? 賑やかね? みんなここに居たのね?」
シェルがジルと話しているとライム様がエスティマ様とゾナーを引き連れてやって来た。
あー、みんな集まっちゃった‥‥‥
「じゃあ、ここで始めちゃおうかしら?」
「えっですわ?」
ライム様は酒瓶を取り出しエスティマ様とゾナーに指示する。
「ちょうどみんなもいる事だし、私の歓迎会はここで始めましょう! さあ、飲むわよ!!」
あ”ーっ!
こ、この流れ、このまま大宴会の始まりだ!
あたしはティアナと顔を見合わす。
しかし宴会の準備はこの部屋で着々と進んでいる。
『まあ、一晩位お預けの方が貴女たちには良いわね。諦めなさい』
シコちゃんにここぞとばかり言われるあたしとティアナ。
思い切り大きなため息をつくあたし。
せっかく自分の部屋に戻れてティアナと熱い夜を過ごしたかったのにぃっ!
あたしのそんな気持ちは置かれたまま目の前で宴会が始まって行くのだった。
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